第6節防衛力を支える基盤を確保するための努力

  1. 防衛生産と研究開発

    (1)防衛生産

    わが国の防衛産業の特色としては、まず、航空機や艦艇から被服や食品までを含む、非常に幅の広い各種の産業分野から構成されていること、主契約の企業だけでなく各種の部品の製造を行う下請けなどの関連企業が多数存在しており、極めて裾野が広いことなどが挙げられる。また、武器輪出三原則などの政策により、その需要が国内に限定され、防衛庁の装備調達の動向により大きく影響を受けることが挙げられる。

    わが国の防衛生産の総額が国内の工業生産に占める割合は、おおむね0.6%程度であり、防衛産業各社の売上高に占める防衛生産の割合も、平均数パーセント程度にとどまっているが、航空機や武器弾薬の産業分野では、防衛庁の装備調達需要の大半を依存している。

    防衛産業を取り巻く環境は、厳しい状況が続くものと思われる。こうした中で、企業においても、合理的・効率化の推進に取り組んでいるところである。しかし、こうした過程を通じて技術者の離散などの維持・確保にも支障をきたすことにもなりかねない。

    防衛庁としては、健全な防衛産業の存在が、装備のハイテク化・近代化への対応、国情にあった適切な装備の維持・補給、あるいは緊急時の急速取得など、防衛力の整備を図る上で重要であるとの基本的考え方の下に、健全な防衛生産基盤が確保されていくことが課題である。

    (2)研究開発

    最近の科学技術の進歩に伴う装備の高性能化には著しいものがあり、今や最先端技術を有していること自体が抑止力の向上につながるといっても過言ではない。湾岸危機においては、技術水準の差が戦闘の帰すうを決定付けることが如実に示された。その意味で、今後とも質の高い技術を維持することは非常に重要である。

    また、自主技術による国産装備は、国土・国情に適し、改良、改善、維持・補給が容易といった利点がある。

    防衛庁は、従来から優れた民間技術力を積極的に活用して研究開発を行っており、こうした民間技術力は、防衛庁における装備の研究開発を進める上で力強い基盤となっている。

    一方、防衛産業内の技術者の整理、研究開発投資の低迷、防衛予算の抑制傾向など研究開発をめぐる環境が変化しており、研究開発の円滑な推進にとって困難な状況が生まれつつある。このような状況の中で、わが国の技術基盤と質の高い防衛技術水準の維持が緊急の課題となっている。

    そのため、防衛庁としては、研究開発の一層の効率化による経費の低減化に努めるとともに、将来の技術動向や発展性などを踏まえた適切な事業の選択により、技術基盤の維持・育成に効果的な研究開発を推進していくことが必要であると考えている。

  2. 人材の確保・育成

    若年労働力が急激に減少しようとする状況の下、質の高い隊員をこれまでのように大量に採用することは困難になることが予想される。また、自衛隊の任務の国際化や多様化に伴い、隊員として求められる能力や資質については、知識や経験などの知的な能力の重要性が高まっていることから、人材を活用し得る余地が拡大しているものと考えられる。

    このため、防衛庁では、「人材確保対策会議」を発足させ、人材の確保に資すると考える施策について幅広く検討を行っている。これまでに、自衛官の定年延長、婦人自衛官への全職域の解放、予備自衛官の婦人自衛官からの採用などについて実施に移しているほか、各種施策について引き続き検討を行うこととしている。

    人材の育成についても、自衛隊の任務の国際化と多様化という傾向に対応していく必要がある。また、軍事技術の高度化に伴い、より高い能力が必要とされるようになってきており、そのような人材の育成に長期間を要することも考慮にいれる必要がある。


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