国家安全保障戦略などは、防衛技術基盤の強化は必要不可欠であるとしたうえで、官民の先端技術研究の成果を装備品の研究開発などに積極的に活用することや、新たな装備品の研究開発のための態勢を強化することが必要であるとしている。こうした防衛技術基盤の強化の方針を具体化し、各種の取組を防衛省として一体的かつ強力に推進する際の指針となるものとして、防衛省は、2023年6月、防衛技術指針2023を策定した。こうして指針を対外的に発信することで、企業などの予見可能性を高めるとともに、防衛技術基盤の強化についての共通認識を醸成し、技術的な連携を強力に進める基盤の構築も目指しており、指針の概要は次のとおりである。
参照資料63(防衛技術指針2023(Executive Summary))
科学技術の進展は、わが国に経済的・社会的発展をもたらすとともに、安全保障環境にも大きな影響を及ぼし、戦闘様相も変えつつある。この結果、装備体系の能力向上のみを続けるだけでは、わが国の平和と独立を守り、国の安全を保ち続けることができなくなる可能性がある。切迫した安全保障環境に対応するためには、わが国の科学技術・イノベーション力をスピンオンし、安全保障目的、防衛目的で最大限に活用していくとともに、防衛省の研究開発の成果をスピンオフして社会に還元していくことが必要である。防衛省の研究開発においても、わが国を守り抜くという観点で、これまでとは異なる新たなアプローチ、手法を取っていくことが必要になっている。
防衛省・自衛隊は、自分の国を自分で守り抜ける防衛力を持つことが必要であり、それを技術的に支えることが、防衛技術基盤の強化の目的である。このため、防衛技術指針2023が目指す将来像は、将来にわたり、技術でわが国を守り抜くこととしている。
将来の戦い方に直結する、わが国を守り抜くために必要な機能・装備を迅速に創製し、5年以内、またはおおむね10年以内の早期装備化を実現していく。
10年以上先も見据え、官民の連携のもとで、わが国が持つ科学技術・イノベーション力を結集して、様々な技術を機能・装備として実用化し、将来にわたりわが国を守り抜くための機能・能力という新たな価値を創出することで、わが国の防衛に変革をもたらす防衛イノベーションを実現し、将来にわたってわが国の技術的優越を確保し、他国に先駆け先進的な能力を実現する。
第1の柱、第2の柱を実現していくためには、防衛省・自衛隊が必要とする機能・装備を「創(つく)る」こと、戦略的な視点で技術を「育てる」こと、様々な科学技術について「知る」ことが必要である。これらの取組を、防衛省内のみならず、関係府省庁、研究機関、企業、大学などと共に、技術の保全を意識しつつ、シナジーを生み出しながら、無理なく持続的、自律的に連携し、共に成長を続けられる環境と仕組みを構築していく。
防衛力を迅速に強化すべく、あらゆる手段を講じて、機能・装備の研究開発期間の短縮などを実現していく。必要な機能・装備を迅速に実装し、運用現場で実証し、その結果や教訓事項をさらなる改善に反映していく。早期装備化を指向した研究開発手法も積極的に取り込みながら、迅速かつ柔軟に機能・装備を提供していく。研究開発のなかで、部隊運用が可能な品質の試作品を製造し、試験的に部隊配備を行い、できるだけ早く運用の現場で実証し、抑止力の向上につなげるなどの新たな手法も導入していく。防衛省外の研究開発リソースや、各種課題の解決に向けたアイデアなども積極的に活用するオープンイノベーションを進めていく。
省内の政策部門、運用部門、技術部門が一体となって、将来の戦い方の構想と、機能・装備の研究開発や取得の方向性を創る。技術の将来を予測し、将来の戦い方を見通していくとともに、民生分野の科学技術に関する豊富な知見を有する省外の専門家にも協力してもらい、新たな脅威に対する技術の活用方策を検討していく。
