平成17年版白書要約 

平成17年版白書要約


 この要約は、今年の防衛白書の主要項目について、整理したものである。

【わが国を取り巻く安全保障環境】


国際社会の諸課題

 9.11テロが発生してから4年近くが経過し、テロとの闘いにおける各国の努力は着実な効果を挙げる一方、今なおテロの脅威は世界に拡散し、各地でテロ事件が発生している。中でも、国際テロ組織が従来の組織の枠にとらわれない活動を実施したり、また、インターネットの活用など情報通信手段を取り入れるといった傾向も見られるようになっている。アフガニスタンやその周辺では、米軍などによるアルカイダ、タリバーンに対する軍事作戦が今なお継続している。他方、イラクにおいては、米軍などの軍人のみならず、一般市民などを標的としたテロが数多く発生している。この背景としては、フセイン政権の残存勢力や国外から流入するテロリストなどが、イラクの統治や治安維持の失敗を内外に印象付け、一連の政治プロセスを妨げる目的で活動を活発化させていることなどがあるとみられている。また、この他にも、中東各地、東南アジア、ロシアなどでテロが発生している。
 大量破壊兵器や弾道ミサイルの移転・拡散は、冷戦後の大きな脅威の一つとして認識されてきた。大量破壊兵器などを求める国家の中には、自国の国土や国民を危険にさらすことに対する抵抗が少なく、その国土において国際テロ組織の活動が指摘されるなど政府の統治能力が低いものもあるため、大量破壊兵器などが使用される可能性も高いと考えられる。さらにこのような国家では、関連技術や物質の管理体制にも不安があり、結果として、化学物質や核物質などが移転・流出する可能性も高くなっている。特にこうした大量破壊兵器などをテロリストなどの非国家主体が取得、使用することに対し、国際社会の懸念が高まっている。具体的な問題としては、イランの核問題や北朝鮮の核問題が国際社会にとっての差し迫った課題となっている。

 
関連事象

国際社会の対応

 このような諸課題に対して、各国は、軍事のみならず、外交、警察・司法、情報、経済など多くの資源を投入して総合的な取組を行うようになっている。もっとも、こうした課題に対して一国のみで対処することは困難であることから、現在、国際社会においては、多国間の枠組みを活用した各種の協力体制も構築されている。中でも、各国間の協力を推進するための主要な場として機能することが期待されている国連、特に安保理の意義・役割は重要である。諸課題に対して国際社会が有効に対処するためには、国連の機構を実効性と信頼性を高める形で改革することが求められており、わが国としても積極的にこれに取り組んでいくこととしている。

 
関連事象(アフガニスタン・イラク)

 国際社会は、より効果的に諸課題へ対応する方策を模索し、テロ情報を含む各種の情報交換体制の強化、テロリストを厳正に処罰するための国際的な法的枠組み強化、大量破壊兵器不拡散への取組強化、途上国などに対するテロ対処能力向上支援などのための取組を行うとともに、アフガニスタンやイラクなどにおける安定確保や復旧・復興支援を引き続き行ってきている。このような国際社会の努力は、昨年10月のアフガニスタン大統領選挙や本年1月のイラク国民議会選挙の成功など両国の政治プロセスの進展といった目に見える形での成果を挙げる一方で、前述したように諸課題は依然残されており、それらの根本的解決への道のりは半ばである。

主要国の国防政策

 以上のような安全保障環境の下、国際社会の課題への取組に主導的な役割を期待される主要国は、各々の環境にも応じた脅威認識の下、国防政策を形成してきており、多様な事態に対処することができる軍事能力を確保するための即応性、機動性、柔軟性などを重視した軍事力の変革努力も行われている。

