2 朝鮮半島

 朝鮮半島は、地理的、歴史的に日本と密接な関係にある。また、朝鮮半島の平和と安定は、日本を含む東アジア全域の平和と安定にとって重要である。
 朝鮮半島においては、現在、韓国と北朝鮮をあわせて150万人程度の地上軍がDMZ(Demilitarized Zone)を挟んで厳しく対峙している。このような軍事的対峙の状況は、朝鮮戦争終了以降続いており、現在も基本的に変化していない。

朝鮮半島の軍事力の対峙

朝鮮半島の軍事力の対峙


北朝鮮

(1) 内政

 北朝鮮では、1998(平成10)年に、約4年半ぶりに最高人民会議(注1−83)が開催され、金正日労働党総書記が新しく「国家の最高職責」と位置づけられた国防委員会委員長に再任された。同時に、政務院を改称した内閣の設置、国家主席の廃止などの国家組織の改編や国家幹部の人事などが行われた。また、99(同11)年の最高人民会議では、約5年ぶりに国家予算が採択され、本年4月の最高人民会議でも、3年連続での国家予算の採択、「加工貿易法」、「著作権法」の承認などが行われた。また、後述のように、西欧諸国などと国交を樹立するなど対外関係を増大させてきている。このようなことから、北朝鮮では、金正日国防委員会委員長を中心とする統治体制が名実ともに整備され、その国家の統治については一定の軌道に乗ってきていると考えられる。
 また、北朝鮮は、最近、思想、政治、軍事、経済などすべての分野での社会主義的強国の建設を目指すとする、「強盛大国」建設を国家の基本政策として標榜(ひょうぼう)し、その実現に向けて「先軍政治」という政治方式をとっている。これは、「軍事先行の原則に立って革命と建設に提起されるすべての問題を解決し、軍隊を革命の柱として前面に出し、社会主義偉業全般を推進する領導方式」と説明されている。実際に、金正日総書記が国防委員会委員長として軍を完全に掌握する立場にあり、また、軍部隊を引き続き頻繁(ひんぱん)に視察していることなどから、北朝鮮においては、このような国家の運営において、軍事を重視し、かつ、軍事に依存することは、今後も継続すると考えられる(注1−84)
 経済面では、北朝鮮は、社会主義計画経済の脆弱性に加え、冷戦の終結に伴う旧ソ連や東欧などとの経済協力関係の縮小の影響などもあり、近年は、慢性的な経済不振、エネルギー不足や食糧不足が続いている。最近は、若干上向きの傾向もあるとみられているものの、基本的に依然として厳しい状況にあるとみられている(注1−85)。特に、食糧事情については、近年、恒常的な食糧不足に陥っており、依然として国外からの食糧援助に依存せざるを得ない深刻な状況にあるとみられている(注1−86)。こうした中、北朝鮮の住民の間には、多数の飢餓者の発生や規範意識の低下などが見られるとの指摘もある(注1−87)
 こうした経済面での様々な困難に対し、北朝鮮は、現在の統治体制に影響を与えるような構造的な改革を行うことなく、計画経済の考え方を基本的に維持する一方で、限定的ながら現実的な改善策や一部の経済管理システムの変更(注1−88)も試みている。しかし、計画経済の考え方を堅持し、経済の構造的な改革を行うことなく、経済困難を根本的に解決することには、様々な困難が伴うのではないかと考えられる。他方、中国が推進してきた改革・開放政策類似の構造的な経済改革は、体制の基盤を弱体化させかねないとの指摘もある。このような状況の下、金正日国防委員会委員長は、本年1月の訪中の際、上海を訪れ、半導体企業やハイテク企業、上海証券取引所などを見学し(注1−89)、過去の慣例を全面的に検討し直すとの発言(注1−90)を行った。しかし、北朝鮮においては、社会主義を堅持することも引き続き強調されていることから、現在の改善策を超えた構造的な改革にまで踏み込むのか否か注目される。

