第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

2 軍事に関する透明性


 中国は、従来から、具体的な装備の保有状況、調達目標および調達実績、主要な部隊の編成や配置、軍の主要な運用や訓練実績、国防予算の内訳の詳細などについて明らかにしていない。
 中国は、98(平成10)年以降2年ごとに、国防白書である「中国の国防」を発表してきており、06(同18)年12月にも「2006年の中国の国防」を発表したほか、外国の国防当局との対話も数多く行われている5

参照> III部3章2節2

 また、昨年8月には、国連軍備登録制度への復帰および国連軍事支出報告制度への参加を表明し、それぞれの制度に基づく年次報告を提出した。中国が、自国の安全保障についてまとまった文書を継続して発表していることや軍備と軍事支出に関する国連の制度に復帰・参加したことは、軍事力の透明性向上に資する動きとして評価できる。他方で、たとえば、国防費の内訳の詳細などについては、人員生活費、活動維持費、装備費に3分類し、それぞれの総額と概括的な使途を公表しているのみであり、過去5回の白書によって、目に見える形で透明性の向上が図られてきたわけではない。また、中国が昨年提出した国連の軍事支出報告制度の報告も、わが国を含む多くの国が使用している軍事支出の内訳を詳細に記載する標準様式による報告ではなく、既に中国が国防白書で公表している内容とほぼ同様の簡略な報告であった。
 04(同16)年11月に発生した中国原子力潜水艦による国際法違反となるわが国領海内潜没航行事案については、その詳細な原因は明らかにされていない。また、昨年1月に中国が対衛星兵器の実験を実施した際も、中国政府から実験の内容や意図などについてわが国の懸念を払拭するに足る十分な説明がなされなかった。さらに、昨年11月に、中国は米空母キティホークなどの香港寄港を寄港予定日になって認めないことを通知し、その後寄港を認めることを通知し直したが、米海軍艦艇は既に寄港を断念し転針していた。これらの事案は、中国の軍事に関する意思決定や行動に懸念を生じさせるものである。
 中国は、政治、経済的に地域の大国として着実に成長し、軍事に関しても地域の各国がその動向に注目する存在となっている。中国に対する懸念を払拭するためにも、中国が国防政策や軍事力の透明性を向上させていくことがますます重要になっており、今後さまざまな機会を通じて、中国が軍事に関する透明性を高めていくことが望まれる。


 
5)「2006年中国の国防」白書では、中国は「2年間で、人民解放軍の高級軍事代表団は60余か国を訪問し、90か国以上の国防大臣、陸海空軍総司令官、参謀総長などのハイレベル代表団が中国を訪問した。」としている。


 

前の項目に戻る     次の項目に進む