○米国
 米国は、9.11テロが示すように、もはや地理的条件によって直接攻撃から免れるわけではないことを認識し、本土防衛を国防の最優先事項とするとともに、海外においても米国の安全と行動の自由の確保、国益を重視する現実主義的な姿勢を示している。こうした姿勢については、2期目のブッシュ政権においても基本的に継続されると考えられる。この中で、米国は、21世紀の安全保障環境において、国防を全うするために必要な軍の変革を推進するとともに、脅威が予測できない世界に適応するため、軍が長距離を迅速に移動する機動力と暫定的な前方展開基地を使用する能力を必要としていることなどを背景として、世界的に米軍の展開態勢を見直す作業を進めている。

 
米国の安全保障環境認識(国家防衛戦略における4つの課題)

○ロシア
 ロシアのプーチン大統領は、国益を追求する外交を推進するとともに、内政面では、社会改革を進めている一方で、中央集権体制の再構築の動きも見られる。こうしたロシアの内政面の動向に関して、最近米国が懸念を表明するようにもなっている。ロシア軍については、兵員の削減と軍種の統合、装備面での軍の近代化、即応態勢の立て直しなどが進められてきている。今後は、軍の効率化・近代化や即応態勢の向上を含めた軍改革の残された課題達成に取り組んでいくものと考えられる。極東地域のロシア軍の将来像については、ロシア軍全般が常時即応部隊の戦域間機動による紛争対処を重視する傾向にあることや、国内の政治・経済情勢に依然として不透明な部分が多いことから、その動向について、引き続き注目しておく必要がある。

 
ロシアの脅威認識と国防政策

○欧州
 欧州の多くの国では、国家による大規模な侵攻の脅威は消滅したと認識されている一方、地域紛争の発生、国際テロリズムの台頭、大量破壊兵器の拡散といった新たな安全保障上の課題が生じており、各国は、こうした新たな課題にも対処し得る能力の整備を進めている。この中で、NATOは活動の重点を紛争防止、危機管理へと移行させてきているが、その中で、NATOの更なる抜本的な改革を求める意見も見られる。同時にEUの枠組を通じた各国の共同による安全保障環境の安定化に向けた努力も模索されており、EUは、近年危機管理・治安維持の分野における活動に積極的に取り組んでいる。

 
欧州諸国の脅威認識

アジア太平洋地域

 アジア太平洋地域は、政治体制や経済の発展段階、民族、宗教など多様性に富み、また、安全保障観、脅威認識も各国によって様々であり、依然として、領土問題や統一問題といった問題が残されている。また、最近では、テロや海賊行為などの問題が地域の安全保障に深刻な影響を及ぼすようになっている。他方こうした環境にあるアジア太平洋地域においては、米国を中心とする二国間の同盟・友好関係などが地域の平和と安定にとって引き続き重要な役割を果たしている。また、最近では、域内各国間の軍事交流の機会の増加が見られるほか、ARFのような安全保障に関する多国間の対話の努力も定着しつつある。さらに、未曽有の災害となった昨年12月のスマトラ島沖地震・インド洋津波に際しては、周辺国を含む各国が軍隊を迅速に派遣し、被災者の救援活動などを行った。

○北朝鮮
 北朝鮮は、「先軍政治」という政治方式の下、現在も、軍事面に資源を重点的に配分し、戦力・即応態勢の維持・強化に努めるとともに、大規模な特殊部隊を保持するなど、いわゆる非対称的な軍事能力を維持・強化していると考えられる。北朝鮮のこうした軍事的な動きは、わが国を含む東アジア全域の安全保障にとって重大な不安定要因となっている。
 その核問題については、わが国の安全保障に影響を及ぼす問題であるのみならず、国際社会全体にとっても重要な問題である。既に核兵器計画が相当に進んでいる可能性も排除できないが、他方、その解決にあたっては、六者会合を通じた具体的進展、日米韓の緊密な連携、中国及びロシア、さらには他の諸国や国際機関などの果たす役割が重要である。
 北朝鮮の弾道ミサイルについては、なお不明な点が多いが、北朝鮮は、政治外交的観点や外貨獲得の観点などからも、弾道ミサイルに高い優先度を与えていると考えられ、長射程化を着実に進めてきていると考えられる。また、移転・拡散の動きも指摘されており、このような北朝鮮の弾道ミサイル開発・配備・拡散などの動向が強く懸念される。
 内政面では、体制に一定の揺らぎがみられるとの指摘もあるが、国家行事や外交交渉が整斉と行われていることを踏まえると、金正日国防委員会委員長を中心とする統治が一定の軌道に乗っていると考えられる。

