第5章 国民と防衛 

IT要綱の概要とこれまでの取組の状況1

(1)IT要綱の概要
ア 防衛庁・自衛隊の情報通信技術革命への対応の意義
 軍事の世界において、情報通信技術の進歩が及ぼす影響は広範であり、センサーの高度化による誘導武器の精度向上、在庫管理システムによる補給効率の向上、シミュレーションの活用による教育訓練の効率化など、様々な分野における効果が期待されている。その中で最も顕著なものの一つは、情報通信機能の向上を通じた、防衛力の発揮そのものに与える影響と考えられ、大容量・高速・広域の情報通信ネットワークを実現することなどにより、防衛力発揮の効率、効果を劇的に向上させる可能性を有している。
 一方、情報通信技術の進展による社会変革に伴い、情報格差(デジタル・ディバイド)の発生、ハッカーなどによる情報システムへの侵入やコンピュータウィルスの影響の増大など、社会全体に新たな脆弱(ぜいじゃく)性が生まれた。これらに対応し、自らの情報通信基盤を守るためには、常に最先端の技術、知識を獲得する必要がある。また、このような変革期には、防衛庁を含めたあらゆる組織は、単なる情報通信技術の導入だけではなく、情報通信技術による環境の変化を見通して、組織や業務のあり方を改革する必要がある。
 このような認識を踏まえ、防衛庁・自衛隊においても情報通信技術の成果を積極的に取り入れることにより、情報優越2を追求し、防衛力の統合的かつ有機的な運用を可能とする基盤を体系的に構築することが必要不可欠である。
イ 中核となる3つの施策
 高度なネットワーク環境の整備、情報通信機能の強化、情報セキュリティの確保3のための施策を推進する。
ウ その他の施策
 業務全般の情報化への対応の推進、人的・技術的基盤の整備、諸外国との交流、体制の整備、軍事における革命(RMA:Revolution in Military Affairs)への対応の研究などの施策を推進する。

(2)これまでの取組の状況
ア 中核となる3つの施策
(ア)高度なネットワーク環境の整備
 情報の共有による自衛隊の統合的かつ有機的な運用態勢を強化するため、本年3月、全自衛隊共通のネットワークである防衛情報通信基盤(DII:Defense Information Infrastructure)4のオープン系の運用を開始するとともに、2002(平成14)年度からクローズ系の設計に着手している。
 また、本年3月、統幕事務局にDIIネットワークの稼働状況やセキュリティの常時監視などの業務を行う防衛情報通信基盤(DII)管理運営室を新設した。
 さらに、昨年度から、コンピュータ・システム共通運用基盤(COE:Common Operating Environment)5の設計・構築を開始するとともに、COEの管理・更新などのために、本年度、統幕事務局にCOEの管理組織を新設する。

 
防衛情報通信基盤(DII)の概要

(イ)情報通信機能の強化
 本年3月、戦闘様相の迅速化などに対応して、防衛庁中央において適時、適切かつ総合的な観点から指揮し得る体制を確保するため、陸・海・空自衛隊の各種指揮システムとオンライン接続してデータの集約処理を行う中央指揮システム(CCS:Central Command System)の整備が完了した。15年度は、今後予定している中央指揮システムを構成する機器などの更新に伴う電算機システムの設計を行うとともに、プログラム改修に着手する予定である。
(ウ)情報セキュリティの確保
 3章2節5参照

 
中央指揮システムの概要

イ その他の施策
(ア)業務全般の情報化への対応の推進
 防衛行政、調達・補給、教育訓練、衛生など、あらゆる分野で情報化を進めるため、防衛庁中央OAネットワーク・システムの換装など防衛行政の情報化と、CALS/EC:Continuous Acquisition and Life-Cycle Support / Electronic Commerce6の導入を推進している。
(イ)人的・技術的基盤の整備
 ITを駆使した教育用器材や教育管理用器材の整備、IT技術教育用器材の取得など、高い能力を有する人材の育成・確保や情報通信技術を装備品などに取り込むための技術的基盤の整備を行っている。

 
CALS/ECの将来構想図
 
(3)15年度予算における関連事業の概要
1) 防衛情報通信基盤(DII)の整備など高度なネットワーク環境構築
2) 中央指揮システムの充実などの情報通信機能の更なる強化

(4)今後の取組のための留意事項
 情報通信技術の導入の推進にあたっては、業務遂行を含む組織文化を変革するなど隊員の強い意識改革が必要とされる。また、不断に進歩する情報通信技術に対応するためには、コマーシャル・ベースの技術、製品の導入などによりシステムを構築するほか、事業・計画の内容の柔軟な見直しが必要である。



 
1)平成14年版防衛白書
5章1節3参照。
http://jda-clearing.jda.go.jp/kunrei/w_fd/2002/honmon/frame/at1405010300.htm

 
2)情報の認知、収集、処理、伝達を迅速かつ的確に行うことについて相手方に優ること。

 
3)3章2節5参照。

 
4)防衛庁・自衛隊のコンピュータ・システムは、これまで各機関又は各業務ごとに整備されてきたため、自衛隊を横断した全体としてのネットワーク化がなされておらず、異なる機関間、システム間におけるデータの共有や交換が困難な状況にあったため、平成13年度から、既存のネットワークを集約一元化するDIIの構築に着手した。

 
5)コンピュータ・システムの標準化・共通化の推進、各種システムの開発・維持管理にかかわるトータルコストの低減、最新の技術の取込の容易性向上などを目的とした基盤的ソフトウェア群。

 
6)装備品などのライフサイクルを通じた情報を電子化/データベース化などによって共有し、装備品などのライフサイクルコストの低減、開発や調達の所要期間の短縮、品質の向上などを目指す取組本節5参照。


 

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