2 自衛隊の訓練
(1)各自衛隊の訓練
各自衛隊の部隊などで行う訓練は、隊員それぞれの職務の練度向上を目的とした隊員個々の訓練と、部隊の組織的な行動を練成することを目的とした部隊の訓練とに大別される。
隊員個々の訓練は、職種などの専門性や隊員の能力に応じて個別的、段階的に行われる。部隊の訓練は、小部隊から、大部隊へと訓練を積み重ねながら、部隊間での連携などの大規模な総合訓練も行っている。
参照 資料67
また、このようなわが国の防衛のための訓練に加え、近年の自衛隊の任務の多様化に対応した訓練の充実にも努めている。
参照 1章2節5、
3章1節1
(2)統合訓練
わが国への武力攻撃などが発生した場合に、自衛隊が、その能力を最も効果的に発揮するためには、平素からの、陸上・海上・航空自衛隊の統合訓練が重要である。このため自衛隊は、従来から二以上の自衛隊が協同する統合訓練を行ってきたが、06(同18)年3月の統合運用体制への移行にともない、統合訓練をさらに充実・強化している5。
参照 資料67
(3)教育訓練の制約と対応
自衛隊の訓練は、可能な限り実戦に近い環境において行うよう努めており、さまざまな施設・設備6を有しているが、制約も多い。
特に、訓練を行う演習場や空域・海域、射場などが、必ずしも十分な広さとはいえないこと、地域的に偏っていること、使用できる時期に制限があることなどの制約7は、装備の近代化などにともない、ますます拡大する傾向にある。また、実戦的な訓練の一つとして実施する電子戦8環境下での訓練についても、電波干渉の防止の観点から制約がある。
各自衛隊は、こうした制約に対応するため、限られた国内演習場などを最大限に活用しているほか、国内では得られない訓練環境を確保できる米国およびその周辺海域において、実射訓練や日米共同訓練を行うことなどを通じて、より実戦的な訓練を行うよう努めている。
参照 資料68
(4)安全管理
自衛隊の任務が、わが国の防衛であることなどから、訓練や行動に危険がともなうことは避けられない。しかし、国民の生命や財産に被害を与えたり、隊員の生命を失うことなどにつながる各種の事故は、絶対に避けなければならない。
安全管理は、不断の見直し、改善が不可欠であり、防衛省・自衛隊が一丸となって取り組むべき重要な課題である。防衛省・自衛隊では、今後も、平素からの艦艇・航空機の運航や射撃訓練時などにおける安全確保に最大限留意するとともに、海難防止や救難のための装備、航空保安無線施設の整備なども進めていくこととしている。
(5)護衛艦「あたご」と漁船「清徳(せいとく)丸」との衝突事故
昨年2月19日、護衛艦「あたご」と漁船「清徳丸」が衝突し、漁船の乗員2名が亡くなられた。国民の生命・財産を守るべき自衛隊がこのような事故を起こしたことは、あってはならないことである。防衛省は、本年5月22日、海上幕僚副長を委員長とする海上自衛隊艦船事故調査委員会による調査結果について公表した9。
本事故については、艦橋やCIC10における目視やレー
ダーによる継続的な見張り、当直士官による避航措置、適切な報告・連絡を含む当直員同士の連携など、艦艇の安全航行の基本となるような事が守られていなかったことが事故につながったものである。
今後の再発防止のためには、改めて基本に立ち返り、与えられた職務を確実に遂行していく必要があり、防衛省としては、二度とこのような事故を起こさないよう、今回の調査結果において取りまとめた再発防止策11を徹底していく考えである。
(6)海上自衛隊特別警備隊関係の課程学生の死亡事案
昨年9月9日、海自特別警備隊の要員を養成するための特別警備応用課程学生の3等海曹(当時)が、教官2人および学生15人とともに、格闘教務において連続組手を行った際に意識不明となり、同年9月25日に亡くなった。
防衛省は、同年9月10日以降、海自呉地方総監部幕僚長を長とする一般事故調査委員会が進めてきた調査の経過を中間報告としてとりまとめ、同年10月22日公表した。
本事案については、次の問題点があったと考えられる。一つは、教育訓練にかかる計画や管理が適切になされていなかったと考えられることであり、具体的には、本事案において行われた15人連続組手については、学生が有する技量や人数などの点を十分に考慮したとは認められないのではないかと考えられることである。また、入校取消が内示されている学生に対してこうした連続組手を行う必要性は認めがたいという点である。
本事案については、事故調査委員会における調査が行われているとともに、海自警務隊による捜査も行われている。防衛省としては、引き続き、事実の解明を厳正に進めるとともに、必要な再発防止策を講じる考えである。
5)わが国への直接の脅威を防止・排除するための演習である自衛隊統合演習、日米共同統合演習、弾道ミサイル対処訓練などのほか、国際平和協力活動などを想定した国際平和協力演習、統合国際人道業務訓練などがある。
6)たとえば、陸上自衛隊では、連隊・師団レベルの指揮・幕僚活動を演練するための指揮所訓練センター、中隊レベルなどの訓練を行うための富士訓練センターや市街地訓練場などである。
7)たとえば、戦車、対戦車ヘリコプター、ミサイル、長射程の火砲、地対空誘導弾(改良ホークやペトリオット)、地対艦誘導弾、魚雷などの射撃・発射訓練については、国内の射場が限られていたり、射程が長く国内では射撃ができないものがある。また、広大な訓練場を要する大部隊の演習、比較的浅い海域で行う掃海訓練や潜水艦救難訓練、早朝や夜間の飛行訓練などにも、さまざまな制約がある。