防衛事業は高度な要求性能や保全措置への対応の必要性などにより、多大な経営資源の投入を必要とする一方、収益性は調達制度上の水準より低い傾向にあった。原価計算方式の価格算定において、企業努力を正当に評価し、企業の適正な利益を算定する仕組みを構築しつつ、調達制度についてもより一層の効率化を促すための各種契約制度の見直しを不断に行うこととしている。
2016年から、防衛生産・技術基盤を維持・強化することを目的に、防衛産業に未参入の国内の有望な中小企業などを発掘し、防衛関連企業や防衛省・自衛隊とのマッチングを図ることで、防衛産業に新規参入する機会を創出、促進する展示会を実施している。2023年10月には大阪で、2024年1月から2月にかけては東京で、それぞれ2日間、計2回実施した。なお、大阪では、和田防衛大臣補佐官(当時)から、東京では、高見防衛大臣補佐官から防衛生産・技術基盤強化の重要性について説明した。
防衛産業参入促進展の様子
防衛省・自衛隊は、スタートアップ企業と連携し、現存する民生技術・既製品などを活用しながら、先端技術研究の成果を装備品の研究開発などに積極的に取り込むことで早期装備化を推進している。こうした取組の一環として、経済産業省と連携し、経済産業省が保有するスタートアップ支援の枠組みやネットワークを活用し、防衛省・自衛隊のニーズとスタートアップ企業などとのマッチングを図る機会を創出するため、防衛省と経済産業省の関係部署が会合する枠組みとして、防衛産業へのスタートアップ活用に向けた合同推進会を整備した。2023年6月、9月、10月と2024年1月に計4回、実施した。
参照図表IV-1-1-2(合同推進会に参加した企業の例)
2022年から、国内防衛関連企業の日米共通装備品などのサプライチェーンやインド太平洋地域における米軍の維持整備事業への参画を図るため、在日米軍および米国防衛産業とのマッチングの機会となる展示会(インダストリーデー)を実施している。2023年は10月に東京で実施した。
2023年1月、日米防衛相会談にて、「防衛装備品等の供給の安定化に係る取決め」(SoSA:Security of Supply Arrangement)の署名がなされた。本取決めは、装備品等(最終製品のみならず、その部品や役務も含む。)を日米間で安定的に相互に供給し合うことを目的とした枠組みであり、装備品等の強靱で多様化されたサプライチェーン構築に寄与するものである。
参照図表IV-1-1-3(防衛装備品等の供給の安定化に係る取決め(SoSA)(イメージ))
先端技術をめぐる国家間の競争が激化し、国家による様々な手段による軍民双方の技術情報の獲得が試みられており、防衛産業は、その最前線の様相を呈している。防衛関連企業は、サイバー攻撃を含む諸外国の情報活動などのリスクに晒されている。このようななかで、防衛関連企業は、わが国の防衛上の秘密情報などを適切に保護しながら自衛隊の装備品等の開発・生産・維持整備を行い、また、同盟国・同志国などの秘密情報などを保護しながら防衛装備・技術協力に参画していく必要がある。
こうした事情を踏まえつつ、防衛装備庁においては、国際水準を踏まえた防衛産業保全の強化を推進する取組の一環として、2023年5月、欧米など30か国を超える参加国間の産業保全措置の標準化などを目的とする「多国間産業保全ワーキンググループ」(MISWG:Multinational Industrial Security Working Group)に加入した。
また、わが国の防衛産業に関心のある外国政府・外国企業および防衛産業への参画を希望する国内企業を念頭に、防衛産業の秘密保全制度の一覧性を高めるべく、防衛省と契約した企業が守るべき事項を分かりやすく整理した防衛産業保全マニュアルを同年6月に公表した。
これに加え、秘密ではないものの適切な保護を要する情報についての対策を強化するため、米国防省が企業に適用しているセキュリティ対策の基準(NIST SP800-171)を参考に、これと同水準のセキュリティ対策を盛り込んだ防衛産業サイバーセキュリティ基準に基づき、同年4月以降、防衛関連企業において保有する情報システムの改修などが進められている。
防衛装備移転時に技術の重要度や優位性などを踏まえた技術的機微性評価を実施し、機微性が高い技術については、技術のリバースエンジニアリング対策を推進するなど、技術流出防止に取り組んでいる。
近年、先端技術をめぐる国際競争が激化するなか、経済安全保障施策の一つである特許出願の非公開に関する制度、あるいは対内直接投資などについて、技術流出防止の観点から関係府省庁と連携・協力している。
このほか、機微技術管理を強化するため、防衛技術の専門家としての観点から先端技術の分析を実施し、重要技術の特定・把握に努めるとともに、同盟国などと技術分析の連携推進に取り組むこととしている。
2022年2月から防衛産業(主要プライム企業)との意見交換を行い、同年4月以降、計2回、防衛大臣と主要プライム企業の社長などが一堂に会した。加えて、防衛装備庁長官と各企業防衛部門の長との間での意見交換を計6回実施し、双方が認識している問題や課題を共有するなど、官民の協力・連携の強化を進めていくこととしている。
防衛生産基盤強化法に基づく施策を有効なものとするためには、防衛産業において、これら新たな制度が周知され、活用されることが不可欠である。特に、防衛産業を構成するサプライヤーは全国各地に広く所在することから、防衛省は、2023年12月以降、「君シカオランセミナー」(防衛産業向け基盤強化施策についての巡回説明会)を全国各地で順次、実施している。
標題に冠する「君シカオラン」は、事業者による認知度を高める観点から、これらの施策にかかるキャッチフレーズとともにキャラクターとして作成したものである。2024年3月末時点において、全国11か所で同セミナーを開催し、のべ約390社、500名を超える参加を得た。今後も基盤強化のために、防衛産業に向けた施策の周知に努めていく。
参照図表IV-1-1-4(「君シカオランセミナー」による防衛生産基盤強化法の広報活動)
資料:防衛産業サイバーセキュリティ基準の整備について
URL:https://www.mod.go.jp/atla/cybersecurity.html
資料:防衛産業保全マニュアルの整備について
URL:https://www.mod.go.jp/atla/dism.html