第4章 より安定した安全保障環境の構築への貢献 


解説 特別航空輸送隊の国際貢献

 本年3月30日から4月2日にかけ、空自の政府専用機(B−747)2機によるイラク難民救援国際平和協力業務が実施された。その内容は、救援物資(テント160張:約1,600名分、約18トン)をヨルダンの首都アンマンのクイーン・アリア国際空港まで空輸し、UNHCRに引き渡すというものであった。
 この任務を遂行した特別航空輸送隊は、政府専用機の管理・運用を行う部隊であり、平素は、例えば昨年9月の小泉首相の訪朝に見られるように、関係省庁からの依頼を受けて内閣総理大臣や国賓の輸送などを主に実施している。政府専用機の運航スタッフはすべて自衛官で、国賓などの機内サービスを担当する空中輸送員(いわゆる客室乗務員)も自衛官である。国賓などの輸送にあたっては、スケジュールの都合上、到着予定時刻の厳守、国賓の接遇や安全面への特別の配慮が必要とされる。これらの点に留意しつつ、特別航空輸送隊では、パイロットや空中輸送員などが一丸となって周到綿密な計画を策定し、飛行経路の気象や空港の離着陸手順の事前確認を行うなど、安全かつ確実な運航に努めている。
 今回の任務は、国際平和協力法に基づく人道的な国際救援活動にはじめて政府専用機を使用したケースであり、任務に従事した隊員の言葉を借りてその特徴を説明すれば次のとおりである。
 「通常の任務である国賓などの輸送とは主に準備期間と安全性の確保の点で違いがあった。準備期間については、国賓などの輸送の場合、数週間の余裕があり、事前に調査団などを現地に派遣して運航の可否の決定に必要な調査や運航のための調整などを行うところ、今回は、3日間という限られた時間の中で速やかに運航計画を策定し、要員の選定、飛行経路の選定、領空通過の申請、各空港への現地運航支援隊の配置、現地委託航空会社の手配、空港当局、米軍、現地大使館員などとの調整を行うことが必要となった。安全性の確保については、中東全体が緊張の度を高めて、多くの航空路が閉鎖、また、新たに設定され、様々な空域が軍や当局によって統制される中、これらの空域を避けて運航するため、運航期間中、逐次更新される膨大な空域に関する情報の中から関連する部分を漏れなく抜き出した上で、安全な経路を選択するという緻密かつ地道な作業を繰り返すことが必要となった。また、機内には通常は搭載されないガスマスク、防護衣などが非常時に備えて搭載されたほか、はじめて隊員の健康管理の観点から医官が同乗した。空輸隊員が飛行服や作業服で任務に臨んだのもはじめてであった。」
 今回、すべての業務を整斉と行い、突発的に付与された重要任務を計画どおり遂行できたのは、日頃の訓練の積み重ねに加えて、約10年にわたり100回を超える国外要人輸送を遂行する中で蓄積したノウハウがあったこと、さらには、先行してアンマン入りし、限られた時間の内で関係機関との調整にあたった運航支援隊の努力や現地大使館、UNHCRなど関係機関の受け入れ態勢確保への尽力などが要因であった。
 特別航空輸送隊では、今後も国賓などの輸送はもちろんのこと、今回の任務同様、さまざまな任務を滞りなく遂行すべく、日々の訓練に邁進しているところである。


 

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