第II部 わが国の防衛政策の基本 

第3章
 防衛省への移行と国際平和協力活動等の本来任務化

新たな防衛を担う組織
−より危機に強く、世界の平和に貢献できる組織に−

 わが国の防衛とは、われわれの国土の安泰と、固有の文化、自由と民主主義および国民生活の安定と繁栄を守ることである。
 この国土はわれわれの祖先の住んだところであり、またわれわれの子孫の住むところである。われわれは、長い歴史、独特の文化と伝統を誇っているが、この国土はさらに育成されて栄えていかなければならないところでもある。われわれは日本国民であることに誇りを持ち、この国土に愛着を感じる。
 われわれは、わが国土はもちろん、言語風俗、生活体系、歴史伝統、文芸、思想等を遠い昔から受け継いできた。これらの国民的な財産は、わが祖先がここに住みかつ勤め励んで、築き、われわれに残してくれたものである。これらは過去からの長い歴史を通じて、それぞれの時代の国民の努力によって積み上げられた成果であり、また、将来もこの努力は続けられるであろう。これらのものが時代から時代へ、過去から現在へ、現在から未来へ受け継がれ、継がれるごとにその深さを増していくものである。
 今日の安泰と繁栄は、先人たちの努力によりこれらの国民的な財産を基礎として築きあげられた。われわれは、この安泰と繁栄を独立と平和のうちに守り、われわれの時代だけのものにすることなく、われわれの子供、孫へと子々孫々、未来永劫に伝えていかなければならない。
 この国を守ることはわれわれ一人一人が担うものであり、これにわれわれの努力の成果を積み上げて次の世代に送るのでなければその務めを果たし得たということはできない。
 防衛省も防衛庁創設以来今日まで、国民の期待と信頼に応えるべくわが国の防衛を担ってきた。その中で、多くの自衛隊員が任務遂行の途中、志半ばにしてその職務に殉じ、その数は1,700名以上に及んでいる。国の防衛とは、人の命に直結する国の崇高な任務である。この任務を遂行するために、約27万人の隊員一人一人が、今日の繁栄を子々孫々、未来永劫に伝えていくことは難しいという強い使命感を持って日々の仕事に取り組んでいかなければならない。
 このような防衛の意義は今も変わらない。

 さらに、防衛庁創設当時から現在に至るまでに国際安全保障環境は大きく変化している。今日の安全保障環境は、脅威が多様化、複雑化し、また、そうした脅威がいつ、どこで顕在化するか予測することが一層困難になっている。国際テロ組織などの非国家主体は、情報通信、移動手段などの発達による社会のグローバル化の進展を巧みに利用し、国境を越えて、手段を選ばず、無差別な殺傷・破壊行為を行うようになってきている。また、核・生物・化学兵器などの大量破壊兵器やそれらの運搬手段となる弾道ミサイルなどの拡散も大きな脅威となっている。こうした兵器が国際テロ組織などの手にわたることも強く懸念されるようになっている。
 安全保障環境の変化に伴い、軍事力に求められる役割も変化しており、各国の軍事組織ではさまざまな変革が行われている。近年の情報通信技術(IT)の大幅な進歩に伴い、米国をはじめとする諸国は、軍事技術の研究を進めている。これにより、バイオテクノロジー、サイバー・セキュリティー、宇宙兵器などの先端技術や精密誘導技術、無人化技術などが進展しており、情報収集能力や特殊作戦能力などの能力向上への取組も進められている。
 また、今日の世界では、経済、社会、技術など各方面でも大きな変化が生じている。情報通信の発達により、情報は瞬時に国境を越えて世界中を駆けめぐる。移動手段の発達により、ヒト、モノは、国境を越えて頻繁に行き交う。さらに、世界各地のさまざまな知識と知識が結びつき、その相互作用が新たな知識を生み出し、それが各方面の変化を引き起こす。情報伝達のスピードは、各方面の変化を速める。
 各方面の変化は、国家、安全保障環境に影響を及ぼす。安全保障環境が変化すれば、防衛のあり方や役割にも変化を促す。
 安全保障環境が変化している今日、もはや侵略の抑止を最重視した防衛力整備を行っていれば足りる時代ではない。国内外で発生するさまざまな問題と向き合って、国民の生命と財産を守り、諸外国と協力して世界の平和のために活動することが求められる時代になっている。グローバル化の進展により国境が従来のような意味を持たなくなってきた今日、国民共有の財産としての防衛力を国際平和協力活動等のために一層活用して、世界の平和の確立に積極的に貢献していくことはわが国が果たすべき責務となっている。

 こうした中で、時代の要請と国民の期待に応えていくためには、防衛省は、安全保障環境の変化に対応して、自らそのあり方や役割を常に適切なものとしていく努力が必要とされている。特に今日では、防衛力が必要とされる場合に適時かつ適切に機能するようにしていくことは一層重要な課題となってきている。
 このため、防衛省は、さまざまな緊急事態により迅速かつ的確に対応できるよう、危機管理体制を一層強化し、国民の安全と安心を確保していくことが求められている。また、変化する情勢により適切に対応できるよう、政策の企画立案機能を一層強化し、さまざまな政策オプションを提示していくことが必要である。さらに、新たな時代の政策課題に的確に対応するために、組織も時代にあったものとなるよう常に見直しを行っていくことも必要である。
 こうした中でも、変えずに守り続けるべきものがある。防衛省は国家の最も基本的な役割である国防を担う重要な組織であり、防衛行政は国民の支持と信頼の上に成り立つものである。防衛省は、防衛の意義を基礎とし、国会や内閣による自衛隊の統制といったシビリアン・コントロールの枠組みの下、「専守防衛」や「軍事大国とならない」といった防衛政策の基本を堅持し、国民の負託に応えるべく任務に邁進していかなければならない。また、防衛省の施策について国民の理解と支持を得るように国内外で説明責任を引き続き十分に果たしていかなければならない。
 防衛省への移行、国際平和協力活動などの本来任務化および防衛省の組織改編は、こうした取組の一環と位置付けられるものである。これらの施策を通じて、防衛省は、より危機に強く、世界の平和に貢献できる組織になることを目指している。

 本章では、第1節で、これまでの防衛省・自衛隊の歩みを示すとともに、今日の防衛省・自衛隊の活動の実例を示すことにより、国政において重要性を増してきている防衛の姿を紹介する。次に、新たな防衛を担う組織作りのための施策として、第2節で省移行と本来任務化、第3節で防衛省の組織などについて説明する。

 

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