多国間の安全保障対話
(1)多国間安全保障対話の意義
多国間の安全保障対話では、安全保障に関する共通の関心事項について関係国間で意見交換を行い、相互理解を深めることにより、信頼関係を増進でき、また、複数国間にまたがる問題について関係国が自ら積極的に取り組むことで、地域の平和と安定に効果的に貢献できることから、その意義は極めて大きい。特に、アジア太平洋地域の平和と安定に関しては、依然として不透明、不確実な要素が存在しており、また、近年は大量破壊兵器の拡散などの新たな問題が強く認識されている。これらは、地域全体の安全保障上の不安定要因となり得るものであり、この意味からも多国間の安全保障対話を積極的に進めることが重要である。
(2)
ASEAN地域フォーラム(
ARF)
ARFは、93(同5)年の
ASEAN外相会議と同拡大外相会議において17か国と欧州共同体(EC:European Community)(当時)によりアジア太平洋地域の政治・安全保障対話を行う場として創設が合意された。94(同6)年の第1回閣僚会合以来、毎年、閣僚会合が開催されており、徐々にその参加国を拡大しつつ、現在では、23か国と1機関
4となっている。
ARFは、現状では欧州においてみられるような安全保障機構ではないが、アジア太平洋地域において、全域的な政治・安全保障に関する唯一の対話協力の場である。また、防衛当局の参加の重要性も認識されるようになり、外交当局と防衛当局の双方の代表が出席した各種政府間会合が開催されているという意味で意義がある。
昨年7月の第11回閣僚会合
5では、対話を通じた朝鮮半島の非核化の平和的解決、テロ・大量破壊兵器の拡散問題などについて活発な意見交換が行われた。また、
ARFの中期的なアプローチ
6が第1段階の「信頼醸成(じょうせい)の促進」から第2段階の「予防外交の進展」に移行しつつあるのを受けた
ARFの将来の方向性について議論された。
防衛庁は、
ARFがアジア太平洋諸国の共同体意識を醸成し、地域の安全保障環境を安定化させるものとなるには、
ARFのプロセスが進展する中で、防衛当局間の信頼関係の増進が重要であると考えている。このため、
ARFに継続的に参加し、防衛政策の透明性の向上、防衛当局間の率直な意見交換などを通じた相互理解を図るための努力を続けている。
ARFでは、外相級の閣僚会合の他に、高級事務レベル会合(SOM:Senior Officials Meeting)や信頼醸成に関するインターセッショナル支援グループ(ISG:Inter-Sessional Support Group)が開催されている。このような場で、外務当局者と合同で行われる全体会合とは別に、02(同14)年以降、閣僚会合に先立って、
ARF防衛当局者会合などを開催することが定例化しており、防衛庁からも関係者が積極的に参加して各国の防衛当局者との間で率直な意見交換を行うなど、防衛当局者の
ARFへの関与は着実に進展している。
また、第11回
ARF閣僚会合で中国が提案した
ARF安全保障政策会議が、昨年11月に北京で開催され、防衛庁、防衛研究所や外務省などから審議官級が参加した。会合では、「国際的な安全保障環境」、「各国の防衛政策」について発表が行われ、また、「テロ、武器密輸、麻薬取引などの非伝統的な脅威に対する防衛当局間の協力の可能性」について討議が行われた。本年も
ARF・SOMに併せて開催され、今後も、年1回、同様に
ARF・SOMに併せて開催されることとなっている。
(3)防衛庁・自衛隊が主催又は参加している多国間安全保障対話
防衛庁は、各国防衛当局者との情報・意見交換を通じた相互理解の増進と信頼醸成を図るため、わが国が主体性をもって積極的に安全保障対話を進めることが、アジア太平洋地域の安定化に重要であると考えている。このような認識の下、内部部局や陸・海・空自衛隊、防衛大学校、防衛研究所において各種セミナーを主催するなど、多国間の安全保障対話を主体的に行うとともに、諸外国やその他の機関が主催する対話にも積極的に参加している。
防衛庁・自衛隊が主催又は参加している多国間安全保障対話の概要は、次表のとおりである。
アジア太平洋地域防衛当局者フォーラム(東京ディフェンス・フォーラム)は、96(同8)年から毎年防衛庁が主催しているものであり、各国の防衛政策への相互理解を深め、その透明性を高めて地域の安定化に寄与することを目的とし、各国の防衛政策や、防衛面に焦点をあてた信頼醸成措置への取組について意見交換を行っている。昨年10月の第9回目のフォーラムでは、
ARFメンバーである22か国及び
EUの参加を得て、「平和構築における軍の役割」、「平和構築における各国防衛当局間の協力の可能性」について議論するとともに、防衛政策の透明性向上への取組の現状について意見交換を行った。フォーラム開催の冒頭で、防衛庁・自衛隊発足50周年記念行事の一環として、守屋事務次官が国際安全保障環境安定化のための防衛庁・自衛隊の取組に関し、記念講演を行った。また、本年6月の第10回のフォーラムには、同じく22か国、
EUの他、国連人道問題調整部(OCHA)などの参加を得て、「インドネシア・スマトラ島沖大規模地震及びインド洋津波災害への各国の軍隊などによる救援活動の教訓に基づく今後の課題と地域協力の可能性」について意見交換を行い、今般の救援活動を教訓として、同様の活動を行う国や国際機関の間での緊密な調整及び災害速報などの情報の共有、今後も
ARFをはじめとする多国間対話の場での意見交換が必要であることなどについて認識が一致した。