自国防衛の目的で購入・開発を行った兵器であっても、国内生産が軌道に乗ると、輸出が可能になり移転されやすくなることがある。たとえば、通常戦力の整備に資源を投入できないためにこれを大量破壊兵器などによって補おうとする国家に対し、政治的なリスクを顧みない国家から、大量破壊兵器やその技術などの移転が行われている。大量破壊兵器などを求める国家の中には、自国の国土や国民を危険にさらすことに対する抵抗が少なく、また、その国土において国際テロ組織の活発な活動が指摘されているなど政府の統治能力が低いものもある。このため、こうした場合、一般に大量破壊兵器などが実際に使用される可能性は高いと考えられる。
さらに、このような国家では、関連の技術や物質の管理体制にも不安があることから、化学物質や核物質などが移転・流出する可能性が高くなっていることが懸念されている。たとえば、技術を持たないテロリストであっても、放射性物質を入手しさえすれば、ダーティボム1などをテロの手段として活用する危険があり、テロリストなどの非国家主体による大量破壊兵器の取得・使用については、各国で懸念が共有されている2。
パキスタンは、70年代から核開発を開始したとみられており、04(同16)年2月には、カーン博士らにより北朝鮮、イラン、リビアに主にウラン濃縮技術を中心とするパキスタンの核関連技術が移転されたことが明らかになった。
北朝鮮については、米国は、02(同14)年10月にケリー米国務次官補(当時)が訪朝した際、北朝鮮が核兵器用ウラン濃縮計画の存在を認めたと発表しており、北朝鮮がプルトニウム型だけではなくウラン型の核兵器開発を進めている可能性が明らかになっていたが、10(同22)年11月、北朝鮮は訪朝した米国人専門家に対してウラン濃縮施設を公開3、また、軽水炉の燃料のために数千基規模の遠心分離機を備えたウラン濃縮工場が稼動していると発表した。このほか、北朝鮮が、シリアの秘密裡の核関連活動を支援していたとの指摘もある4。
参照 1章2節
大量破壊兵器の移転・拡散に対して、国際社会の安易に妥協しない断固たる姿勢は、こうした大量破壊兵器関連活動を行う国に対する大きな圧力となり、一部の国に国際機関の査察を受け入れさせ、または、大量破壊兵器計画を廃棄させることにつながっている5。
弾道ミサイルについても、移転・拡散が顕著であり、旧ソ連などがイラク、北朝鮮、アフガニスタンなど多数の国・地域にスカッドBを輸出したほか、中国による東風3(CSS-2)、北朝鮮によるスカッドの輸出などを通じて、現在、相当数の国が保有するに至っている。特に、パキスタンのガウリやイランのシャハーブ3は、北朝鮮のノドンが元になっているとされている。
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