第2章 わが国の防衛政策の基本と新防衛大綱、新中期防など 

自衛隊の能力などに関する主要事業

(1)新たな脅威や多様な事態への実効的な対応

ア 弾道ミサイル攻撃への対応
 平成16年度に整備を開始した弾道ミサイル防衛(BMD)システムを引き続き整備する。具体的には、1)イージス・システム搭載護衛艦(イージス艦)の能力向上、2)地対空誘導弾(ペトリオット)の能力向上、3)警戒管制レーダーの整備、4)自動警戒管制システムに弾道ミサイル対処能力を付加するための改修などを行う。
 なお、新中期防においては、平成20年度以降のイージス艦及びペトリオットの能力向上のあり方については、「米国における開発の状況等を踏まえて検討の上、必要な措置を講ずる」とされている。これは、新防衛大綱の別表に掲げる体制を整備した後の平成20年度以降の能力向上のあり方については、米国におけるらせん型開発5の状況や国際情勢の変化などを踏まえて検討を行い、判断する必要があると考えられるからである。
 平成11年度から行っている海上配備型上層システムを対象とした日米共同技術研究については、今般整備を行うBMDシステムとは異なり、更に将来的な迎撃ミサイルを念頭に置いたものであり、引き続き実施することとし、また、開発段階ヘの移行については、新中期防においては、「検討の上、必要な措置を講ずる。」こととしている。

イ ゲリラや特殊部隊による攻撃などへの対応
 人的戦闘力の中核となる普通科部隊の強化策として、小銃小隊の1個分隊あたりの定数増や、各普通科中隊への狙撃班の新編などを行う。また、軽装甲機動車、多用途ヘリコプター(UH-60JA、UH-1J)、戦闘ヘリコプター(AH-64D)などの整備により、即応性、機動性の向上を図る。
 さらに、生物偵察車、化学防護車の整備、NBC偵察車の開発などにより、核・生物・化学兵器による攻撃への対処能力の向上を図る。

ウ 島嶼部に対する侵略への対応
 多数の島嶼部を有するわが国の防衛を全うするため、輸送機(C-1)後継機、輸送ヘリコプター(CH-47JA/J)などの整備により、輸送・展開能力などの向上を図るほか、空中給油・輸送機(KC-767)、戦闘機(F-2)などの整備により、防空・洋上阻止能力の向上を図る。また、救難ヘリコプター(UH-60J)に対する空中給油機能を輸送機(C-130H)に付加し、救難能力の向上を図る。

エ 周辺海空域の警戒監視と領空侵犯対処や武装工作船などへの対応
 周辺海空域の警戒監視を常時継続的に行うとともに、武装工作船、領海内で潜没航行する外国潜水艦などに適切に対処するため、護衛艦(DDH、DD)、哨戒ヘリコプター(SH-60K)、掃海・輸送ヘリコプター(MCH-101)、固定翼哨戒機(P-3C)の後継機などの整備、早期警戒機(E-2C)や早期警戒管制機(E-767)の改善などを行う。
 さらに、領空侵犯などに対して即時適切な措置を講ずるとともに、軍事科学技術の進展に対応するため戦闘機(F-15)の近代化改修を行うとともに、財政事情なども勘案しつつ、現有の戦闘機(F-4)の後継機として、新たな戦闘機を整備する。

 
空中給油を行う輸送機(KC-767)のイメージ図

オ 大規模・特殊災害などへの対応
 災害派遣能力の向上を図るため救難飛行艇(US-1A改)、救難ヘリコプター(UH-60J)の整備など各種施策を推進する。

(2)本格的な侵略事態への備え
 新防衛大綱においては、見通し得る将来において、わが国に対する本格的な侵略事態生起の可能性は低下していると判断されるため、従来のような、いわゆる冷戦型の対機甲戦、対潜戦、対航空侵攻を重視した整備構想を転換し、本格的な侵略事態に備えた装備・要員の縮減を図ると同時に最も基盤的な部分を確保することとしている。
 新中期防では、このような保有すべき装備の規模縮小に合わせて、中期防期間内の整備規模を抑制しつつも、引き続き、戦車、火砲、中距離地対空誘導弾、護衛艦、潜水艦、掃海艇、哨戒機、戦闘機などを整備し、最も基盤的な部分を確保することとしている。

 
発射される03式中距離地対空誘導弾(試作品)

(3)国際的な安全保障環境の改善のための主体的・積極的な取組

ア 国際平和協力活動への適切な取組
 国際平和協力活動に主体的・積極的に取り組むため、陸自の部隊を迅速に派遣して継続的に活動できるように、国際活動教育隊(仮称)を中央即応集団(仮称)の隷下に新編する。当該教育隊は、国際平和協力活動の際に基幹となる要員や部隊に対する教育訓練を担任・支援するとともに、国際平和協力活動に係る教訓などを研究・蓄積する。また、現在、陸自は国際緊急援助活動に備えて各方面隊が6ヶ月ごとに持ち回りで待機態勢をとっているが、今後はその他の国際平和協力活動についても適切に対応できるよう待機態勢を拡充する。さらに、引き続き輸送機、ヘリコプター、軽装甲機動車など国際平和協力活動に資する装備品を整備する。

