第4章 国際的な安全保障環境の改善のための主体的・積極的な取組 

ゴラン高原国際平和協力業務

(1)UNDOFへの派遣の経緯など
 ゴラン高原の国連兵力引き離し監視隊(UNDOF:United Nations Disengagement Observer Force)7は、停戦に合意したシリアとイスラエルの間に設定された兵力引き離し地域(AOS:Area Of Separation)に展開して国連平和維持活動を行っている。

 
柏村防衛庁長官政務官(左)から隊旗授与される第19次ゴラン高原派遣輸送隊長(右)(練馬駐屯地)

 本活動への参加は、中東和平のための国際的努力に対するわが国の人的な協力としての意義を有しているほか、平和維持隊の生みの親とされるピアソン外相(当時)8の母国である平和維持活動大国のカナダをはじめとする4か国9から派遣された部隊で活動を行っており、国際平和協力活動にかかわる人材養成としての意義も有する。
 政府は95(同7)年12月、自衛隊の部隊などのUNDOFへの派遣を決定し、96(同8)年1月に、第1次ゴラン高原派遣輸送隊43名がカナダの輸送部隊と交代した。以来、約6か月交代で部隊を派遣し、本年5月末現在、第19次ゴラン高原派遣輸送隊が派遣されている。

 
ゴラン高原周辺図

 
UNDOFの組織

(2)自衛隊の活動
 派遣輸送隊は、UNDOFの活動に必要な日常生活物資などを、イスラエル、シリア、レバノンの港湾、空港、市場などから各宿営地まで輸送しているほか、また、雨や雪でぬかるみ状態になる道路の補修や、標高2,800メートルを超える高原地帯での除雪作業などの後方支援業務を行っている。さらに、カナダ部隊などと同一宿営地に居住し、隊員の給食などを共同で行っており、関係国との交流を深めている。
 空自は、派遣輸送隊に対する物資輸送のため、C-130H輸送機やU-4多用途支援機を半年に1度の割合で派遣している。
 UNDOFの司令部要員として自衛官2名が派遣され、輸送などの後方支援分野に関する企画・調整やUNDOFの活動に関する広報や予算関連の業務を行っている。司令部要員は、おおむね1年ごとに交代しており、本年5月末現在、第10次の司令部要員がUNDOFの司令部に派遣されている。
 UNDOFへの派遣期間は、当初、2年をめどとされていたが、国連からの強い要請、わが国要員の活動に対する国連や関係国からの高い評価、中東和平への人的協力の重要性などを考慮して総合的に検討した結果、これまで派遣を継続しており来年1月にはUNDOFへ派遣を開始して丸10年を迎える。

 
国連車両の回収作業を行う隊員

 
除雪作業に従事する隊員


 
7)シリア南西部のゴラン高原でイスラエルとシリア間の停戦監視と両軍の兵力引き離しなどに関する合意の履行状況の監視を任務としている。74(昭和49)年に設立され、現在まで約30年間にわたり活動を継続している。

 
8)56(昭和31)年のスエズ危機の際、カナダのピアソン外相(当時)は、全当事国に即時停戦などを求める米国の提案に対し、休戦についてしかふれていないことを批判し採択を棄権した。同年、カナダは、敵対行為の停止を確保・監視するために国連緊急隊を設置することを求める決議案を総会に提出し採択された。この結果、同年11月に、国連緊急隊が実際にエジプトに派遣され、約10年間わたって、中東の平和と安定のために役割を果たした。これが、国連史上初めての、「平和維持隊(PKF)」である。
ピアソン外相は、その功績が認められ57(同32)年にノーベル平和賞を受賞した。


 
9)UNDOFへは、オーストラリア、カナダ、スロバキア、ポーランド及び日本の国々が参加をしている。


 

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