第4節安定的な安全保障環境構築のための活動

  1. 安全保障対話・防衛交流

    国際社会に安定的な安全保障環境をもたらすためには、各国がその保有する軍事力及び国防政策の透明性を高め、防衛当局間の対話・交流などを通じて相互の信頼関係を深めることにより、無用な軍備増強や不測の事態における危機の拡大を抑えていくことが重要である。

    近年、アジア・太平洋地域においても、地域の安全保障に対する関心が高まっており、さまざまなレベルで政治・安全保障問題に関する対話・交流が始まっている。わが国としても、アジア・太平洋地域における安全保障対話を積極的に進めている。

    しかしながら、アジア・太平洋には、欧州のような多国間の安全保障のメカニズムは存在していない。このような、アジア・太平洋地域の事情を考慮しつつ、安定的な安全保障環境をもたらすための地道な努力を着実に進めていく必要がある。

    わが国は、第1回アジア・太平洋安全保障セミナーの開催、韓国海軍練習艦隊の訪日、統幕議長の訪韓・訪中、防衛庁幹部の訪露などの実績を重ねてきている。

    わが国にとって、多くの国と防衛分野での交流を深めることは、お互いの軍事力及び国防政策につき理解を得、信頼関係を深めていくことを可能としている。

    防衛庁としては、防衛駐在官を通じての交流、防衛研究所における研究交流、留学生の交流、教育訓練の場における交流などを通じ、諸外国との意見交換、相互理解、友好親善や信頼醸成に積極的に取り組んでいる。

  2. 国際平和協力業務

    (1)わが国の国際貢献

    国際社会において、わが国が国際貢献を行っていくことは、わが国の国際的責務であり、この努力は国際社会の平和と安定に寄与し、ひいてはわが国の安全保障にも資するものである。

    (2)自衛隊参加の意義

    国連平和維持活動と人道的な国際救難活動への協力に当たっての自衛隊の参加は、国の防衛という基本的な任務を果たすため日夜厳しい訓練を通じて培ってきた自衛隊の技能、経験及び組織的な機能を活用することが最適であるとの理由によるものである。

    すなわち、平和維持隊や停戦監視団には軍事的専門知識や経験が必要であり、国連は、これらの業務に各国が協力する場合には各国の軍事組織に属する者の派遣を求めている。また、国連平和維持活動や人道的な国際救援活動においては、必要な生活基盤や施設の多くを欠いた厳しい環境での活動となることから、みずから食事、通信、輸送手段などを手当てすることが必要な場合が多い。このような環境に耐え得る自己完結的な能力を有する組織は、わが国には自衛隊しかいないと思われる。

    (3)これまでの教訓・反省事項

    これまで行った3つの国際平和協力業務の活動は、総じて言えば、大きな成果を得、成功を収めてきたと評価されている。これらを通して得られた主要な教訓・反省事項はとしては、

    1. 派遣部隊に対する継続的な補給や派遣隊員の留守家族支援などにおいて、防衛庁・自衛隊という組織を挙げての対応が不可欠であったこと

    2. 業務の実施や安全の確保において、派遣先政府、国連、NGO、現地住民などとの良好な関係が不可欠であったこと

    3. 司令部と、より一層緊密に意思疎通を図るためには、司令部要員の派遣が望ましいこと

    4. 個々の隊員の判断によるものとされている武器使用について、隊員の心理的負担が大きかったこと

    5. 語学能力の向上や現地の状況の周知徹底などの教育訓練を今後さらに充実させる必要があること

    6. 人道的な国際救援活動を実施する場合は、情報収集を含め、可能な限り迅速な対応が求められていること

    7. 人道的な国際救援活動に際して、実施する業務の定め方に十分配慮された結果、現地での幅広い要請に柔軟に対応できたこと

    などが挙げられる。

    防衛庁としては、これらの貴重な経験を今後の活動に生かすべく、必要に応じ総理府国際平和協力本部事務局などとも調整しつつ、検討を進めている。

    (4)自衛隊の実施する国際平和協力業務に関する議論

    自衛隊の実施する国際平和協力業務に関して、以下のような議論があり、防衛庁でも検討を進めている。

    平和維持隊本体業務の凍結解除及び国際平和協力法の見直しに関する議論

    国際平和協力業務の自衛隊法における任務の取扱いの議論(いわゆる本来任務化)

    国連平和維持活動参加に関する組織の在り方(いわゆるPKO別組織論)

    上記ウに関し、PKO別組織論があるが、これについては、自己完結的な能力を有する組織の参加が求められていることなどから、防衛庁としては、別の組織を設置する必要はないと考えている。

  3. 軍備管理・軍縮努力に関する協力

    わが国は、軍備管理・軍縮分野において国連の行う活動に対する支援を含め、さまざまな形で努力してきており、今後、この分野での協力の重要性は、さらに増大するものと考えられる。それに伴い、軍事に関し専門的な知識と経験を持った人材が必要とされ、この分野におけるより一層の協力が求められている。


[前ページ] [目次] [次ページ]