第3節わが国周辺の軍事情勢
  1. 全般情勢第1図参照)

    アジア・太平洋地域においては、1.地域の安全保障問題に関する対話を開始するなど域内の安定化へ向けた努力が見られ、2.一方で、多くの国が国防力の近代化を進めており、3.当面、欧州において生起したような大きな変化が見られるような状況にはない。

  2. 朝鮮半島第2図参照)

    1. 朝鮮半島においては、依然として、韓国と北朝鮮の合わせて150万人を超える地上軍が非武装地帯(DMZ)を挟んで対峙している。このような対峙の状況は、朝鮮戦争以降続いており、冷戦後も基本的に変化していない。北朝鮮は核兵器開発疑惑を持たれているほか、ミサイルの長射程化のための研究開発の動きは、朝鮮半島の軍事的緊張を高めており、わが国を含む東アジア全域の安全保障にとって重大な不安定要因となっている。

    2. 北朝鮮の活動については、演習・訓練が増大傾向にあり、金日成の死後もこの傾向は変わっていない。

    3. 北朝鮮が核不拡散条約(NPT)脱退を宣言した後、米朝協議、国際原子力機関(IAEA)と北朝鮮との協議が続けられた。94年10月に米朝間で「枠組み合意」が署名され、さらに本年3月、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)が発足したが、米朝間の主張には依然隔たりがあり、さらなる協議が続けられている。

    4. 北朝鮮は、現在、射程約1,000kmともいわれるノドン1号を開発中であるとみられる。北朝鮮のミサイル開発は、国際社会全体に影響を与えるだけでなく、わが国を含む北東アジアに不安定をもたらす要因であり、わが国としては、その開発動向を強く懸念している。

  3. 極東ロシア軍

    1. 90年以降は量的な縮小が見られ、この傾向はロシア軍となってからも続いている。

    2. 極東ロシア軍の活動は全般的に低調になっており、即応態勢も低下しているものとみられる。装備の近代化のぺ一スは緩やかなものとなっているが、現在、極東地域には、大規模な戦力が蓄積されている状況にある。

    3. ロシア軍の動向は不透明であり、極東ロシア軍の今後の動向も不確実なものとなっている。このような極東ロシア軍の存在は依然としてこの地域の安全に対する不安定要因となっている。

    4. わが国周辺におけるロシア軍の活動は、艦艇、航空機の行動に減少傾向が見られるとともに、わが国に近接した地域における演習・訓練も低調となっているとみられる。

  4. 中国

    1. 中国は、経済建設を推進する上で安定的な国際環境が必要であるとの観点から、近隣諸国との関係改善と交流拡大を積極的に進めている。また、西側諸国との関係について言えば、近年、徐々に回復する傾向にある。

    2. 中国は、近年、南沙群島における活動拠点を強化するなど、海洋における活動範囲を拡大する動きを見せている。本年2月には、南沙群島の「ミスチーフ礁」(通称)において、中国が建設物を構築したことを契機として、関係当事国などの緊張が高まった。

    3. 中国は、核戦力の近代化と多様化に努めており、昨年6月と10月の2回に引き続き、本年5月にも地下核実験を実施した。

    4. 中国は、海・空軍近代化の優先的発展の方針に従った軍建設が進められているとみられ、中国の国防費は、7年連続で毎年12%以上の伸び率である。しかしながら、中国が経済建設を当面の最重要課題としていることなどから、財政支出に占める国防支出の割合の急激な増加は予想し難いこと、また、インフレ基調と財政赤字という国難に直面していることなどから、中国の国防力の近代化は漸進的に進むものとみられる。

  5. 東南アジア

    ASEAN諸国は、経済力の拡大などに伴い、国防費を増額し、旧式装備の更新を主眼とした新型の戦闘機や艦艇の導入などの近代化を進めている。同時に、この地域では、域内の安全保障に対する関心が高まっており、第1回目のARFがバンコクで開催された。一方で、この地域には南沙群島問題などの領有権をめぐる対立などが不安定要素として存在している。

  6. 太平洋地域の米軍

    1. 米国は、従来からわが国を始めとするアジア・太平洋地域の平和と安定の維持のために大きな努力を続けている。

    2. 98年に発表されたボトムアップ・レビューでは、北東アジアに関し、今後も10万人近い戦力を維持することが明記された。また、本年2月に発表されたEASRでは、冷戦後のアジア・太平洋地域における米軍の兵力削減は完了し、この地域における前方展開戦力を現行の水準に維持することを再確認した。


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