第4章 国際社会の平和と安全を確保するための取組 

イラク人道復興支援特措法の概要

(1)目的
 安保理決議第678号3、第687号4及び第1441号5並びにこれらに関連する安保理決議に基づき国連加盟国によりイラクに対して行われた武力行使並びにこれに引き続く事態(イラク特別事態)を受けて、国家の速やかな再建を図るためにイラクで行われている国民生活の安定と向上、民主的な手段による統治組織の設立などに向けたイラクの国民による自主的な努力を支援し、及び促進しようとする国際社会の取組に関し、わが国がこれに主体的かつ積極的に寄与するため、安保理決議第1483号を踏まえ、人道復興支援活動及び安全確保支援活動を行うこととし、もってイラクの国家の再建を通じてわが国を含む国際社会の平和及び安全の確保に資する。
 
イラク復興支援派遣輸送航空隊などの編成完結式で訓示する小泉総理(左)

(2)基本原則
1) 対応措置6の実施は、武力による威嚇又は武力の行使に当たるものであってはならない。
2) 対応措置は、わが国領域及び「現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる地域」で実施する。
 なお、ここにいう「戦闘行為」とは、国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為のことをいう7
3) 外国の領域で実施する場合、当該対応措置が行われることについて当該外国の同意がある場合に限る(イラクにあっては、安保理決議第1483号などに従ってイラクにおいて施政を行う機関の同意によることができる。)。

(3)対応措置
ア 人道復興支援活動
 イラクの国民に対して医療その他の人道上の支援を行い若しくはイラクの復興を支援することを国連加盟国に対して要請する安保理決議第1483号又はこれに関連する安保理決議などに基づき、人道的精神に基づいてイラク特別事態によって被害を受け若しくは受けるおそれがあるイラクの住民その他の者(被災民)を救援し若しくは被害を復旧するため、又はイラクの復興を支援するためにわが国が実施する措置である。具体的には、次の図のとおりである。
イ 安全確保支援活動
 イラクの国内における安全及び安定を回復するために貢献することを国連加盟国に対して要請する安保理決議第1483号又はこれに関連する安保理決議などに基づき、国連加盟国が行うイラクの国内における安全及び安定を回復する活動を支援するためにわが国が実施する医療、輸送、補給などの措置である。
 
活動の内容

(4)基本計画
1) 対応措置に関する基本方針、対応措置を実施する場合における当該対応措置の種類・内容、実施区域の範囲などを規定した基本計画を閣議決定する。
2) 対応措置を外国の領域で実施する場合には、当該外国及び関係国際機関などと協議し、実施区域の範囲を定める。

(5)国会との関係
1) 基本計画の決定、変更、対応措置の終了時には国会に報告する。
2) 自衛隊による対応措置の実施については、当該対応措置を開始した日から20日以内に国会に付議し、承認を求める。国会が閉会中の場合などには、その後最初に召集される国会において、速やかに、その承認を求める。

(6)対応措置の実施など
1) イラク復興支援職員、自衛隊の部隊などにより対応措置を実施する(イラク復興支援職員は、内閣府に置かれ、関係行政機関からの一般職の職員の派遣、地方公務員・民間人の新規採用により構成。)。
2) イラク復興支援職員による措置については、内閣総理大臣が、当該措置の実施を命令する(措置の実施に関し必要な事項は政令で規定。)。
3) 自衛隊による措置については、防衛庁長官が、実施区域の指定などを内容とする実施要項を定め、これについて内閣総理大臣の承認を得て、当該措置の実施を命令する。
4) 防衛庁長官は、実施区域の全部又は一部がこの法律又は基本計画の要件を満たさなくなった場合には、速やかに実施区域の指定を変更し、又は活動の中断を命じなければならない。
5) 自衛隊の部隊の長などは、活動を実施している場所の近傍において、戦闘行為が行われるに至った場合又は戦闘行為が行われることが予測される場合には、活動を一時休止するなどして危険を回避しつつ、4)の措置を待つ。
6) 自衛隊が対応措置を実施するに際しては、武器・弾薬の提供、戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油・整備は行わない。
7) 内閣総理大臣及び防衛庁長官は、対応措置の実施に当たっては、イラク復興支援職員及び自衛隊の部隊などの安全の確保に配慮しなければならない。
8) わが国以外の領域において対応措置に従事する者には、イラク人道復興支援等手当を支給することができる。
 
取水口の準備を行う隊員
 
イラク復興に向けた国際社会の取組への協力の枠組み

(7)武器の使用
 自衛官は、自己又は自己と共に現場に所在する他の自衛隊員、イラク復興支援職員若しくはその職務を行うに伴い自己の管理の下に入った者の生命又は身体を防衛するため、やむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で、武器を使用することができる。この武器の使用に際しては、正当防衛又は緊急避難に該当する場合を除いては、人に危害を与えてはならない。
 武器の使用は、現場に上官が在るときは、原則としてその命令による。この場合、上官は、統制を欠いた武器の使用によりかえって生命・身体に対する危険又は事態の混乱を招くこととなることを未然に防止し、武器の使用が適正に行われることを確保する見地から必要な命令をする(国際平和協力法、テロ対策特措法と同様の規定)。
 
現地の給水車に配水作業を行う隊員

(8)その他
 施行から4年を経過した日に失効する。ただし、別に法律で定めるところにより延長が可能である。



 
3)90(平成2)年11月29日に安保理で採択されたイラクに対する武力行使容認決議。

 
4)91(平成3)年4月3日に安保理で採択された停戦決議。

 
5)02(平成14)年11月8日に安保理で採択された「イラクに対して武装解除の義務を遵守する『最後の機会』を与えた」決議。

 
6)この法律に基づく人道復興支援及び安全確保支援活動をいう。

 
7)Q&Aを参照。


 

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