第III部 わが国の防衛のための諸施策 

3 災害対処への平素からの取組など

(1)災害対処への平素からの取組
 自衛隊は、自然災害などに迅速かつ的確に対応するために、災害派遣計画などの策定のほか、統合防災演習をはじめとする各種防災訓練を行うとともに、地方公共団体などの行なう防災訓練への積極的な参加を推進している。
 平成20年度は、防衛省総合防災訓練として、政府の近畿府県合同防災訓練と連携した自衛隊統合防災演習、静岡県総合防災訓練と連携した訓練、八都県市合同防災訓練と連携した訓練、国土交通省、九州の関係地方公共団体などと連携した津波防災訓練および経済産業省、文部科学省と連携した原子力防災訓練を行った。
 また、陸自の東北方面隊が、岩手・宮城両県を含む24自治体の参加を得て、訓練参加者約1万8,000名に及ぶ過去最大規模の震災対処訓練を行うなど、各部隊が関係地方公共団体などと防災訓練を行った。

(2)地方公共団体などとの連携
 災害派遣活動を円滑に行うためには、平素から地方公共団体などとの連携の強化も重要である。
 自衛隊は、各種防災訓練への参加のほか、情報連絡体制の充実、防災計画の整合など地方公共団体との連携の強化を推進している。
 自衛隊地方協力本部においては、「国民保護・災害対策連絡調整官」を設置し、地方公共団体との平素からの連携の確保に努めている。
 地方公共団体の防災などの業務に対し、自衛隊員としての経験、知識などを活用した人的協力を行うことは、地方公共団体との連携を強化する上で極めて効果的である。
 自衛隊は、東京都の防災担当部局に自衛官を出向させているほか、陸自の中部方面総監部と兵庫県の間で事務官による相互交流を行っている。また、地方公共団体からの要請に応じ、その分野に知見を有する退職自衛官の推薦などを行っている。こうした形で地方公共団体の防災関連部門などに在職している退職自衛官は、本年4月末現在、全国43都道府県・97市区町村に167名である。

参照 資料35

 さらに、防衛省・自衛隊が災害派遣活動をより効果的に行うために、地方公共団体において、次の点について具体的に取り組むことが重要である。

ア 集結地およびヘリポートの確保
 災害派遣部隊の現地における指揮所や宿泊・駐車・必要資材の集積などの活動拠点として、集結地7が必要であり、また、災害時には車両による活動が制限される可能性もあることから、ヘリコプターによる救急患者・物資の輸送、消火活動のため、被災地やその近くにヘリポート8を設置する必要がある。この際、円滑な集結地の運用やヘリコプターの離発着を確保するため、避難場所と集結地およびヘリポートを明確に区分するとともに、平素から、その場所を住民に周知しておくことが必要である。

イ 建物を識別するための表示
 航空機が、情報収集、人員・物資の輸送など災害派遣活動を効率的に行うため、空中から建物を確認しやすいように、県庁、学校など防災上重要な施設の屋上に、建物を識別するための名称や番号などを表示することは有効である。

ウ 連絡調整のための施設の確保
 都道府県庁内に、連絡調整のための仮設の通信所、連絡員の活動場所、車両の駐車場などの自衛隊との連絡調整のための活動施設を設けることも必要である。

エ 資機材などの整備
 避難所、ヘリポートの位置などが記入された各防災機関が共通して使用する防災地図の整備が必要である。また、ヘリコプターによる空中消火のための器材などを整備するとともに、溜め池などの水源地の確保についても普段から調整しておく必要がある。

(3)各種災害への対応マニュアルの策定
 さまざまな形で起こり得る災害に、より迅速かつ的確に対応するため、あらかじめ対応の基本を明確にして、関係者の認識を統一しておくことが有効である。このため、00(同12)年11月、防衛庁(当時)・自衛隊は、災害の類型ごとの対応において留意すべき事項を取りまとめた各種災害への対応マニュアルを策定9し、関係機関、地方公共団体などに配布した。

(4)原子力災害などへの対処
 99(同11)年、茨城県東海村のウラン加工工場で発生した臨界事故の教訓を踏まえ、原子力災害対策特別措置法が制定され、これにともない、自衛隊法が一部改正された10
 東海村での臨界事故以降、経済産業省が主体となって00(同12)年から行っている原子力総合防災訓練では陸・海・空自が輸送支援、住民避難支援、空中と海上での放射線観測支援などを行い、原子力災害に際しての各省庁や地方公共団体との連携要領を検討するなどの実効性の向上を図っている。
 また、原子力災害のみならず、その他の特殊災害11に対処するため、中期防において、NBC対処能力を強化することとしている。


 
7)集結地は、被災地近くの公園やグラウンドなどが適しており、たとえば陸自の1個連隊規模の部隊が宿泊して活動を行うのであれば、約15,000m2(東京ドーム約1/3個分の面積)、師団であれば約140,000m2(東京ドーム約3個分の面積)以上の広さが必要となる。

 
8)ヘリポートの広さは、ヘリコプターの機種や活動内容によって異なるが、1機あたりの目安として、50〜100m四方が必要である。

 
9)都市部、山間部及び島嶼部の地域で発生した災害並びに特殊災害への対応について
http://www.mod.go.jp/j/library/archives/keikaku/bousai/index.html>参照

 
10)1)原子力災害対策本部長の要請により、部隊などを支援のために派遣することができる。2)原子力災害派遣を命ぜられた自衛官が必要な権限を行使できる。3)原子力災害派遣についても、必要に応じ特別の部隊を臨時に編成することなどができる。4)原子力災害派遣を行う場合についても、即応予備自衛官に招集命令を発することができる。

 
11)特殊災害は、テロリズムや大量破壊兵器などによる攻撃によっても生じる可能性がある。


 

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