第2節国際社会の課題と対応

  1. 地域紛争

    基本的認識は次のとおりである。

    1. 冷戦の終結により、世界的規模の戦争の可能性は減少した。他方、領土、民族、宗教などのさまざまな要因に基づく地域固有の種々の対立が顕在化あるいは尖鋭化し、武力紛争の発生や拡大の危険性が増大している。このような地域紛争やそれにつながりかねない不安定要因の存在は、国際社会にとって深刻な課題となっている。

    2. 国際社会は、地域紛争の解決に向けて積極的に取り組もうとし、国連の活動が期待されている。また、地域的機関も地域紛争の解決に向けて積極的に関与している。しかし、このような努力にもかかわらず、紛争の早期解決が困難な状況に直面している事例も多い。

  2. 国際連合の対応

    地域紛争の処理や予防に関して、安保理を中心とする国連の役割に対する期待が高まっており、国連平和維持活動も規模が拡大し、任務についても従来の伝統的な枠を超える新たな試みがなされてきたが、すべて成功しているとは限らない。

    また、伝統的な国連平和維持活動から最近の国連平和維持活動への動きの中にあって、ガリ国連事務総長が「平和のための課題−追補」を安保理に提出し、予防外交と平和創造、平和維持、紛争後の平和構築への移行など国連の紛争への対処についての課題を指摘し、国連として加盟国に強制措置を委ねる方策の問題点も併せ指摘している。

    国連平和活動などに携わる要員の安全確保を図る動きや、平和維持活動の経費について、財政再建と合理化の動きがある。

  3. 兵器の移転・拡散と対応

    大量破壊兵器(核・生物・化学兵器)及びその運搬手段を含む兵器の移転・拡散問題は、国際社会の抱える緊急の課題となっている。このため、国際社会においては、各種の不拡散体制を強化・拡充して、大量破壊兵器などの移転・拡散を防止する努力が行われている。

  4. 軍備管理・軍縮の進展

    戦略兵器削減条約(START)、第2次戦略兵器削減条約(STARTII)など、米露の核軍備管理・軍縮が進展している。さらに、欧州においても、欧州通常戦力(CFE)条約などにより軍備管理・軍縮が進展している。

  5. 地域的な安定化努力

    欧州において、現在、NATO、OSCE、欧州連合(EU)、西欧同盟(WEU)などの機構を組み合わせ、相互に補完する方向が模索されており、紛争の予防への取り組みをより強化する方向で、各機構の役割などが検討されている。

    また、アジア・太平洋地域については、最近、この地域においても、ASEAN地域フォーラムにおける多国間政治・安全保障対話の動きなど、域内の政治・安全保障に対する関心が高まっている。

  6. 安全保障分野での交流・信頼醸成

    冷戦後、各国が保有する軍事力や国防政策の透明性を高め、国防当局間で対話や交流を行うことによって、相互に信頼関係を高めようとする動きが活発化している。また、「ウィーン文書1994」が採択されるなど、信頼・安全醸成措置(CSBM)が進展している。

    さらに、今後、国防白書の発行国が増加し、その内容が充実することにより、軍事分野における透明性が高まることが期待される。

  7. 欧米諸国及びロシアの国防政策

    (1)米国

    米国は、冷戦後、安全保障に対する脅威の性質が変化し、現在は、多様な脅威の源が存在していると認識している。その上で、このような脅威に対しては、他の国々や国際機関などとの協力の重要性を強調している。また、米国は、「ボトムアップ・レビュー」を実施し、冷戦後の安全保障環境を前提とした米軍戦力を包括的に見直したが、北東アジアにおいては、今後も現在と同規模の約10万人の戦力を維持することを明らかにした。現在、米国は、「関与と拡大」戦略により、国外の問題に積極的に関与していく方針を示しながらも、国外での軍事力使用の可否や投入する軍事力の規模・形態などについては、国益に対する影響の度合いや軍事力使用のコストなどを勘案して決定することとしている。

    (2)欧州諸国

    英国、ドイツ、フランスについて、冷戦終結後の戦略環境の変化に対応した国防力の削減・再編などが進んでいる。

    (3)ロシア

    ロシア連邦安全保障会議において「ロシア連邦軍事ドクトリンの主要規定」が採択され、その要約を公表したことにより、国防政策の一端が明らかになったが、全文が公表されていないことから、ロシアの国防政策の全体像はいまだ明らかではない。また、ロシアは、CIS諸国との間で軍事的な再統合の動きを見せており、CIS諸国に対するロシアの影響力拡大の傾向が注目される。

    ロシア軍については、その将来像は必ずしも明確でなく、ロシア軍の今後の動向については引き続き注意深く見極めていくことが重要である。


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