第4章 国際的な安全保障環境の改善のための主体的・積極的な取組 

東ティモール国際平和協力業務

(1)UNMISETへの派遣の経緯など

 国連東ティモール支援団(UNMISET:United Nations Mission of Support in East Timor)10は、02(平成14)年5月20日、東ティモールが正式に独立したのに伴い、独立までの全般的統治などを任務とする国連東ティモール暫定(ざんてい)行政機構(UNTAET:United Nations Transitional Administration in East Timor)の後継ミッションとして国連平和維持活動を行った。
 政府は、国連からの要請を受け、自衛隊の部隊などの国連平和維持活動への派遣を決定し、02(同14)年2月以降UNTAETに、同年5月以降はUNMISETに、2年以上にわたり、約2,300名の陸自施設部隊及び司令部要員を派遣してきたが、昨年5月、同国における国連の活動が大幅に縮小され、それに伴いわが国の活動も終了することとし、同年6月に部隊などを完全撤収した。

 
東ティモール周辺図


(2)自衛隊の活動

 東ティモールは、1年を通じて高温・多湿でマラリアなどの感染症がある過酷な環境の中、派遣施設群は複数の地域に分かれて活動し、宿営地も異なるなど業務実施上様々な制約を受けていたが、復興に向けた東ティモール国民の活動を支援するため、各隊員は、旺盛な責任感をもって業務を行った。
 派遣施設群は、雨季のたびに寸断されていた道路・橋などの維持補修の際に、排水設備の設置及び蛇篭(じゃかご)を使用した斜面保護を行うなど工夫をしながら、与えられた後方支援分野の業務11を着実に行い、国連や地域住民の期待に応えた。また、民生支援として小学校グランドの敷地造成などを行うとともに、余暇を利用したボランティア活動として隊員による学校訪問、音楽演奏など現地住民との交流を活発に行い、わが国と東ティモールとの友好関係の構築にも積極的にその役割を果たした。
 派遣施設群の交代時における段階的な規模の縮小12及び完全撤収に伴い、東ティモール政府からの要請に基づき、道路建設用機材及びプレハブ式建物など施設群の資機材の一部を譲与(じょうよ)13した。

 
マリアナ地区の道路補修状況

 また、派遣施設群は、東ティモール政府関係者に対して、施設作業を行うために必要な施設器材の操作・整備などに関する教育を行い、将来東ティモールにおいて技術普及の任を担う指導員など約100名の養成を行った。
 空自は、陸自派遣部隊展開時にC-130H輸送機6機をもって陸自派遣部隊の人員や装備品を本邦から東ティモールまで空輸した。また、現地での活動間には、派遣施設群に対する物資輸送のためC-130H輸送機又はU-4多用途支援機を半年に1回の割合で、延べ4回派遣し、陸自派遣部隊の活動を支援した。
 また、部隊派遣以外にUNMISET軍事部門司令部の司令部要員として陸自隊員延べ17名が派遣され、施設業務の企画調整、後方支援業務の調整などの業務を行った。

 
追送品をC-130H輸送機から卸下する隊員

 
器材譲与式において東ティモール運輸・通信・公共事業大臣に機材を引き渡す第4次東ティモール施設群長

(3)派遣を終えて

 派遣施設群の主要な任務は、UNMISETへの展開部隊に対する後方支援業務であったが、UNMISET軍事部門司令部の施設課に派遣された課長以下の司令部要員により、施設群の能力を生かした民生支援の枠組みをつくり、住民の生活に直結した道路・橋などの補修業務を行った。これらは、現在でも東ティモールの復興における重要な交通インフラとして利用されている。
 また、わが国は、派遣施設群が活動で使用していた道路建設用機材などを東ティモール政府に譲与するとともに、派遣施設群によりその機材の操作・整備及び工事計画・管理教育を行わせることにより、東ティモール国民が自らの手で道路などの整備や災害時の復旧作業に取り組むための基盤づくりに寄与した。これは日本独自のスタイルとして国連でも高く評価された。実際に施設群から教育を受けた卒業生たちは、ディリ・マリアナ・スアイなどに配置され各種土木作業を行い、東ティモールの復興に向けたインフラ整備の一翼を担い活躍をしている。
 さらに、譲与したプレハブ式建物の建設・撤収要領に関する教育を、自衛隊の撤収後、日本の非政府組織(NGO:Non-Governmental Organization)14が引き継ぎを行っており、国際的な復興支援における官から民への一つのモデルケースとなっている。
 今回の活動を通じ、自衛官の高い規律心・責任感、高い作業能力、統制ある行動は、現地の住民、国連、諸外国のUNMISET参加部隊などからも高く評価された。
 本派遣は、自衛隊の行った国際平和協力業務における過去最大の人員派遣であり、部隊の隊員として初めての女性自衛官の派遣、初めての統合幕僚会議の輸送調整による部隊展開15、将来の東ティモールの復興を見越した日本独自のスタイルによる復興支援を行った。このように、東ティモール国際平和協力業務は、総じていえばこれまでの自衛隊が行った国際平和協力業務のスタイルからステップアップした新たな活動であったといえる。


 
10)02(平成14)年5月17日の国連安保理決議第1410号の採択により設立され、本年5月20日に終了した。

 
11)UNMISETの活動に必要な道路・橋などの維持補修や周辺住民も使用できる国連の給水所の維持管理などの後方支援業務を行った。

 
12)当初、第1次及び第2次派遣施設群は、680名で編成されていたが、第3次施設群の派遣時にUNMISETの規模縮小に伴い1コ中隊(スアイ宿営地)を撤収し522名の編成とした。また、第4次施設群の派遣時には、更に1コ中隊(オクシ宿営地)を撤収し405名の編成とした。

 
13)両政府間で譲与物品及びその数量などを取り決めた国際約束(交換公文)を締結の上、「経済及び技術協力のための必要な物品等の外国政府等に対する譲与等に関する法律(昭和35年法律第23号)」に基づいて、東ティモール政府へ譲与した。

 
14)NGOは、もともとは国連の場で、国連諸機関と協力関係にある政府以外の非営利組織を指すものとして使われていた言葉が広まったものであるが、最近では、開発、経済、人権、環境などの地球規模の問題に取り組む非政府・非営利の組織を指すのに使われている。
現在、国際協力活動に取り組んでいる日本のNGOの数は、全国に400以上あると言われている。


 
15)部隊展開にあたり、統合幕僚会議が輸送にかかわる調整を行い、海自の輸送艦「おおすみ」、空自のC-130H輸送機などが、陸自の人員・資器材の輸送などを行った。


 

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