 
関連事象

○中国
 近年、中国は引き続き飛躍的な経済発展を遂げるとともに、外交面でも一層対外イメージを向上させ、多くの成果を収めてきている。特に、中国は、「非伝統的安全保障分野」における協力や安全保障協議の場を中心に、世界各国との間で、実質的な協力関係を発展させることを目指している。軍事面でも、継続する高い国防費の伸びを背景に軍事力の更なる近代化に努めている。中国は政治、経済的に地域の大国として着実に成長し続けており、軍事に関しても、地域の各国がその動向に注目する存在となっている。

 
関連事象

 中国は、経済建設とバランスの取れた国防建設を進めることとしているが、最近では、世界の軍事発展のすう勢に対応し、情報化戦争に勝利するという軍事戦略に基づいて、「中国の特色ある軍事変革」を積極的に推し進めるという方針をとっている。具体的には、陸軍を中心とした兵員の削減と核・ミサイル戦力や海・空軍を中心とした全軍の近代化を進めるとともに、高い能力を持つ人材の育成に努めている。また、各軍・兵種間の統合作戦能力の向上にも重点を置いている。
 昨年11月の中国原子力潜水艦によるわが国領海内潜没航行事案をはじめとするわが国の近海における中国の海軍艦艇の活動や海洋調査船による活動を含め、中国の海洋活動の活発化については、中国海軍が、近海において防御作戦空間を拡大し総合的作戦能力を増強することを目指しているとされていることに加え、将来的にはいわゆる「外洋海軍」を目指しているとの指摘もあることから、その動向に注目していく必要がある。
 中国は本年3月、「反国家分裂法」を成立させ、同法において中台問題の平和的解決のため最大の努力を尽くすと同時に、台湾が独立の動きを示せば、非平和的な方式による措置を講ずることも排除しないとされたため、わが国や米国に加えEUも、台湾海峡の平和と安定、緩和しつつあった両岸関係への否定的影響の観点から懸念を表明した。中台間には、基本的立場になお隔たりがあり、公式対話は途絶えたまま膠着(こうちゃく)状態が継続している。双方が公式対話を再開するために、何らかの歩み寄りが見出せるかといった観点から、今後の台湾をめぐる問題の平和的解決に向けた動向が注目される。

 
中国の情勢認識と国防政策(「2004年の中国の国防」白書による)

○インド
 インドは、中国との間では国境問題を抱えており、中国の核とミサイルに警戒感を示しているものの「平和と繁栄のための戦略的・協力的パートナーシップ」樹立の合意など、両国関係は進展している。既に「戦略的パートナーシップ宣言」に調印しているロシアとの間でも、装備品の共同開発を含む両国間の更なる軍事技術協力などを通じ、関係を強化している。米国との関係もブッシュ政権下で進展を見せており、米印両国は、両国関係を「戦略的パートナーシップ」と位置付けていくことを念頭に、弾道ミサイル防衛に関する対話の拡大とともに、原子力の平和利用、宇宙開発、ハイテク関連貿易の3分野での協力の拡大に合意している。カシミール問題を抱えるパキスタンとの間では、関係正常化に向けた「複合的対話」を継続するなど両国間の信頼醸成において一定の進展が見られる。