(2) 対外関係

 北朝鮮と米国との関係は、99(同11)年から昨年にかけて、一定の進展を見せた。
 米国においては、98(同10)年のクムチャンニ地下核施設建設疑惑の浮上及びミサイル発射事案の発生の後、ペリー北朝鮮政策調整官(元国防長官)による北朝鮮政策の見直しが行われ、99(同11)年に報告書が公表された。この報告書によれば、朝鮮半島における戦争の抑止力はいずれの側においても安定しているものの、北朝鮮による核兵器又は長射程ミサイルの獲得が、その抑止を弱め、抑止力が崩れた場合の損害を増加させる可能性があり、北朝鮮の核及び長射程ミサイル計画を終結させることが必要であるとされている。その上で、今後、北朝鮮に対してとるべき戦略は、日米韓が連携しつつ、安全保障、人道その他の諸問題に対処する「包括的かつ統合されたアプローチ」により北朝鮮に関与し、日米韓及び北朝鮮が互いに相手方が認識するところの「脅威」を削減し合う道に進み、仮に、北朝鮮が挑発的行動に出る場合には、日米韓は脅威を封じ込め、強制的に抑止を図る道に移行することが適切であるとしている。
 米朝は、既に99(同11)年の米朝協議後の声明において、対話を継続することで一致し、その後、米国が対北朝鮮制裁の一部緩和を発表し、北朝鮮は、米朝高官協議が行われる間はミサイルの発射を行わない旨表明した。さらに、昨年に入ってからも数次の米朝協議が行われた。また、昨年6月には、米国は、99(同11)年に発表した対北朝鮮経済制裁の一部緩和を実施に移し、北朝鮮は、99(同11)年のミサイル発射凍結に関する声明は引き続き有効である旨発表した。その後、昨年10月には、国際テロに関する米朝共同声明が発表され、続いて、趙明録国防委員会第1副委員長の訪米により、米朝共同コミュニケ(注1−91)が発表された。さらに、オルブライト国務長官(当時)の訪朝も実現した。しかし、米朝共同コミュニケの中で触れられた米大統領の訪朝については昨年末、結局、本件訪問を見合わせる旨決定した。
 米国のブッシュ政権は、政権発足直後より、日本及び韓国と話し合いを行いつつ、北朝鮮政策の見直しを行い、本年6月、その終了を発表した。その際の声明によれば、米国は、北朝鮮と、 北朝鮮の核活動に関する「枠組み合意」の改善された履行、 北朝鮮のミサイル・プログラムの検証可能な制限とミサイル輸出の禁止、 より脅威の少ない通常兵力の態勢などの幅広い議題について真剣な話し合いを行うこととされている。また、こうした話し合いは、南北和解や、朝鮮半島における平和、米国との建設的な関係及び地域の更なる安定に向けた進展を促すことを目指す包括的なアプローチの文脈において行われるとされている。さらに、仮に、北朝鮮が肯定的に反応し、適切な行動をとるならば、米国は北朝鮮人民を支援する努力を拡大し、制裁を緩和するとともに、その他の政治的な措置をとることになろうとされている。
 南北関係については、昨年6月に、韓国の金大中大統領と北朝鮮の金正日国防委員会委員長の間で、分断後初の南北首脳会談が実現した。会談の結果、両首脳により南北共同宣言が署名され、次の合意がなされた。 国の統一問題を自主的に解決していくこと、 南(韓国)の連合制案と北(北朝鮮)の低い段階の連邦制案が互いに共通性があると認定し、今後、この方向で統一を指向していくこと(注1−92)、 離散家族の問題を解決するなど、人道的問題を速やかに解決していくこと、 経済協力を通じて民族経済を均衡的に発展させ、社会、文化、体育、保健、環境などの諸般の分野の協力と交流を活性化し、互いの信頼を固めていくこと、 以上のような合意事項を速やかに実践に移すため、早い時期に当局間の対話を開催すること。また、金正日国防委員会委員長は、今後、適切な時期にソウルを訪問することとされた。
 また、会談では、北朝鮮の核開発疑惑、ミサイル開発問題、在韓米軍(注1−93)についても話された。さらに、この共同宣言では触れられていないが検討すべきものとして、軍事ホットラインを開設することなどが韓国側より発表された。
 これらの合意を受け、南北間では各種の対話が行われている。たとえば、4回の南北閣僚級会談、北朝鮮の金容淳書記の訪韓などが行われた。軍事的な分野では、国防相会談が昨年9月に行われた。会談後共同報道文が発表され、南北共同宣言の合意事項の履行に伴う軍事的な問題を解決するために協力すること、朝鮮半島における軍事的緊張緩和や平和の確立などのために共同で努力することが合意され、京義線鉄道・道路工事に関連する事項についても合意された。なお、第2回会談を同年11月中旬に北朝鮮で開催することも合意されたが、この会談はいまだ実現していない。また、国防相会談での合意を受け、京義線連結をめぐる南北軍事実務会談が5回開催され、京義線の連結をめぐる軍事的な事項に関して合意がなされたものの、合意書への署名は北朝鮮側が拒否したままとなっている。
 以上のような南北対話の進展の一方、南北の部隊の相互視察や演習の相互通報などの本格的な信頼醸成措置はいまだ実現しておらず、また、軍備管理・軍縮の分野は、将来の課題となっている(注1−94)
 今後は、これまでの成果を基礎として、南北がさらに対話を継続し、進展させることによって、朝鮮半島の緊張が緩和する方向に向かうことが期待される。同時に、南北間の対話の進展が、朝鮮半島における軍事的対峙の緩和にどのように結びついていくのか、また、北朝鮮の核兵器開発疑惑や弾道ミサイル開発・配備の問題などの解決にどのように結びついていくのか、注意深く見極めていく必要がある。