研究開発には、技術的知見、人材、施設、試験設備などの研究開発の基盤が不可欠である。研究開発の基盤を有する防衛装備庁の研究所、試験場や研究開発事業を支えてきた企業などと目標を共有し、企業などの予見可能性を高め、方向性を合わせて事業を実施していく。研究開発を進めるうえで不可欠な基盤装備技術を継続的に維持・強化するための投資も行っていく。スタートアップを含む、防衛分野の研究開発とは関係が薄かった企業などとも連携し、コミュニケーションを取りながら、多様な企業などが事業に参画できる仕組みを構築していく。スタートアップなどが持つ技術を防衛関連企業が機能・装備にインテグレートできる技術基盤を構築していく。防衛分野での将来における研究開発に資することを期待し、目的指向の基礎研究を公募・委託する安全保障技術研究推進制度は、民生分野では育成されにくいニッチな技術を創ることや、科学技術領域の限界を広げるような基礎研究の発掘、育成に力を入れており、今後も本制度を活用して、新たな技術基盤を創り続けていく。多様な役割を果たす人材を柔軟かつ適時に必要な部門に配置できるよう、人材育成のさらなる強化、経験者採用の拡大など、人材の活用、登用に関する新たな取組も積極的に進めていく。
これまでの研究開発の経験のみにとらわれず、新たに育てていくべき技術を見出していくとともに、従来の研究開発手法とは異なる新たなアプローチも積極的に取っていく。チャレンジングな研究も推奨し、予期しない技術的リスクを許容できる研究開発の仕組みも創っていく。
防衛省のリソースに限界があることや、防衛省の研究開発投資が政府全体の科学技術・イノベーション投資のごく一部であることを踏まえ、省外にある様々な科学技術を防衛分野で積極的に活用していく。目的の違う研究開発の成果を防衛目的で効果的に活用していくために、防衛省のニーズや取組の方向性を努めて具体的に発信し、防衛省事業に参画しやすい環境を創り、新たなパートナーの開拓や、研究者同士のネットワーク構築、拡大を進める。企業などの努力が報われ、ビジネスがおのずと育つ仕組みも構築していく。防衛分野と、防衛とは関係なかった分野を掛け合わせることによる新たな化学反応を起こし、これまでとは違う発想で技術的なソリューションを育てていく。技術を育てるために、わが国と海外の科学技術・イノベーション力を最大限に活用する。
防衛省の研究開発の成果は、わが国の科学技術・イノベーション力の底上げにもつながっている。地球規模課題への対応などに寄与するという観点も踏まえ、様々な研究開発を防衛省で進め、わが国の科学技術・イノベーション力を育てていく。安全保障技術研究推進制度を通して、目的指向の基礎研究を実施する人材を拡大するとともに、多様な研究者の確保、新たな研究分野の開拓、新規研究分野における人的つながりの構築、強化などを進め、科学技術・イノベーション力の裾野を広げていく。
国内外の民生分野の技術動向や、わが国のスタートアップを含む企業などの状況、研究機関、大学などが持つ先端技術、革新技術や、研究開発プロジェクトとその成果を知り、科学技術の最新状況を正確に把握したうえで、防衛省がこれから何をしていくべきかを検討していく。
様々な科学技術が、戦いの現場で使われ始めているなかで、科学技術が今どう使われているのか、新たに生まれる科学技術が、今後どう使われうるのか、その結果、安全保障環境やわが国の防衛にどういった変化を及ぼすのかなどを正確かつ迅速に把握し、防衛省として必要な対策を講じていく。
防衛省が、技術に関して何を、どのような目的で行っているのか、それらがわが国を守るという観点でどのような効果があるのかなどを、積極的に省外に発信していく。防衛省の研究開発事業の計画や将来の見通しを可能な限り省外とも共有し、省外関係者の予見可能性を向上させる。
資料:防衛技術指針2023 ─ 将来にわたり、技術で我が国を守りぬくために ─
URL:https://www.mod.go.jp/atla/guideline2023/
将来にわたり、わが国を守り抜くうえで、どのような機能・能力が必要なのかを考え、それをブレークダウンしてわが国を守り抜くうえで重要な技術分野を具体化している。
参照図表IV-1-2-2 (わが国を守り抜くうえで重要な機能・能力)