第1章国際軍事情勢


第1節全般的な国際軍事情勢


  1. 冷戦の終結、特にソ連の解体により、従来の戦略環境には大きな変化が生じている。国際社会は、より安定的な秩序を求めて努力を続けているが、いまだその先行きは不透明であり、明確な方向性が現れるに至っていない。

  2. 世界的規模の戦争が発生する可能性は遠のき、米国、旧ソ連や欧州においては、軍備管理・軍縮の動きが引き続き進展している。

  3. 一方、大量破壊兵器などの移転や拡散は、地域紛争を一層深刻なものにするおそれがあり、国際的にも強く懸念されている。また、世界各地の宗教上や民族上の問題などに起因する種々の対立が表面化あるいは尖鋭化しつつある。

  4. このような情勢の中で、国際連合(国連)は、国際の平和と安全を維持する機能を、従来以上に発揮することを期待されており、従来型の活動の範囲を越える活動も行われている。ガリ国連事務総長は、「平和のための課題−追補」を安全保障理事会(安保理)に提出し、武力行使を伴う活動は、現在の国連の能力を越えることなどを明らかにした。

  5. 地域的な平和と安全を維持するための動きも活発化している。欧州においては、欧州安全保障・協力会議(CSCE)の欧州安全保障・協力機構(OSCE)への名称変更にも示されるように各種機能の強化が図られた。また、北大西洋条約機構(NATO)との間で平和のためのパートナーシップ(PFP)の枠組み文書に署名した国は26か国に上っている。アジア・太平洋地域においては、昨年7月、ASEAN地域フォーラム(ARF)の第1回会合が開催された。

  6. 米国は、冷戦後も唯一の超大国として、引き続き世界の平和と安定に最も大きな役割を果たしている。米国のクリントン政権は、「ボトムアップ・レビュー」の結果に基づき、通常戦力の再編を行っている。一方、核戦力については、昨年9月に「核態勢見直し」を明らかにし、STARTII水準まで戦略核戦力を削減し、当面はそれを維持することとしている。また、国連の平和維持活動については、米国の国益を踏まえて、選択的に関与することとしている。

  7. ロシアをめぐる情勢は、依然として流動的である。昨年8月、ドイツ及びバルト3国駐留のロシア軍が撤退する一方、CIS諸国と特別の関係にあることを強調するなど、同地域に対する影響力の拡大を志向しているものとみられる。このようなロシアの動きについては、今後とも注目していく必要がある。

  8. アジア・太平洋地域においては、冷戦終結後も、諸問題が未解決のまま存在しており、冷戦の終結に伴い欧州において生起したような大きな変化が見られるような状況にはない。また、経済の拡大などに伴い、アジア諸国の多くは、それぞれ国防力の充実・近代化に努めている。

  9. 朝鮮半島には、依然として南北の軍事的対峙の構造が残っており、緊張状態が続いている。特に、北朝鮮は、軍事力の近代化を図っており、即応態勢の維持・強化にも力を注いでいる。北朝鮮の核兵器開発疑惑については、わが国の安全にも影響を及ぼす問題であるのみならず、大量破壊兵器の不拡散の観点から国際社会にとっても重大な問題となっている。また、北朝鮮は、引き続き弾道ミサイルの長射程化のための研究開発を行っているものとみられ、わが国のみならず国際社会に不安定をもたらす要因として、強く懸念される。

  10. 極東ロシア軍は、引き続き量的には縮小傾向を示している。また、活動は、低調になっており、即応態勢も低下しているものとみられる。しかし、依然として大規模な戦力が蓄積された状態にあり、近代化も行われている。このような極東ロシア軍の存在は、アジア・太平洋地域の安全に対する不安定要因となっている。

  11. 中国は、国防力について量から質への転換を図っており、近年、国防予算を大幅に増額している。中国は、核戦力の近代化を続けており、昨年は2度、本年も5月に核実験を実施した。また、海・空軍を中心に装備の漸進的近代化を進めている。本年2月には、南沙群島海域の「ミスチーフ礁」(通称)に建造物をこう移築したことにより、関係諸国の懸念が高まっている。このような中国の海洋における活動範囲拡大の動きについては、今後とも注目していく必要がある。

  12. 近年、東南アジア諸国の多くにおいては、国防費を増額するとともに、軍事力の近代化を図る動きが見られる。同時に、域内・外との対話に向けた動きも進展してきており、今後の動向が注目される。

  13. 本年12月、米国は、「米国の東アジア・太平洋地域における安全保障戦略(EASR)」を公表し、この地域の安全保障に米国が引き続き関与し、現状の前方展開戦力を維持していくことを確認している。

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