第1章 わが国を取り巻く安全保障環境 

内戦などの地域紛争

 地域紛争に伴い発生した大規模な人権侵害や大量の難民発生あるいはテロなどの多様な事態は今日、容易に国際化し得る。そのため、国際社会が紛争解決のため、政治的・外交的解決を重視し、優先させる事例がある一方で、積極的に軍事力を使用する事例も見られるようになっている。
 スリランカでは、多数派のシンハラ人優遇政策をきっかけに、スリランカ政府と少数派のタミル人による独立国家建設を目指す過激派組織「タミル・イーラム解放のトラ」(LTTE:The Liberation Tiger of Tamil Eelam)の間で武装闘争が発生し、その後も3度にわたる和平交渉決裂のため、20年にわたって紛争が継続した。02(平成14)年2月には、和平推進に積極的な新政権の成立を受け、ノルウェー政府の仲介により、スリランカ政府とLTTEは無期限停戦の合意文書に調印したものの、03(同15)年4月にLTTEは、スリランカ政府の和平交渉への対応などを不満として、和平協議への参加中断を表明した。昨年4月には、総選挙が実施され、LTTEに厳しい姿勢である大統領側の政党連合側が勝利したが、和平協議再開に向けた取組は継続することを明らかにした。その後も、ノルウェー政府による和平協議の仲介やスリランカ政府とLTTEの和平に向けた努力が続いているものの、協議再開の見通しは立っていない。
 ハイチでは、昨年2月、独裁色を強めているとしてアリスティド大統領退陣を求める武装勢力が国内各地で蜂起、1か月足らずで首都を包囲し、同大統領は出国した。この事態を受け国連は治安維持のための暫定的な多国籍軍派遣を決議し、米・フランス軍などがハイチ入りし、治安維持などに当たっていたが、同年6月には、国連ハイチ安定化ミッション(MINUSTAH:United Nations Stabilization Mission in Haiti)が多国籍部隊の任務を引き継いだ。
 スーダンでは、83(昭和58)年に政府がイスラム法の導入を宣言すると、キリスト教や土着宗教を信仰する南部の反政府勢力、スーダン人民解放運動/軍(SPLM/A:The Sudan People's Liberation Movement/Army)がゲリラ闘争を拡大し、南北内戦が勃発した。この内戦は、20年以上継続し、200万人以上の死者と数百万人の難民を発生させたとみられているが、本年1月9日に政府とSPLM/Aとの間で包括和平協定が調印された。これを受けて同年3月24日、国連安全保障理事会(国連安保理)は国連スーダンミッション(UNMIS:United Nations Mission in Sudan)の設立に関する決議を採択した。この他にもスーダンでは、03(平成15)年、西部ダルフール地方において、中央政府との社会経済的、政治的格差への不満などから、政府と反政府勢力であるスーダン解放運動/軍(SLM/A:The Sudan Liberation Movement/Army)及び正義と公正の運動(JEM:The Justice and Equality Movement)による紛争が勃発している。さらに、ジャンジャウィドと呼ばれるアラブ系民兵がアフリカ系地域住民に攻撃を継続するなど、約200万人の国内避難民が発生し、約20万人の難民が隣国チャドに流入したとみられている。これに対処するため、アフリカ連合(AU:African Union)は、停戦監視団(AMIS:African Union Mission in Sudan)を派遣している。また、国連安保理は、本年3月29日、停戦合意や国際人道法などの違反者に対し、渡航禁止や資産凍結などの措置をとることなどを定めた決議を採択し、さらに同月31日には、ダルフール地方における国際人権法・人道法の重大な違反の事案を国際刑事裁判所(ICC:International Criminal Court)に付託する決議を採択した。

 
主な紛争・対立地域


 

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