(コラム「南北の信頼醸成、軍備管理・軍縮への取組」参照)

 また、北朝鮮は、その他の国との関係改善に向けて、最近、目立った取組を見せている。
 ロシアとの関係は、冷戦期と比べ疎遠化していたが、昨年、従前の条約に比して軍事協力色が薄くなった(注1−95)「露朝友好善隣協力条約」を両国が批准し、また、同年7月にプーチン大統領が訪朝するなど、関係改善の動きが見られる。
 中国との関係については、近年、両国間の貿易が減少傾向にあるなど、冷戦期と比べ疎遠化を示す事象も見られた。しかし、昨年5月に北京において金正日国防委員会委員長が江沢民国家主席などと会談し、食糧及び物資を無償で中国が北朝鮮に供与することが合意され、また、本年1月にも金正日国防委員会委員長が訪中し、江沢民国家主席と会談するなど、関係改善の動きが活発化している。
 また、北朝鮮は、99(同11)年来、相次いで西欧諸国などとの関係構築に努力している。99(同11)年の国連総会を機に各国と外相会談などを行ったことに続き、昨年1月には、イタリアとの外交関係樹立が発表された。以降、欧米諸国など(注1−96)と国交の樹立などがなされ、また、昨年7月にはARFASEAN Regional Forum)閣僚会合に初参加し、その機会を利用して各国と外相会談を行った。
 このような対外関係の増大により、北朝鮮の体制の透明性の向上が期待されるとともに、各国との相互依存関係が深まっていけば、北朝鮮の政策決定などにおいて、対外関係の維持という考慮が増していくと考えられる。一方、これまで北朝鮮は対外戦術として、意図的に緊張を高めることによって何らかの見返りを得ようとする、いわゆる瀬戸際政策をとる場合があったと考えられる点に留意する必要がある。このような観点から、北朝鮮の政策や行動については、その真の意図が何であるか見極めることが重要であるが、北朝鮮は、依然として閉鎖的な体制をとっているため、その動向については必ずしも明確とは言えず、引き続き細心の注意を払っていく必要がある。

