防衛研究所 米欧ロシア研究室 山添 博史(やまぞえ ひろし) 室長
ロシアによる侵略により、ウクライナ全土の国民は2022年2月から2年を超える戦闘状態を強いられています。ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領が率いる政権および軍が防衛を遂行するのみならず、多くの人々がウクライナという国を通じて自らの社会を守ろうと動いています。困難に陥る人々を助け、作戦に資する情報を提供し、通信や輸送のインフラを復旧し、技術開発と生産で経済と作戦能力を高め、議論しながら防衛の国策を支持しています。2023年末の世論調査でも7割以上の人が領土を放棄すべきではないと回答しており、苦境にもかかわらず作戦を継続する意思は強いようです。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は2022年2月24日に攻撃を開始して「ウクライナを非軍事化・非ナチ化する特別軍事作戦」を宣言しましたが、首都キーウに集中的な攻撃を行ったものの、本格的な都市攻略と占領に必要な軍事準備を伴っていませんでした。ロシアの見方では、ウクライナの政治はいつも分裂していて脆弱と考えがちだったので、軍事的な威力と内通工作を組み合わせれば、支持率が落ちているゼレンスキー政権は容易に見放されて、親ロシア政権をつくりだせると考えたのでしょう。この時期は米国が欧州東部地域にまで強力に関与する意思が弱いと考え、今後は巡ってこない機会であると焦って決断したのかもしれません。しかし現実のウクライナはもっと強靱で、プーチン政権は始めてしまったウクライナ侵略の目的と現実のギャップが大きすぎて、止めることも考えられず犠牲ばかり増やしてきました。
今後、ロシアが武力行使を終えたとき、ウクライナが強靱でロシアへの損害が大きすぎることを実感していれば、再び武力行使を始める動機は小さくなるでしょう。ウクライナが現在の厳しい戦いを行うことには、将来の平和を支える意味もあります。「武力行使が成果をもたらす」と誤解する余地があるのは危険で、それを減らしていく能力と意思が、平和の基盤になります。
ハルキウへの砲撃後に再建作業を行う事業者
【Ukrinform/時事通信フォト】
(注)本コラムは、研究者個人の立場から学術的な分析を述べたものであり、その内容は政府としての公式見解を示すものではありません。