 
関連事象


○マラッカ海峡などにおける海上の安全
 アジア太平洋地域の海洋通商路の要衝に位置するマラッカ海峡を含め、東南アジア海域では、近年、商船に対する海賊や武装強盗による事件の増加や事態の凶悪化、深刻化が指摘されている。マラッカ海峡の安全確保は、一義的な責任を有する沿岸国のみならず、同海峡を利用する多数の域外国の利害に影響を及ぼす問題である。また、テロや海賊などのような国境を超える問題への対応は多国間の協力を必要とすることから、現在、同海峡の沿岸国やわが国を含む域外国などの間で、具体的な協力体制の構築に向け、種々の協議や協力が行われている。

 
関連事象

【わが国の防衛政策の基本と新防衛大綱、新中期防など】


新防衛大綱

○新防衛大綱の策定の背景
 「平成8年度以降に係る防衛計画の大綱について」の策定以降、わが国を取り巻く安全保障環境は、大きく変化していることなどを踏まえ、以下の点を新大綱策定の際に考慮した。

○国際情勢の変化
 ・国際情勢全般(脅威と不安定要因の変化)
 ・国際社会における各種協力の進展と軍事力の役割の変化
 ・わが国周辺地域の情勢

○科学技術の飛躍的発展

○自衛隊の活動の拡大とわが国の緊急事態対処態勢の整備

○わが国の特性


○新防衛大綱の策定の経緯
 わが国を取り巻く安全保障環境の変化を踏まえ、昨年12月に新防衛大綱が策定されるに至ったが、以下のとおり様々な場において各種の検討が行われた。


○防衛庁内での検討(「防衛力の在り方検討会議」)(01(平成13)年9月〜04(同16)年12月)

○「防衛力の見直しの方向性の明示」(「弾道ミサイル防衛システムの整備等について」)(03(平成15)年12月)

○「安全保障と防衛力に関する懇談会」における検討(04(平成16)年4月〜10月)

○安全保障会議などにおける検討(04(平成16)年10月〜12月)


○安全保障の基本的な考え方を明示(2つの目標、3つのアプローチ)
 新防衛大綱は、わが国の平和と安全を確保するため、「我が国の安全保障の基本方針」を明らかにし、この中では、

1) わが国に直接脅威が及ぶことを防止し、脅威が及んだ場合にはこれを排除するとともに、その被害を最小化すること

2) 国際的な安全保障環境を改善し、わが国に脅威が及ばないようにすること
の2つを安全保障の目標として掲げている。
 また、1)わが国自身の努力、2)同盟国との協力、3)国際社会との協力という3つのアプローチを統合的に組み合わせることにより、これらの2つ目標を達成することとしている。

 
わが国の安全保障の基本方針

○新たな防衛力の考え方を明示 (「抑止効果」重視から「対処能力」を重視した防衛力への転換)

 
多機能で弾力的な実効性のある防衛力

○防衛力の役割
 新防衛大綱においては、「新たな脅威や多様な事態への実効的な対応」、「本格的な侵略事態への対処への備え」、「国際的な安全保障環境の改善のための主体的・積極的な取組」を防衛力の役割としており、それぞれの分野において実効的にその役割を果たし得るものとし、このために必要な自衛隊の体制を効率的な形で保持するものとしている。


○新たな脅威や多様な事態への実効的な対応
 ・弾道ミサイル攻撃への対応
 ・ゲリラや特殊部隊による攻撃などへの対応
 ・島嶼部に対する侵略への対応
 ・周辺海空域の警戒監視及び領空侵犯対処や武装工作船などへの対応
 ・大規模・特殊災害などへの対応

○本格的な侵略事態への備え
 ・冷戦型整備構想の転換、最も基盤的な部分は確保

○国際的な安全保障環境の改善のための主体的・積極的な取組
 ・国際平和協力活動への主体的・積極的な取組
 ・安全保障対話・防衛交流の推進など


新たな防衛力の実現へ向けて

 政府は、新防衛大綱に示された体制に向け段階的に移行するため、昨年12月に新中期防を安全保障会議と閣議において決定した。この新中期防は、新防衛大綱に盛り込まれた考え方に沿った新たな防衛力の実現に道筋をつけるものである。
 新中期防の主要事業については以下のとおり。


