第4章 国際的な安全保障環境の改善のための主体的・積極的な取組 |
大量破壊兵器などの軍縮・不拡散関連条約など
(1)核兵器
ア 核兵器不拡散条約及び包括的核実験禁止条約
核兵器の不拡散に関する条約(
NPT:Treaty on the Non-Proliferation of nuclear)
2と原子力の平和的利用の促進と軍事目的への転用防止のために設立された機関である国際原子力機関(
IAEA:International Atomic Energy agency)
3の保障措置を中核とする不拡散体制が存在する。
95(平成7)年の
NPT運用検討・延長会議において、
NPTの無期限延長が決定されるとともに、包括的核実験禁止条約(
CTBT:Comprehensive Nuclear-Test-Ban Treaty)
4が発効するまで核兵器国は核実験実施を最大限自制することが合意された。
さらに、本年5月、
NPT運用検討会議が開催され、核軍縮、核不拡散及び原子力平和利用などの実質的事項に係る討議が行われたが、最終的にこれら実質的事項について合意文書を作成することができなかった。
わが国は、
CTBTの早期発効に向けて努力を続けているが、批准(ひじゅん)が発効要件となっている特定諸国のうち11か国
5が批准していないことから、条約発効の見通しは立っていない。
イ 原子力供給国グループ
原子力供給国グループ(
NSG:Nuclear Suppliers Group)
6は、核兵器開発に使用されうる資機材・技術の輸出管理を通じて、核兵器の拡散を防止することを目的とし、74(昭和49)年のインドの核実験
7を契機に設立され、本年2月現在、わが国を含む44か国で構成される輸出管理レジームである。
わが国は、核兵器のない世界を目指した核不拡散の取組に積極的な役割を果たすとの観点から、原子力専用品と原子力汎用品及びその関連技術の輸出管理を重視しており、
NSGにおける議論に積極的に参画している。
(2)化学兵器・生物兵器
ア 化学兵器禁止条約
「化学兵器の開発、生産、貯蔵及び使用の禁止並びに廃棄に関する条約」(化学兵器禁止条約(
CWC:Chemical Weapons Convention)
8)は、92(同4)年に採択され、97(同9)年にわが国を含む原締約国87か国により発効し、本年5月現在、168か国が締約国となっている。
CWCは化学兵器の開発、生産、取得、貯蔵、保有、移譲、使用を禁止し、その廃棄を義務付けることにより化学兵器の廃絶を目指すものであり、その実効性を確保するために、厳格な検証制度を定めている。
防衛庁・自衛隊は、80(昭和55)年以降、この条約の交渉の場に、陸自から化学防護の専門家を随時派遣し、日本代表団の一員として条約案の作成に協力してきた。また、条約の発効に伴い、条約の定める検証措置などを行うため、オランダのハーグに設立された化学兵器禁止機関(
OPCW:Organization for the Prohibition of Chemical Weapons)に、97(平成9)年以降、化学防護の専門家である陸上自衛官
9を派遣している
10。
なお、陸自化学学校(埼玉県さいたま市)では、条約の規制対象である化学物質を防護研究のために少量合成していることから、条約の規定に従い、97(同9)年以降5回の査察を受け入れている。
また、中国遺棄化学兵器廃棄処理事業については、日中共同声明、日中平和友好条約の精神を踏まえ、
CWCに基づいて、政府全体として取り組んでいる。これまでの調査の結果、中国に遺棄されている旧日本軍の化学兵器は約70万発にのぼると推定される。
防衛庁・自衛隊は、遺棄化学兵器処理を担当する内閣府に陸上自衛官を含む職員3名を出向させているほか、中国国内で行われる遺棄化学兵器の発掘・回収事業に化学兵器と弾薬の専門家である陸上自衛官を派遣するなど、この事業の円滑な遂行のために不可欠な協力を行っている。
わが国による本格的な処理事業は、99(同11)年から開始され、これまでに4回の処理事業に自衛官を現地に派遣
11し、砲弾の鑑定、応急安全化処置を行うなど、日本側要員の中核としてこれに従事している。最近では、昨年9月、中国黒龍江省寧安市に自衛官6名を現地に派遣した。
イ 生物兵器禁止条約
「細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発、生産及び貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約」(生物兵器禁止条約(
BWC:Biological Weapons Convention)
12)は、75(昭和50)年より発効し、本年3月現在、154か国が締約国となっている。
BWCは生物兵器と毒素兵器の開発・生産・貯蔵などを包括的に禁止するとともに、既に保有されている生物兵器及び毒素兵器を廃棄することを目的としている。
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BWCでは、検証措置などが規定されていないことから、
BWC強化のための検証議定書を作成する交渉が95(平成7)年から続けられてきたが、01(同13)年7月に米国が、検討されている検証措置には問題があるとしたため議定書の作成は一時中断
14した。その後、米国の主張を踏まえた議長提案がなされたことと、日本をはじめとする西側諸国が合意形成に努力したことから、02(同14)年11月、
BWCを強化するための今後の作業計画が全会一致で合意された。この作業計画に従い、締約国は、条約の強化に関する5分野