イ 諸外国との安全保障対話・防衛交流、共同訓練などの充実
 二国間・多国間の安全保障対話・防衛交流などの諸施策を推進する。
 また、国連を含む国際機関などが行う軍備管理・軍縮分野における諸活動に対して協力する。

(4)防衛力の基本的な事項

ア 統合運用の強化6
 統合幕僚監部の新設などのほか、統合運用基盤の確立に資するよう、統合幕僚学校の改編、統合演習の実施、情報通信基盤の共通化などを行う。

イ 情報機能の強化
 各種事態の兆候を早期に察知するとともに、迅速・的確な情報収集・分析・共有などを行うため、情報本部をはじめとする情報部門の体制につき、能力の高い要員の確保・育成も含め、その充実を図るとともに、電波情報・空間情報を含めた多様な情報収集・分析手段の整備や、電子データ収集機(EP-3)の改善を図るなど、各種情報収集器材・装置などの充実を図る。また、戦闘機(F-15)の偵察機転用のための試改修に着手する。
 滞空型無人機については、長時間滞空することができることから、各種の高性能センサーと組み合わせ、適切に運用することにより、一般的にはわが国の情報収集能力の向上に寄与するものと考えられる。よって、わが国にとっての具体的な有用性などについて検討した上で、その導入の是非について検討し、研究開発・国産機の導入のみならず、諸外国機の導入の選択肢も視野に入れ、必要な措置を講じることとしている。

ウ 科学技術の発展への対応

(ア)指揮通信能力などの強化7
 統合運用や国際平和協力活動など自衛隊の活動範囲の広がりや迅速な運用に対応するため、内外の優れた情報通信技術に対応したより高度な情報通信態勢の構築に向け、重点的かつ計画的に諸事業を推進する。新中期防では、特に、1)指揮官から展開部隊までの指揮命令ライン(縦方向)の情報共有の推進、2)陸海空部隊間(横方向)の情報共有の実現、3)サイバー攻撃対処態勢の構築、4)関係機関などとの情報共有の推進、及び5)各種通信インフラの充実(通信の広域化・迅速化・大容量化)を重視する。

(イ)研究開発の推進
 引き続き、固定翼哨戒機(P-3C)の後継機、輸送機(C-1)の後継機、現有90式戦車の後継戦車の開発を推進する。そのほか、科学技術の動向なども踏まえ、重点的な資源配分を行いつつ、各種指揮統制システム、無人機などの研究開発を推進する。その際、産官学の優れた技術の積極的導入、モデリング・アンド・シミュレ−ションの積極的な活用、装備品の共通化、ファミリー化、民生品・民生技術の活用などにより、効果的かつ効率的な研究開発の実施に努める。

エ 人的資源の効果的な活用

(ア)人事・教育訓練施策の充実
 隊員の高い士気と厳正な規律の保持のため、各種の施策を推進するとともに、自衛隊の任務の多様化・国際化、装備品の高度化などに対応し得るよう、質の高い人材の確保・育成を図り、また、教育訓練を充実する。
 このほか、退職自衛官の社会における有効活用のあり方について検討の上、必要な措置を講ずる。

(イ)安全保障問題に関する研究・教育の推進
 防衛研究所の安全保障政策に係る研究・教育機能の充実を図るとともに、安全保障分野における人的交流などにより人的基盤を強化する。

(5)防衛力を支える各種施策の推進

ア 装備品等の取得の合理化・効率化
 装備品などのライフサイクルコストの抑制に向け、具体的な達成目標を設定しつつ、取組を一層強化するとともに、効率的な調達補給態勢の整備や真に必要な防衛生産・技術基盤の確立などの総合取得改革8を推進する。

イ 関係機関や地域社会との協力の推進
 各種の事態に国として統合的に対応し得るよう、関係機関との連携を強化するとともに、地方公共団体、地域社会との協力を推進する。
 また、防衛施設の効率的な維持と整備を実施するとともに、基地周辺対策を推進する。


 
5)らせん型開発とは、開発装備品の進捗状況の評価を頻繁に実施することにより、開発計画の修正などを柔軟に行い、新規技術の導入を容易にする開発手法。本開発手法を行うことで、コスト低減や開発期間の短縮化などが図れる。米国におけるBMDシステムは、開発装備品が配備された後も、軍事技術の進展に応じて更に改良開発を行い、装備品の性能をより高める、“進化的”らせん型開発手法を採り入れている。

 
6)本章4節参照

 
7)5章1節4参照

 
8)5章1節5参照


 

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