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<解説>経済安全保障を巡る米中覇権争い~輸出管理を焦点に~

安全保障の裾野は経済・技術分野に急速に拡大し、安全保障と経済を横断する領域において、国家間の競争が激化している。特に米中間の覇権争い、中でも輸出管理を巡る両国の動向は注目すべきものがある。この背景には、AIや量子といった技術分野が萌芽する中、こうした民生分野由来の先端技術が安全保障に大きな影響を及ぼしうるという事情があり、これらの分野やそれを支える先端半導体等の技術に優位性を持つ両国において、技術流出防止の観点から輸出管理を巡る施策の応酬が行われている。

米国は、国防授権法2019により、新たな輸出管理の法制度たる輸出管理改革法(ECRA)を成立させたが、本法及び関連する同時期の施策では、新興技術や基盤技術を対象とした規制の検討、エンティティ・リストの活用、軍事エンドユーザー・軍事エンドユース規制の見直し等の施策が展開されている。これは、最新の技術、あるいは既存の技術ではあるが、特定の重要産業の基盤を支えており、米国が優位性を有するような技術であって、国家安全保障上重要なものへと、その管理の網を広げるとともに、懸念主体を具体的にすることで、対中国を念頭に合理的かつ効果的な輸出管理を運用するねらいがあるとの指摘がある。

他方で、中国では、2020年に輸出管理法が成立、施行された。「国家の安全と利益」という広範な法目的を有する同法は、再輸出規制、域外適用等を含み、極めて強力な規制に法的裏付けを与えるものである。未だに下位規則や、規制対象品目の全てが明らかになっておらず、その運用については現在に至るまで不透明な点が多いが、例えば、再輸出規制については、法の条文には具体的な規定がなく、下位規則で、中国製品内蔵品の第三国への輸出の際に中国の許可を受けなければならない仕組みとされる可能性も指摘されている。この場合、中国製の部品がある製品のサプライチェーンに組み入れられていることにより、企業活動に大きな制約を課せられることとなる。加えて、本法には、輸出管理措置により中国の安全と利益を損ねた場合の報復措置が規定されており、全体として米国への対抗措置や輸出管理により他国に影響力を発揮するための手段としての色合いが強くなっている。

米中間の輸出管理を巡る動向については、わが国の防衛生産・技術基盤にも少なからず影響を与えうることから、引き続き注視していく必要がある。