15について順次検討し、実効的な措置を打ち出すこととなった。
防衛庁・自衛隊は、
BWCの強化のための交渉の場に、薬学・医学の専門家である陸上自衛官を必要に応じ派遣している。
ウ オーストラリア・グループ
オーストラリア・グループ(
AG:Australia Group)
16は、生物・化学兵器の原材料、製造設備、関連技術の輸出規制を通じて、生物・化学兵器の拡散を防止することを目的としており、本年6月現在、わが国を含む39か国が参加している。
AGでは、9.11テロ以降、生物・化学兵器のテロリストへの拡散防止の観点からも、その機能強化が図られており、02(同14)年の総会において、機能強化の一環として、
AGガイドライン
17が採択された。
防衛庁は、94(同6)年から毎年
AGの会合に職員を参加させている。
(3)運搬手段(ミサイル)
ア 弾道ミサイルの拡散に立ち向かうためのハーグ行動規範
弾道ミサイルの不拡散のための規範として、02(同14)年11月、弾道ミサイルの拡散に立ち向かうためのハーグ行動規範(
HCOC:Hague Code of Conduct against Ballistic Missile Proliferation)
18が、オランダ・ハーグにおいて採択された。原参加国は93か国であったが、本年4月現在、120か国が参加している。
わが国は、平和目的の宇宙ロケットなどの打ち上げに際して事前発射通報を行うなどの信頼醸成努力や、
HCOCの普遍化に向けた非参加国への働きかけなどを行っている。
イ ミサイル技術管理レジーム
ミサイル技術管理レジーム(
MTCR:Missile Technology Control Regime)
19は、大量破壊兵器の運搬手段となるミサイル及びその開発に寄与しうる関連機材・技術の輸出を規制
20することを目的としており、本年2月現在、わが国を含む34か国が参加している。
92(同4)年には、規制対象を、核兵器のみならず生物・化学兵器を含むすべての大量破壊兵器の運搬手段として使用可能なミサイルにまで拡大することが合意された。
防衛庁は、92(同4)年から毎年
MTCRの会合に職員を派遣し、専門的な助言や意見交換を行うことにより、大量破壊兵器やその運搬手段の拡散などに対処するための規制や取り決めが実効性のあるものとなるように協力している。
(4)国連監視検証査察委員会
99(同11)年12月に採択された国連安保理決議第1284号に基づき、国連監視検証査察委員会(
UNMOVIC:United Nations Monitoring, Verification and Inspection Commission)
21が設置され、02(同14)年11月から03年3月まで、イラクにおいて大量破壊兵器とその運搬手段に関する査察などを行った。
UNMOVICは、ニューヨークに所在する本部のほか、コミッショナー協議会などで構成されている。
防衛庁・自衛隊は、国際的な安全保障環境を改善するため、01(同13)年2月以降、
UNMOVIC本部職員としてミサイルの専門家である海上自衛官1名に引き続き、航空自衛官1名を本年3月まで派遣し協力を行った
22。
5)米国、イスラエル、イラン、インド、インドネシア、エジプト、コロンビア、中国、北朝鮮、パキスタン、ヴィエトナムの11か国が未批准(本年2月現在)
7)
IAEA保障措置下にあるカナダ製研究用原子炉からえた使用済み燃料を再処理してえたプルトニウムを使用した実験
9)
OPCWへの派遣実績・97(同9)年6月〜02(同14)年6月:陸将補1名(査察局長)・97(同9)年6月〜00(同12)年6月:1等陸尉1名(査察官)・02(同14)年10月〜:1等陸佐1名(運用・計画部長)・04(同16)年8月〜:陸将補1名(査察局長)
11)中国遺棄化学兵器廃棄処理事業への派遣実績・00(同12)年9月:中国黒龍江省北安市へ自衛官8名・02(同14)年9月:中国黒龍江省孫呉県へ自衛官6名・03(同15)年9月:中国河北省石家庄市へ自衛官6名・04(同16)年9月:中国黒龍江省寧安市へ自衛官6名
13)生物兵器などの使用は、ジュネーブ議定書で禁止されているため、
BWCには使用禁止規定は明記されていない。
14)米国は、
BWCを支持しているが、検証議定書案では、生物兵器の開発を阻止することが難しく、また安全保障上と産業上の秘密などが侵害されるとして、
BWC強化のために検証議定書は必ずしも必要ではないとしている。また、01(同13)年11月には、議定書作成の代替として、条約違反行為に罰則を課すため各締約国が立法措置をとることや危険な微生物の管理強化などを含む、独自の
BWC強化策を提案した。
15)「1)条約の禁止事項を実施するための国内措置(刑罰法規の策定含む。)、2)病原菌・毒素の安全管理・監視体制を確立するための国内措置、3)生物兵器の使用の疑惑及び疑義のある疾病の発生に対処し、調査・被害の緩和を行うための国際的対応能力の強化、4)感染症の監視・探知・診断に対処するための国内・国際的努力の強化、5)科学者のための行動規範」を指す。
17)輸出管理を行うに際し、参加各国が守るべき規範を明文化したもの
20)搭載能力500kg以上、射程300km以上のミサイルや関連する機材・技術は、特段の慎重な考慮が行われている。かかる輸出は拒否される可能性が極めて大きい。これに該当しなくても、大量破壊兵器の運搬に使用される懸念がある場合には、輸出が制限される。
22)
UNMOVICへの派遣の実績・01(同13)年2月〜03(同15)年7月:2等海佐1名(分析・評価局分析官)・03(同15)年3月〜本年3月:2等空佐1名(分析・評価局分析官)