2 自衛隊の隊員
自衛隊の隊員は、自衛官、即応予備自衛官、予備自衛官、予備自衛官補と事務官、技官、教官などに分けられる。そして、その職務の特殊性のため、採用形態や処遇などにおいて一般の公務員とは異なる特徴
2を持つ。人的基盤を充実させるためには、こうした特徴を反映した人事施策を行うとともに、隊員の高い士気および厳正な規律の保持のため各種の施策を推進する必要がある。
(図表6-2-4参照)
(1)自衛官
ア 採用
自衛官は、志願制度(個人の自由意思に基づく入隊)の下、一般幹部候補生、一般曹候補学生、曹候補士、2等陸・海・空士、自衛隊生徒などとして採用される。このような、自衛官の募集業務は、地方公共団体などの協力の下、全国50か所(北海道に4か所、全都府県に各1か所)の自衛隊地方連絡部(
3章4節参照)が行っている。
参照>
資料56
自衛官の任用で、一般の公務員と比べ大きく異なる点は、自衛隊の精強さを保つため、「若年定年制」と「任期制」という制度をとっている点である。「若年(じゃくねん)定年制」は、一般の公務員より若い年齢で定年退職する制度である。また、「任期制」は、2年又は3年という期間を区切って採用する制度であり、陸・海・空士の多くがこの制度で採用されている。採用後、各自衛隊に入隊した自衛官は、各自衛隊の教育部隊や学校で基本的な教育を受け、その後全国の部隊などへ赴任する。
なお、基本的な教育を終えるまでに、各人の希望や適性などに応じて、その進むべき職種・職域が決定される。
(図表6-2-5・6参照)
イ 処遇
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自衛隊の対応すべき事態は、昼夜の別なく起こるものであり、隊員はいつでも職務に従事できる態勢になければならない。特に自衛官の職務は、各種の作戦を行うための航空機への搭乗、長期間にわたる艦艇や潜水艦での勤務、落下傘での降下など厳しい側面がある。このため、防衛庁・自衛隊は、隊員が誇りを持ち、安心して職務に従事できるよう、職務の特殊性を考慮した俸給と諸手当の支給、医療や福利厚生などの充実を行っている。
ウ 就職援護
自衛官については、先に説明した若年定年制および任期制を採用している。このため、50歳代半ば(若年定年制自衛官)および20歳代(大半の任期制自衛官)での退職を余儀なくされている。したがって、退職後の生活基盤を確保するため、再就職が必要不可欠となっている。
防衛庁では、退職予定自衛官の再就職施策を、人事施策における最重要事項の1つとしてとらえ、再就職に有効な職業訓練や雇用情報の有効活用などの就職援護施策を行っているところである。
具体的には、再就職に有効な知識や技能を身につけるための教育や訓練、退職自衛官の公的部門への採用の推進、各自衛隊などが有する雇用情報のネットワーク化、職業訓練課目の充実による再就職希望者の能力の向上などである。これらの施策は、自衛官が安心して仕事に励むことができるようにするとともに、その士気を高め、優れた資質を有する人材を確保するためにも重要である。
(図表6-2-7参照)
(2)即応予備自衛官、予備自衛官、予備自衛官補
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ア 予備の要員を保有する意義
自衛官の数は、平素は必要最小限で対応している。このため、有事などの際は、事態の推移に応じ、必要な自衛官の所要を早急に満たさなければならない。この所要を急速かつ計画的に確保するため、わが国では即応予備自衛官、予備自衛官および予備自衛官補の3つの制度を設けている。
特に予備自衛官補制度は、防衛基盤の育成・拡大を図り、予備自衛官を安定的に確保し、民間の優れた専門技術を有効に活用することを目的とし、自衛官未経験者の志願に基づき採用されている。
なお、諸外国でも、予備役制度を設けている。
参照>
資料57
(図表6-2-8参照)
イ 雇用企業の協力
即応予備自衛官、予備自衛官、予備自衛官補は、平素はそれぞれの職業などに就いている。しかし、必要な練度を維持するため、毎年仕事のスケジュールを調整し、休暇などを利用して訓練招集や教育訓練招集に応じている。
このような即応予備自衛官、予備自衛官、予備自衛官補の制度を円滑に運用するためには、雇用企業などの理解と協力が不可欠である。特に即応予備自衛官については、年間30日の訓練招集に応じるため、雇用企業などに、不在時の業務調整や休暇取得の配慮など、必要な協力を求めることになる。
このため防衛庁は、即応予備自衛官を雇用する企業などの負担を軽減し、即応予備自衛官が安心して訓練に参加できるよう、即応予備自衛官の訓練参加などのために所要の措置を行っている雇用企業などに対し、即応予備自衛官雇用企業給付金を支給している。
(3)事務官、技官、教官など
事務官、技官、教官などは、防衛庁全体で約2万4,000名であり、その数は自衛官の約10分の1にあたる。これらの隊員は、主に国家公務員採用I種試験、防衛庁職員採用I種、II種、III種試験で採用され、I・II種は共通の研修を受けた上で、さまざまな分野で業務を行っている。