○防衛庁・自衛隊の組織の見直し
 ・統合幕僚監部の新設(統合運用体制の強化)
 ・中央即応集団(仮称)の新設(空挺団、ヘリコプター団、特殊作戦群、化学防護隊、国際活動教育隊(仮称)などを隷下におく。)
 ・護衛艦部隊(機動運用)の一つの護衛隊を4隻とし、8個護衛隊に集約
 ・空中給油・輸送部隊の新設

○自衛隊の能力などに関する主要事業
 ・弾道ミサイル防衛に関する事業(イージス艦、ペトリオットの能力向上など)
 ・C-130Hへの空中給油機能付加
 ・F-4の後継機の整備


統合運用体制の確立

 新たな脅威や多様な事態に迅速かつ効果的に対応するため、各自衛隊を一体的、有機的に運用する統合運用体制を強化するため、防衛庁長官の補佐機構として統合幕僚監部を新設するなど、必要な体制を整備する。

 
統合運用体制の強化

日米の協力関係の進展

 日米関係については、近年協力関係が進展しており、02(平成14)年12月に開催された日米安全保障協議委員会(「2プラス2」会合)において、両国の役割及び任務、兵力及び兵力構成、地域の課題やグローバルな課題への対処における二国間協力、国際的な平和維持活動その他の多数国間の取組への参画、ミサイル防衛についての更なる協議と協力、在日米軍の施設・区域に係る諸問題解決に向けた進展といった広範な課題を日米間で扱うこととされた。また、03(同15)年5月の日米首脳会談において、日米両国は国際テロや大量破壊兵器の拡散などグローバルな課題への取組について国際社会と協力しつつ連携を強化することなど「世界の中の日米同盟」を強化していくことで意見が一致した。
 さらに、日米両国は、在日米軍の兵力構成見直しを含む米国との戦略的な対話に主体的に取り組んでおり、本年2月の「2プラス2」会合の共同発表においては、日米の以下の共通の戦略目標を確認し、日米双方の安全保障政策の見直しを踏まえた日米の役割・任務・能力、米軍の軍事態勢の見直しについての基本的考え方をはじめとする諸論点について包括的に議論を行っている。

 
日米の共通の戦略目標


【新たな脅威や多様な事態への実効的な対応と本格的な侵略事態への備え】


新たな脅威と多様な事態への実効的な対応

 新防衛大綱では、安全保障環境の変化を踏まえ、新たな脅威や多様な事態への実効的な対応を防衛力の第一の役割として位置付けている。そして、新たな脅威や多様な事態のうち、弾道ミサイル攻撃への対応をはじめとする5項目を例示している。これらは、防衛出動によって対処する場合や必ずしも防衛出動に至らない場合であっても、わが国の平和と安全に重要な影響を与える事態であり、防衛庁・自衛隊として迅速かつ適切に対応していかなければならない。

○弾道ミサイル攻撃への対応
 政府は、03(平成15)年12月に弾道ミサイル防衛(BMD:Ballistic Missile Defense)システムの導入を決定し、04(同16)年度から、イージス艦と地対空誘導弾ペトリオット・システムの能力向上などの整備を開始している。
 弾道ミサイル攻撃に対して実効的に対応するためには、単にBMDシステムの整備のみならず、法制面・運用面の整備など、所要の体制を確立する必要がある。その第一歩として、05(同17)年の通常国会では、自衛隊法の所要の法改正を実施した。
 弾道ミサイル技術の拡散やその先進化は否定に対しては、BMDシステムの効率性・信頼性の向上とともに、対応した能力向上を継続的に図っていく必要がある。わが国は、BMD導入決定後、日米BMD協力の強化のための取組を、継続的に行ってきている。日米BMD協力の強化は、わが国のBMD能力の向上につながるだけでなく、世界における弾道ミサイルの拡散や使用を強く抑制するものと考えており、防衛庁としては引き続き積極的に進めていく。