(3) 軍事態勢

 北朝鮮は、62(昭和37)年に朝鮮労働党中央委員会第4期第5回全員会議で採択された、全軍の幹部化、全軍の近代化、全人民の武装化、全国土の要塞化という四大軍事路線に基づいて軍事力を増強してきた。
 現在も、深刻な経済困難に直面しているにもかかわらず、依然として、軍事面に資源を重点的に配分し、戦力・即応態勢の維持・強化に努めていると考えられる(注1−97)。たとえば、人口に占める軍人の割合も非常に高く、総人口の約5%が現役の軍人とみられている。また、そうした軍事力の多くをDMZ(Demilitarized Zone)付近に展開させていることなどが特徴となっている。なお、本年4月の最高人民会議における北朝鮮の公式発表によれば、北朝鮮の本年の国家予算に占める国防費の割合は、14.5%となっているが、国防費として発表されているものは、実際の国防費の一部にすぎないとみられていることに留意する必要がある(注1−98)
 さらに、北朝鮮は、大量破壊兵器や弾道ミサイルの開発や配備を行うとともに、大規模な特殊部隊を保持するなどし、いわゆる非対称的な軍事能力を依然として維持・強化していると考えられる。
 北朝鮮のこのような動きは、朝鮮半島の軍事的緊張を高めており、日本を含む東アジア全域の安全保障にとって重大な不安定要因となっている。
 北朝鮮の軍事力(注1−99)は、陸軍中心の構成となっており、総兵力は約110万人である。また、戦力・即応態勢の維持・強化に努めているものの、その装備の多くは旧式である。
 大量破壊兵器については、北朝鮮は核兵器開発疑惑を持たれているほか、化学兵器については、化学剤を生産できる複数の施設を保有しており、既に相当量の化学剤などを保有しているとみられており、また、生物兵器についても一定の生産基盤を保有しているとみられている。弾道ミサイルについては、既にスカッドBやCなどを生産・配備しているほか、ノドンの配備を行っていると考えられる。さらに、弾道ミサイルの長射程化のための研究開発を行っていると考えられる。
 情報収集や破壊工作からゲリラ戦まで各種の活動に従事する特殊部隊については、その勢力は約10万人に達し世界有数の規模であると考えられる。さらに、北朝鮮の全土にわたって多くの軍事関連の地下施設が存在するとみられていることも、特徴の一つである。
 陸上戦力は、27個師団約100万人を擁し、兵力の約3分の2をDMZ(Demilitarized Zone)付近に展開していると考えられる。その戦力は、歩兵が中心であるが、戦車約3,500両を含む機甲戦力及び火砲を有し、また、240mm多連装ロケットや170mm砲といった長射程火砲をDMZ沿いに常時配備していると考えられ、韓国北部の都市・拠点などがその射程に入っている。
 海上戦力は、約690隻約10万5,000トンの艦艇を有するが、ミサイル高速艇などの小型艦艇が主体である。また、ロメオ級潜水艦22隻のほか、特殊部隊の潜入・搬入用とみられている小型潜水艦約60隻及びエアクッション揚陸艇約135隻を有している。
 航空戦力は、約590機の作戦機を有しており、その大部分は、中国や旧ソ連製の旧式機であるが、MiG−29やSu−25といった、いわゆる第4世代機も少数保有している。また、旧式ではあるが、特殊部隊の輸送に使用されるとみられているAn−2を多数保有している。なお、99(同11)年、カザフスタンから約40機とも伝えられるMiG−21を調達(注1−100)した。
 北朝鮮軍は、即応態勢の維持・強化などの観点から、南北首脳会談後も、近年にない大規模な演習をはじめとする各種の訓練その他の所要の活動を引き続き行っている(注1−101)。また、長射程砲の前方配備の増強、地上軍部隊や航空部隊の再編成などを行っているとみられている(注1−102)。一方、深刻な食糧事情などを背景に、軍によるいわゆる援農活動なども行われているとみられている。