事務官は、内部部局での防衛政策の立案、自衛隊の管理・運営の基本に関する業務、情報本部などの情報業務、全国各地の自衛隊の運営に必要な行政事務(総務、基地対策など)、後方支援業務(整備・補給など)などに従事している。
また、技術研究本部などの技官は、防衛力の技術的水準の維持向上を図るために必要な研究開発などに取り組んでいる。このほか、防衛研究所の教官は、自衛隊の管理・運営に関する基本的な調査研究を行い、防衛大学校や防衛医科大学校などの教官とともに、質の高い隊員を育成するための教育に取り組んでいる。
技官、教官で、本年3月末において、博士号を取得している者は581名である。
(4)人事施策
防衛庁では、人的基盤の重要性を認識し、新しい時代に向けて、種々の施策を推進するとともに、新たな人事施策の検討を行っている。
ア 公務員制度改革に関連した検討
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昨年に閣議決定された「行政改革の重要方針」などを踏まえ、防衛庁においても各種の公務員制度改革に係る施策の具体化を図っている。具体的には、本年1月より新人事評価制度の試行を開始したところである。
イ 男女共同参画の取組
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防衛庁における男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の円滑かつ効果的な推進を図るため、01(平成13)年、防衛庁副長官を本部長とする防衛庁男女共同参画推進本部を設置し、これまでに各種の施策を実施してきた。さらに、本年、同本部において「防衛庁における男女共同参画に係る基本計画」を策定するなど、仕事と育児の両立支援のための施策、女性職員の配置に応じた施設や船舶の整備、女性職員の採用・登用の促進などを推進している。
ウ 次世代育成支援対策の推進
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わが国における急速な少子化の進行を踏まえ、政府として次世代育成支援対策を推進している。そして、03(同15)年には、次世代育成支援対策推進法が成立した。これを受け、防衛庁でも、防衛庁次世代育成支援対策推進委員会を設置し、「防衛庁特定事業主行動計画」
8を策定した。特に防衛庁では、男性職員の育児休業や特別休暇の取得促進および庁内託児施設の設置などに取り組んでいる
9。
エ 隊員の離職後の再就職についての規制
自衛隊員の再就職先については、不正などを防止するとの観点から、規制が設けられている。具体的には、自衛隊員が離職後2年間に、その離職前5年間に在職していた組織と契約関係にある営利企業に就職する場合は、防衛庁長官などの承認
10が必要となっている。なお、昨年、長官が自衛隊員の営利企業への就職を個別に承認したのは106件(106名)である。
オ 再任用制度
再任用制度は、高齢・有為な人材の公務内における積極的活用、雇用と年金の連携の確保を図るため、定年退職者などを再任用する制度である。
防衛庁・自衛隊は、この制度に基づき、本年5月末現在151名を再任用している。
(図表6-2-9参照)
カ メンタルヘルスにかかわる取組
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防衛庁・自衛隊では、隊員が強い使命感を持って、わが国の防衛という崇高な任務を全うするためには、隊員のメンタルへルス(精神的健康)を保持することが極めて重要であるとの認識の下、メンタルヘルスに関するさまざまな取り組みを行っている。具体的には、カウンセリング態勢の充実や教育用ビデオの作成・普及を通じた、隊員の意識の啓発などである。
また、自衛官の自殺防止は、防衛庁・自衛隊にとって喫緊の課題であるとの認識の下、防衛庁自殺事故防止対策本部を設置し、自殺防止施策の検討、自殺予防参考資料の各駐屯地などへの配布などを行っている。
このほか、メンタルヘルスに関連した課題として、心的外傷後ストレス障害(PTSD:Post-Traumatic Stress Disorder)、惨事ストレスに関する取り組みも検討している。
参照>
5章1節
キ 准尉や曹の自衛官の活性化の取組
陸・海・空自衛隊では、准尉や曹の自衛官の活性化のための取り組みの1つとして、曹士自衛官に対する服務指導などの新たな役割を准尉や曹の自衛官に付与することとしている。海自において、03(同15)年4月より先任伍長制度を導入しているほか、陸自、空自においても、本年から上級曹長制度、准曹士先任制度の検証・試行を開始した。
2)自衛隊員は、自衛隊法に定められた防衛出動などの任務に当たる必要があることから、国家公務員法第2条で特別職の国家公務員と位置付けられ、一般職公務員とは独立した人事管理が行われている。
9)例えば18年度予算では、三宿駐屯地(東京都世田谷区)への託児施設設置に必要な経費が計上されている。
10)「長官承認範囲」は自衛隊法第62条に規定してある。