○ゲリラや特殊部隊による攻撃などへの対応
 ゲリラや特殊部隊による不正規型の武力攻撃に対しては防衛出動により対処する。他方、武装工作員などによる不法行為には、警察機関が第一義的に対処するが、一般の警察力をもっては治安を維持できないと認められる場合には、各種支援に加え、治安出動により警察機関と協力し、その鎮圧や防護対象の警備などを行うことから、共同図上訓練など警察との連携の強化を図っている。また、いわゆるNBCテロに対しては、新中期防において、NBC兵器による攻撃への対処能力の向上を図ることとしている。

○島嶼部に対する侵略への対応
 島嶼部に対する侵略への対応は、本格的な着上陸侵攻対処における作戦の形態と共通する点が多いが、自衛隊が平素から行っている警戒監視や軍事情報の収集などにより、早期に兆候を察知することが重要である。事前に兆候を得た場合には敵の部隊などによる侵略を阻止するための作戦を行い、また、事前に兆候が得られず当該島嶼を占領された場合などにはこれを撃破するための作戦を行う。

○周辺海空域の警戒監視及び領空侵犯対処や武装工作員などへの対応
 昨年11月に中国原子力潜水艦によるわが国領海内潜没航行事案が発生し、防衛庁長官は、内閣総理大臣の承認を得て海上警備行動を発令して対処した。
 結果として、当該潜水艦の入域情報に接してから海上警備行動発令までに相当の時間を要したことなどの教訓を踏まえ、政府として、領水内潜没潜水艦に対する新たな対処方針などを定めた。

○大規模・特殊災害などへの対処
 昨年7月の新潟・福島豪雨及び福井豪雨、昨年10月の台風23号災害、新潟県中越地震などの大規模な自然災害が相次いで発生したことから、各知事からの災害派遣要請を受け、艦艇、孤立者救助や行方不明者捜索などの人命救助活動、給水支援をはじめとする所要の活動に、人員、車両、航空機、艦艇を派遣した。

本格的な侵略事態への備え

 新防衛大綱では、見通し得る将来、わが国に対する本格的な侵略事態生起の可能性は低下していると判断されるため、いわゆる冷戦型の整備構想を転換し、本格的な侵略事態に備えた装備・要員について縮減を図るとしている一方、防衛力の本来の役割が本格的な侵略事態への対処であり、また、その整備が短期間になし得ないものであることを考慮して最も基盤的な部分については確保するとしている。万一の侵略事態が起こった場合の国民の生命・財産の損失の大きさを考えると、このような本格的な侵略事態への備えは必要不可欠である。
 わが国に対する本格的な侵略が行われた場合、各自衛隊は有機的かつ一体的に行動し、迅速かつ効果的に、わが国を防衛するための作戦を行う。
 なお、これらの作戦の実施に際し、米軍は、日米防衛協力のための指針の下、自衛隊が行う作戦を支援するとともに、自衛隊の能力を補完するための作戦を行う。

武力攻撃事態などへの対処にかかわる取組
 昨年6月、関連7法成立と3条約承認をもって、わが国に対する武力攻撃事態等への対処に関して必要な法制(事態対処法制、いわゆる有事法制)が整備され、これを受けて、それらが有効に機能し得るよう各種施策の具体化が進められることとなる。
 特に、国民保護については、本年3月に閣議決定された「国民の保護に関する基本指針」に基づき、現在、防衛庁をはじめとする指定行政機関、地方公共団体などで「国民保護計画」の作成が進められており、防衛庁・自衛隊については、主に1)避難住民の誘導、2)避難住民などの救援、3)武力攻撃災害への対処、4)武力攻撃災害の応急の復旧の面での寄与が期待されている。


