第4章 より安定した安全保障環境の構築への貢献 


解説 イージス・システム搭載護衛艦派遣の意義

イージス艦の概要
 昨年12月、テロ対策特別措置法に基づきイージス・システム搭載護衛艦(イージス艦)を派遣することが話題となった。そもそもイージス(Aegis)とは、ギリシャ神話に出てくる神ゼウスが娘アテナイに与えた、肩から胸にかけて身につける「盾」のことである。その盾は「悪を払いのける」といわれており、その名が艦の新しいシステムにつけられた。イージス艦の特徴などは次のとおりである。

 
イージス艦要図

(主要な性能)
○基準排水量:7,250トン
○主要寸法:長さ161m×幅21m×深さ12m
○速力:30ノット(時速約54km/h)
(馬力:100,000PS)
○主要兵装:イージス装置一式、垂直発射ミサイル装置一式、高性能20mm機関砲×2、艦対艦ミサイル装置一式、127mm単装速射砲×1
(特徴)
○極めて高い防空能力(捜索(レーダー捜索能力:数百キロメートル以上)、探知、攻撃)
○最新の指揮通信能力(指揮管制支援ターミナルなど)

イージス艦派遣の目的
1) 部隊の安全確保
 昨年10月のイエメン沖で仏タンカーへのテロ事件が発生していることや派遣される海域には国籍の確認が困難な船舶や航空機が多数航行していることから、作業を行う隊員は、常に極度の緊張を強いられていた。
 また、洋上補給をする場合数時間(最長約6時間)にわたり直進せざるを得ない補給艦は、不測の事態が生じた場合に緊急の回避運動がとれない。この際、周囲の警戒、監視のために同行する最新の指揮通信能力や広範囲なレーダー捜索能力及び高い目標処理能力を有するイージス艦は、航空機などの対空目標を早期に探知すること、対空・対水上目標の動きを迅速にコンピュータ処理できることで、柔軟な対応を可能とする。
2) 派遣ローテーションの柔軟性の確保
 これまで海上部隊の指揮にあたる艦艇として派遣してきたヘリコプター搭載護衛艦(DDH:Helicopter Destroyer)の保有数が4隻であるため、派遣ローテーションの維持が厳しい状況になっていた。イージス艦を加えることにより、指揮にあたることができる艦艇数が8隻となり、派遣ローテーションの柔軟性が確保できる。
3) 乗組員の負担の軽減
 イージス艦は、休憩室などの居住スペースも広くなっていることから、長期に及ぶ乗組員の勤務上の負担を軽減できる。

武力行使の一体化論について
 イージス艦派遣に際して、高性能なイージス艦が提供した情報で同盟国艦艇がミサイルなどにより目標を攻撃した場合、同盟国の武力行使と一体化1するのではないか、ということが国会などで議論となった。
 しかしながら、イージス艦による情報収集は、あくまで自衛隊がテロ対策特措法に基づく協力支援活動などを遂行するために必要な情報を、わが国として主体的に収集するものであり、特定の国の武力行使を直接支援するというような目的で行うわけではない。仮に、情報を米軍に提供する場合があるとしても、例えば、特定の国の武力行使を直接支援するために偵察行動を伴うような情報収集を行うというように特別に情報を収集し、それを提供したりするということではなく、同盟国との間で一般的に行われる情報の交換にとどまるものである。
 また、データリンク・システムでつながった艦艇間では、わが国のイージス艦で捕らえた情報をもとに同盟国の艦艇が自動的に攻撃できるのではないかという議論もあったが、データリンク・システムは、イージス艦のみならず、広く一般の護衛艦などにも搭載されている装備である。具体例として、護衛艦が捜索レーダーで捕らえた航空機の情報をデータリンク・システムにより米軍艦艇が受けた場合でも、米軍艦艇が攻撃するにあたって、自らこの航空機の捜索と目標識別を行い、対処する武器(ミサイルなど)を管制する別のレーダーによって航空機を捕らえた上で、攻撃の決定、武器の発射を行わなければならない。このように、現在の技術水準にかんがみても、米軍艦艇は、護衛艦が提供する情報のみで自動的に攻撃できるものではない。
 このように、イージス艦を派遣したとしても、武力行使との一体化が生ずるわけではない。

 
DDG(イージス艦)とDDなどの対空レーダー覆城イメージ図



 

 

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