北朝鮮軍などの近年の動向

北朝鮮軍などの近年の動向


 北朝鮮による軍事的な動きとしては、近年、韓国側に対する侵入事案などが多く発生してきており、99(同11)年には、北方限界線(NLL:Northern Limit Line)を繰り返し越境した北朝鮮側艦艇と韓国側艦艇との間で銃撃などが行われた。また、同年には、黄海側の北方限界線の無効と自己に有利な新たな海上軍事境界線の設定を宣言し、さらに、昨年3月には、当該海上軍事境界線の内側の韓国側が実効支配する島への通航水路(五島通航秩序)を指定するなどの動きを見せた。
 他方、北朝鮮は、南北首脳会談以後、各種報道における「傀儡(かいらい)」、「怨讐(おんしゅう)」などの用語の使用を止め、前線地域の心理戦立看板のうち、「越北歓迎」、「親米売国」などの内容のものの撤去などを行い、また、北朝鮮海軍により北朝鮮の漁船がNLL付近に南下するのを取り締まっているとみられるなど、境界付近で緊張が高まるのを防ぐ努力を行っている。しかし、北朝鮮軍は、依然として戦力・即応態勢を維持・強化していると考えられ、浸透(注1−103)訓練も継続しているとみられている。このことは、北朝鮮が依然として、いわゆる対南工作を放棄していないと考えるべきなのか、もしくは、「先軍政治」の下で、軍の士気を維持し体制を引き締めるための方策なのか、必ずしも明らかではない。したがって、今後の動向に留意する必要がある。
 なお、99(同11)年には、北朝鮮の工作船と判断される船が日本の領海内に侵入し、北朝鮮北部の港湾に到達したと判断された事案も発生している。この際、海上自衛隊に対し、海上警備行動が発令された。

NLL(北方限界線)と北朝鮮の主張する海上軍事境界線

NLL(北方限界線)と北朝鮮の主張する海上軍事境界線


(4) 核兵器開発疑惑・弾道ミサイル

  核兵器開発疑惑
 北朝鮮は、従来、核兵器開発の疑惑(注1−104)が持たれていたが、93(同5)年、IAEA(International Atomic Energy Agency)の特別査察要求を拒否し、同年、NPT(Nuclear Non-Proliferation Treaty)からの脱退を宣言したことにより、ヨンビョンに所在する黒鉛減速炉などを用いた核兵器開発を行っているのではないかとの疑惑がさらに深まった。この問題については、94(同6)年に署名された米朝間の「枠組み合意」により、話合いによる問題解決の道筋が示された。「枠組み合意」によれば、米国は、北朝鮮への軽水炉及び代替エネルギー供与などのための諸施策を講じ、これに対し、北朝鮮は、ヨンビョンなどに所在する黒鉛減速炉及び関連施設を凍結し、最終的には解体するとともに、NPT締約国にとどまり、軽水炉が完成される前にIAEAとの保障措置協定を完全に履行(注1−105)することなどとなっている。すなわち、「枠組み合意」においては、北朝鮮に将来の核兵器開発を放棄させるとともに、軽水炉が完成する最終段階において、過去の核兵器開発疑惑も解明されるしくみとなっている。
 「枠組み合意」に基づき、95(同7)年以降、米国が北朝鮮に対する代替エネルギーとしての重油を供給してきたほか、軽水炉の供与などを実施する機関としてKEDO(Korean Peninsula Energy Development Organization)が設立された。その後、「枠組み合意」に基づく各種事業が逐次進捗(しんちょく)している(注1−106)
 一方、98(同10)年、北朝鮮が、同国北西部のクムチャンニにおいて、核関連の地下施設を秘密裏に建設中ではないかとの疑惑が浮上した。米朝間で累次の協議が行われた結果、疑惑解明のためのこの施設への米国側の訪問が99(同11)年に行われ、その結果、当該時点では、この施設は、「枠組み合意」に違反していない旨の報告が同年に発表されている。さらに、昨年5月には、米国側によるこの施設への2回目の訪問が行われ、前回の訪問以来、状況は変わっていない旨の発表がなされている。
 北朝鮮の核兵器開発疑惑は、日本の安全に影響を及ぼす問題であるのみならず、大量破壊兵器の不拡散の観点から国際社会全体にとっても重要な問題である。本問題の解決には、北朝鮮が「枠組み合意」などの合意内容を誠実に履行することが重要であり、今後とも、その対応を注意深く見守っていくことが必要である。

