〔第3節〕新防衛大綱の策定に至る背景


前大綱の策定の経緯とその内容

    我が国は、1958年度(昭和33年度)から76年度(同51年度)までの間、4次にわたる防衛力整備計画を策定して防衛力の整備を行ってきた。しかし、これらに関し、防衛力整備の考え方や理論が抽象的であり、また、目標とすべき防衛力の具体的な規模も明確でなかった。
    このような点にかんがみ、前大綱は、我が国が平時から保有すべき防衛力の水準を明らかにし、防衛力の在り方についての指針を示すために、76年(昭和51年)10月に決定された。それ以降、新防衛大綱に至るまでの防衛力の整備・維持・運用については、この前大綱の考え方に基づいて行われてきた。
    前大綱では、国際情勢について次のような認識に立っていた。

  1. 全般情勢について、核相互抑止を含む軍事均衡やさまざまな国際関係安定化の努力により、東西間の全面的軍事衝突又はこれを引き起こすおそれのある大規模な武力紛争が生起する可能性は少ない。

  2. 我が国周辺においては、限定的な武力紛争が生起する可能性を否定できないが、米・ソ・中という大国間の均衡的関係や日米安保体制の存在が国際関係の安定維持及び我が国に対する侵攻の防止に大きな役割を果たし続ける。
    前大綱は、このような国際情勢などが当分の間大きく変化しないという前提に立って、我が国に対する軍事的脅威に直接対抗するよりも、自らが力の空白となって我が国周辺地域における不安定要因とならないよう、独立国としての必要最小限の基盤的な防衛力を保有するという考え方、すなわち、「基盤的防衛力構想」を採用していた。

環境の変化に伴う新たな指針の明示

    前大綱策定後、既に約20年が経過し、我が国防衛を取り巻く環境に変化が見られている。まず、冷戦の終結などに見られるように国際情勢は大きく変化した。また、昨年1月の阪神・淡路大震災やカンボディアなどにおける国際平和協力業務における自衛隊の活動の実績を背景として、主たる任務である我が国の防衛に加えて、大規模な災害など各種事態への対応や国際平和協力業務の実施などを通じたより安定した安全保障環境の構築への貢献という分野における自衛隊の役割に対する期待が高まってきている。さらに、近年の科学技術の進歩に伴う装備の格段の性能向上、将来の若年人口の減少見込み、経済財政事情の厳しさによる防衛費の厳しい状況予想など自衛隊を取り巻く環境は前大綱時とは大きく変化している。
    以上のような国内外の環境の変化を踏まえ、長期にわたる広範な国民的議論の積み重ねを経て、昨年11月、「平成8年度以降に係る防衛計画の大綱について」(新防衛大綱)が策定された。


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