【国際的な安全保障環境の改善のための主体的・積極的な取組】

 近年、これまで行ってきた国際平和協力業務や国際緊急援助活動以外にも、自衛隊が海外で活動する機会が増えている。
 これは、これまで派遣された陸・海・空各自衛隊の部隊が、創隊以来培ってきた特有の組織力、協調性、勤勉性などをいかんなく発揮し、関係諸国との良好な関係を築きながら、海外での活動の任務を確実に行ってきたことに対して、国連を含む国際機関や諸外国から高く評価され、国際社会における期待も高まってきていることの証左であるといえる。
 他方、新防衛大綱では、国際社会の取組を踏まえ「国際的な安全保障環境を改善し、我が国に脅威が及ばないようにすること」を、わが国の安全保障の1つの目標として掲げており、このため、わが国自身の努力として国際的な安全保障環境を改善するために国際社会が協力して行う活動、いわゆる国際平和協力活動に主体的・積極的に取り組んでいくこととしている。
 また、国際社会との協力として、「国際平和協力活動と外交の一体化」を行うとともに、「関係各国との間での共通の安全保障上の課題に対する各般の協力」のため、平素より各種二国間・多国間訓練を含む安全保障対話・防衛交流の推進や国連を含む国際機関などが行う軍備管理・軍縮分野への協力など、国際社会の平和と安定に資する活動を積極的に推進することとしている。

 
自衛隊が活動している国際平和協力活動(本年5月末現在)

国際平和協力活動への取組

 防衛庁・自衛隊は、現在も、イラク人道復興支援特措法に基づき陸・空自衛隊の部隊をイラク及びクウェートへ、テロ対策特措法に基づき海自の艦艇をインド洋へ、国際平和協力法に基づき陸自部隊をゴラン高原へ、それぞれ派遣し活動している。さらに、昨年12月に甚大な被害をもたらしたインドネシア・スマトラ島沖大規模地震及びインド洋津波災害などに際して国際緊急援助隊法に基づき陸・海・空自衛隊の部隊及び統幕などの要員を、インドネシアを中心とした被災地に派遣した。
 新防衛大綱に示されたように国際平和協力活動は外交と一体のものとして行うことが必要である。イラクへの部隊派遣では、イラク国家再建のための「車の両輪」として外務省と密接に連携しながら活動している。また、昨年6月に撤収(てっしゅう)した東ティモール国際平和協力業務でも、外務省と連携し自衛隊が現地活動で使用した施設機材などを東ティモール政府に譲与し、東ティモールの復興に寄与した。
 防衛庁・自衛隊は、これまで行った活動の教訓・反省を踏まえて、国際社会の平和と安定を確保する取組をわが国自身の平和と安全の問題として捉え、国際平和協力活動に主体的・積極的に取組得るよう体制整備を推進している。この際、わが国の国際平和のための取組を、国際社会に対して明確なメッセージとして伝えるとともに、国際平和協力活動を行う自衛隊員が、一層の自覚と誇りをもって職務に専念し得る環境を整えるために、新防衛大綱にも示されているように、自衛隊の任務において国際平和協力活動を適切な位置付けにすることが必要であると考えている。
 また、テロ対策特措法及びイラク人道復興支援特措法は、一定期間を経過した後に失効するが、それ以前であっても、対応措置の必要がなくなれば速やかに廃止するものとされている。

 
国際平和協力活動の状況(昨年5月以降)