  弾道ミサイル
 北朝鮮は、80年代半ば以降、スカッドBやその射程を延長したスカッドCなどを生産・配備するとともに、これらの弾道ミサイルを中東諸国などへ輸出してきたとみられている。また、引き続き、90年代までに、ノドンなど、より長射程の弾道ミサイル開発に着手したと考えられ、93(同5)年に行われた日本海に向けての弾道ミサイルの発射実験においては、ノドンが使われた可能性が高い。さらに、98(同10)年には、日本の上空を飛び越える形で、テポドン1を基礎とした弾道ミサイルの発射が行われた。北朝鮮の弾道ミサイルについては、同国が極めて閉鎖的な体制をとっていることもあり、その詳細についてはなお不明な点が多いが、同国は、軍事的能力の強化の観点に加え、政治外交的観点や外貨獲得の観点などからも、弾道ミサイルに高い優先度を与えており、弾道ミサイルの長射程化を着実に進めてきていると考えられる。
 ノドンは、単段式の液体燃料推進方式の弾道ミサイルであると考えられる。また、スカッドと同様に、発射台付き車両に搭載され移動して運用されると考えられる。このノドンについては、種々の情報を総合すれば、北朝鮮がその開発を既に完了し、配備を行っていると考えられる。ノドンの射程は約1,300kmに達するとみられており、日本のほぼ全域がその射程内に入る可能性がある。また、その性能の詳細は確認されていないが、命中精度については、この弾道ミサイルがスカッドの技術を基にしているとみられていることから、たとえば、特定の施設をピンポイントに攻撃できるような精度の高いものではないと考えられる。
 また、北朝鮮は、より長射程のテポドン1の開発も進めてきていると考えられる。テポドン1は、ノドンを第1段目、スカッドを第2段目に利用した2段式の液体燃料推進方式の弾道ミサイルで、その射程は約1500km以上と考えられる。テポドン1は、98(同10)年に発射された弾道ミサイルの基礎となったと考えられるが、この発射により、北朝鮮は、多段式推進装置の分離、姿勢制御及び推力制御などに関する技術などを検証できたと推定されることから、テポドン1の開発は急速に進展しているものと判断される。

北朝鮮を中心とする弾道ミサイルの射程

北朝鮮を中心とする弾道ミサイルの射程


 さらに、北朝鮮は、新型ブースターを第1段目、ノドンを第2段目に利用した2段式ミサイルで、射程約3,500〜6,000kmとされるテポドン2についても開発中であると考えられ、派生型(注1−107)が作られる可能性も含め、北朝鮮の弾道ミサイルの長射程化が一層進展することが予想される。
 なお、北朝鮮の弾道ミサイル開発については、ロケットの燃焼実験や弾道ミサイル発射施設の拡張工事を行っている可能性などの種々の指摘がなされ、北朝鮮が弾道ミサイルの発射準備を進めているとの疑惑が浮上した。こうしたことから、この問題をめぐり米朝間で協議が行われた結果、北朝鮮は、99(同11)年に、米朝間の協議が行われる間はミサイルの発射を行わない旨を表明した。
 北朝鮮の弾道ミサイル開発の急速な進展の背景として、外部からの各種の資材・技術の北朝鮮への流入の可能性が考えられる。また、本体ないし関連技術の北朝鮮からの移転・拡散の動きも指摘されている(注1−108)
 このような北朝鮮の弾道ミサイル開発・配備などの問題は、核兵器開発疑惑とあいまって、アジア太平洋地域だけではなく、国際社会全体に不安定をもたらす要因となっており、その動向が強く懸念される。