第1章 わが国を取り巻く安全保障環境 

台湾の軍事力など

 台湾は、基本的な防衛政策の目標として、「戦争の防止」、「本土の防衛」に加え、「テロへの対抗及び緊急事態への対処」を挙げている。これらの目標を達成するため、台湾は、民間の能力も防衛に活用した総合的な防衛力の増強を行うことで台湾の平和と安定を維持するとの「全民防衛」をとっている。また、基本戦略構想として、台湾人民や財産への被害を局限化するために、台湾領域での戦争、紛争を防止することを原則とした「有効抑止、防衛固守」戦略をとっている。
 台湾は昨年1月から、防衛資源の効率的な運用、兵力削減、組織改編、志願を主体とする兵役制度への転換などを目的とする「精進案」を実施している。同案によれば、08(同20)年末までに総兵力を27万5,000人に削減することとされている。また、台湾軍は同時に、先進科学技術の導入や統合作戦能力の整備を重視している。
 台湾軍の勢力は、現在、陸上戦力が41個旅団と陸戦隊2個旅団合わせて約21万5,000人、海上戦力が約340隻約21万トン、航空戦力が空軍、海軍を合わせて作戦機約530機である。
 台湾は、大幅な近代化を進める人民解放軍に対し、06(同18)年頃までは海軍、空軍及び地上部隊において質的優勢を確保するが、台湾軍が効果的に戦力転換をしなければ、同年以降、軍事力の優勢は徐々に中国へ傾斜すると認識している36
 こうした認識の下、現在、台湾は、装備の近代化に努めている37。米国が01(同13)年に台湾関係法に基づき、売却可能な武器のリストを台湾に提示したことを受けて、台湾行政院は、昨年6月にディーゼル型潜水艦8隻、哨戒機(P-3C)12機及びペトリオット・ミサイルシステムの最新型であるPAC-3を購入するための軍備購入特別予算案を策定した。同予算案は現在立法院の承認を得るために審議中である。
 なお、中台の軍事力については単なる量的比較だけではなく、様々な要素から判断されるべきであるが、一般的特徴としては、次のように考えられる。
1) 陸軍力については、中国が圧倒的な兵力を有しているが、台湾本島への着上陸侵攻能力は限定的である。
2) 海・空軍力については、中国が量的には圧倒しているが、質では台湾が優位である。
3) ミサイル攻撃力については、中国は台湾を射程に収める短距離弾道ミサイルを保有している。
 いずれにせよ、軍事能力の比較は、兵力、装備の性能や量だけではなく、運用態勢、要員の練度、後方支援体制など様々な要素から判断されるべきものであり、このような観点から、今後の中台の軍事力の近代化や米国による台湾への武器売却などの動向に注目していく必要がある。特に、中国の軍事力の近代化は急速に進んでおり、近い将来にも中台の軍事バランスにおける台湾の質的優位に大きな変化を生じさせる可能性もある。


 
36)03(平成15)年8月に台湾国防部が立法院に送付した「中国軍事力報告書」は、08(同20)年以降、仮に台湾軍の戦力が変化せず、中台の軍事力がアンバランスになった場合、中国は対台湾戦略を離島の占拠や台湾本島の直接攻略を含むものに転換すると分析していた。

 
37)これまで自主開発戦闘機「経国」号、F-16、ミラージュ2000といった新型戦闘機や新型フリゲートの導入などが行われてきた。


 

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