国際社会における協力の基盤づくりへの取組

 今日のわが国を取り巻く安全保障環境の下、わが国の平和と安全を確保するためには、適切な防衛力を整備し、日米安保体制を堅持するとともに、国際社会、特に、アジア太平洋地域で、より安定した安全保障環境を構築することがますます重要となっている。
 防衛庁・自衛隊は、この地域における関係諸国との連携・協力関係の充実・強化を図る上で、関係諸国との二国間交流やASEAN(アセアン)地域フォーラム(ARF)などの多国間の安全保障対話、多国間の共同訓練などを重視して取り組んでいる。防衛庁主催で行われているアジア太平洋地域防衛当局者フォーラム(東京ディフェンス・フォーラム)は、各国の防衛政策への相互理解を深め、その透明性を高めて地域の安定化に寄与している。
 近年、国際社会では、新たな脅威の一つとして大量破壊兵器やその運搬手段であるミサイルとこれらの関連機材・物資がテロリストや懸念国などに拡散する危険性が強く認識されている。また、人道上の観点から、特定の通常兵器の規制を求める国際世論なども高まりを見せており、こうした人道上の要請と防衛上の必要性とのバランスを考慮しつつ、特定の通常兵器の規制問題に対応していくことが重要な課題となっている。
 これらを踏まえて、防衛庁・自衛隊としても、大量破壊兵器などの軍縮・不拡散への取組、また、特定の通常兵器の規制問題に関する取組などの国際社会の取組に対して、様々な協力を行っている。


【国民と防衛庁・自衛隊】


防衛力を支える基盤

 防衛力は、国の安全保障を最終的に担保するものであり、その機能は他のいかなる手段でも代替し得ない。したがって、時代に合致した防衛政策の下、防衛力を適切に整備、運用する必要がある。
 防衛力の中核である自衛隊は、わが国の防衛という国家存立にとって最も基本的な役割を担う専門の組織であり、そのために必要な各種機能を備えた様々な部隊、機関などで構成されている。
 自衛隊の隊員は、その職務の特殊性のため、採用形態や処遇などにおいて一般公務員とは異なる特徴を持つ。よって、こうした特徴を反映した人事施策を行うとともに、隊員の高い士気と厳正な規律の保持のため各種施策を推進している。
 また、進歩の著しい科学技術の成果を反映した近年の兵器は、防衛力の物的基盤の重要な要素であり、組織運営、情報通信能力等の強化、膨大な装備品などをライフサイクルを通じて効果的に取得、管理するための総合取得改革の推進、技術研究開発の充実などを行っている。

国民と自衛隊を結ぶ活動

 自衛隊は、災害派遣のみにならず、地方公共団体や関係機関などからの依頼に基づき、民生支援として、その組織、装備、能力を生かした様々な協力活動を行い、国民生活の安定の一翼を担っている。

防衛庁・自衛隊と地域社会とのかかわり

 防衛庁・自衛隊の様々な活動は、防衛庁・自衛隊のみですべてを行えるものではない。国民一人一人、そして、地方公共団体などの理解と協力があってはじめて可能となる。
 自衛官の募集、就職援護などについては、少子化により将来懸念される募集環境の悪化、長期化が予測される厳しい雇用情勢などを踏まえると、地域と密接にかかわる地方公共団体などの協力が不可欠である。
 また、防衛施設については、わが国の防衛力と日米安保体制を支える基盤として必要不可欠であり、その機能を十分に発揮させるためには、周辺地域との調和を図り、周辺住民の理解と協力を得て、常に安定して使用できる状態を維持することが必要であることから、各種施策を行っている。

沖縄に所在する在日米軍施設・区域

 沖縄県には在日米軍施設・区域が集中し、県民生活に多大の影響が出ており、その整理・統合・縮小をはじめとする沖縄に関連する諸課題については、内閣の最重要課題の一つとして政府を挙げて取り組んでいる。
 なかでも、日米両国政府がまとめた「沖縄に関する特別行動委員会」(SACO:Special Action Committee on Okinawa)最終報告の内容を着実に実現することが、沖縄県民の負担軽減のためには最も確実な道であると考えており、引き続き、その的確かつ迅速な実現に向けて努力を続けている。
 本年2月に実施された日米安全保障協議委員会(SCC:Security Consultative Committeee)においても、その重要性が改めて確認されている。

 

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