第III部 わが国の防衛に関する施策
4 F-35A生産への国内企業参画
1 次期戦闘機F-35Aの取得

F-35は、米国を中心に、英国、イタリア、オランダ、トルコ、カナダ、オーストラリア、デンマークおよびノルウェーが加わった9か国により01(同13)年秋から本格的に共同開発が始められた最新鋭の戦闘機である。その特徴はステルス性や状況認識力に優れていることであり、いわゆる第5世代戦闘機に分類されている。F-35は現時点では開発中の機体であるが、共同開発国以外にも将来的な導入を予定・検討している国もあることから、最終的には世界各国で3千機を超えるF-35が取得されると見込まれている。
わが国は、11(同23)年12月20日、F-35AをF-4戦闘機の後継機である次期戦闘機とすること、平成24年度以降、F-35Aを42機取得すること、一部の完成機輸入を除き国内企業が製造に参画することなどを決定した(安全保障会議決定・閣議了解)。
わが国周辺の安全保障環境が一層厳しさを増している中で、優れた能力を有するF-35Aの着実な取得を図っていくことは、わが国の防衛にとって喫緊の課題である。
同時に、F-35Aを含む航空自衛隊の戦闘機について、将来にわたり、安全性を確保しつつ、高い可動率を維持し、わが国の運用に適した能力向上を行っていくためには、防衛生産・技術基盤の維持・育成・高度化が重要である。機種選定にあたって、国内企業がF-35の製造に参画することが決定されたのはこのような考え方によるものである。

国内企業が製造参画する次期戦闘機F-35
国内企業が製造参画する次期戦闘機F-35
2 国際的な後方支援システムへの参画と武器輸出三原則等の例外化

F-35の維持管理においては、同機が多くのユーザー国の存在を前提とする国際共同開発機であることを背景に、全てのユーザー国の参加を想定したALGS(Autonomic Logistics Global Sustainment)という国際的な後方支援システムが採用されている。
(図表III-3-4-1参照)

図表III-3-4-1 ALGSイメージ図

ALGSの特徴は、全てのユーザー国が世界規模で部品などを融通し合うことである。従来、各国は、自国の戦闘機の維持整備に必要な部品などについて、それぞれ独自に取得し、在庫として管理していた。しかし、本システムのもとでは、全てのユーザー国が共通の在庫プールを通じて部品などを融通し合うことから、各国は、保有する在庫を最小限に抑制できるとともに必要なときに速やかに部品などの供給を受け、迅速な整備を行うことができる。本システムへの参加により、各国は、F-35の可動率の維持・向上を図りつつ、関連経費の削減を図ることが可能になる。また、ALGSにおいては、世界規模で部品などを融通するという性格から、ユーザー国間では部品などが柔軟かつ効率的に流通し、いずれの国がどの部品などを製造したのかという区別は行われない。他方で、ALGSでは、F-35の部品などの移転が、米国政府により一元的かつ厳格に管理されている。具体的には、F-35の部品などについて、F-35ユーザー国以外への移転は厳しく制限され、また、移転は国連憲章の目的と原則に従うF-35ユーザー国に対するもののみに限定される。
わが国にとって、F-35を円滑に運用していくためには、本システムへの参加が必要である。一方、ALGSの下で国内企業がF-35の製造に参画した場合、国内企業が製造した部品などが他のユーザー国に移転することが想定される。そのため、ALGSへの参加と国内企業の製造参画を両立させるためには、国内企業の製造参画と武器輸出三原則等との関係について整理することが必要であった。
このような状況を踏まえ、政府は、13(同25)年3月1日、F-35の製造などにかかる国内企業の参画についての内閣官房長官談話を発出した。同談話は、国内企業の製造参画がわが国の安全保障に大きく資することに鑑み、ALGSの下、国内企業が製造もしくは保管を行うF-35の部品などまたは国内企業が提供するF-35にかかる役務の提供については、米国政府の一元的な管理の下で、F-35ユーザー国以外への移転を厳しく制限することおよび移転は国連憲章の目的と原則に従うF-35ユーザー国に対するもののみに限定されることなどにより厳格な管理が行われることを前提として、武器輸出三原則等によらないこととしたものである。
同談話の発出により、ALGSの下での国内企業の製造参画が可能となったことは、航空自衛隊戦闘機の運用・整備基盤の維持、最先端の戦闘機技術・ノウハウに接することによる防衛産業および技術基盤の維持・育成・高度化、さらに、部品供給の安定化や米軍に対する支援を通じた日米安保体制の効果的運用といった観点から、わが国の安全保障に大きく資するものである。
なお、今般の談話によりF-35製造参画については武器輸出三原則等によらないこととしたが、政府としては、国連憲章を遵守するとの平和国家としての基本理念は維持していく考えである。一方で、ALGSのようなユーザー国が世界規模で部品などを融通し合う方式は、各国とも厳しい財政事情の下で防衛装備品の価格や維持費の高騰という課題を抱える中、今後国際的に主流になる可能性がある。このような方式へのわが国の参画のあり方や武器輸出三原則等との関係については、国際的な動きや安全保障上の意義を踏まえ、今後検討していく必要がある。
参照 資料80

3 平成25年度における国内企業の製造参画

わが国は、平成25年度以降のF-35Aの取得に際して、国内企業の製造参画を図っていくこととしている。平成25年度においては、米国政府などとの調整を踏まえて、機体の最終組立・検査(FACO:Final Assembly and Check Out)、エンジン部品の一部、レーダー部品の一部について製造参画する予定である。
国内企業がFACOに必要な能力や施設を有することは、
○ 機体が破損し、主翼や胴体などの主要構造部位の修理・交換など、部隊では実施できない作業の必要が生じた場合でも、機体を海外に輸送することなく国内で迅速に対応することができる
○ 将来的に国内でF-35Aの能力向上を図る際などに、国内で改修作業を行うことができる
など、F-35Aに対する運用支援を効果的に実施する上で重要である。
また、航空機の飛行安全に直結する部位であるエンジンや、戦闘機の戦闘能力に直結するミッション系アビオニクスは、F-35Aの運用にとって重要な部位であり、国内企業がこれらの部品の製造に参画し、技術やノウハウに習熟することは、高い可動率の維持や安全性の確保など、航空自衛隊のF-35Aを安全かつ効率的に運用する上で重要となる。
防衛省としては、平成26年度以降も、運用支援上の重要性やコスト面の実現可能性などを踏まえて、米国政府および関連企業と調整の上、どの部品などを国内製造するべきか決定していく考えである。(図表III-3-4-2参照)

図表III-3-4-2 FACOイメージ図
 
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