中国は、長い国境線と海岸線に囲まれた広大な国土に世界最大級の人口を擁し、国内に多くの異なる民族、宗教、言語を抱えている。固有の文化、文明を形成してきた中国特有の歴史に対する誇りと19世紀以降の半植民地化の経験は、中国国民の国力強化への強い願いとナショナリズムを生んでいる。
中国国内には、人権問題を含む様々な問題が存在している。共産党幹部などの腐敗・汚職のまん延や、都市部と農村部、沿岸部と内陸部の間の経済格差のほか、都市内部における格差、環境汚染などの問題も顕在化している。さらに、最近では経済の成長が鈍化傾向にあるほか、将来的には、人口構成の急速な高齢化に伴う年金などの社会保障制度の問題も予想されており、このような政権運営を不安定化させかねない要因は拡大・多様化の傾向にある。また、チベット自治区や新疆(しんきょう)ウイグル自治区などの少数民族の人権侵害に関する抗議活動も行われている。新疆ウイグル自治区の人権状況については、国際社会からの関心が高まっている。また、香港では、2019年以降の一連の大規模な抗議活動の発生を受け、2020年6月には、中華人民共和国香港特別行政区国家安全維持法が成立・施行され、逮捕者が出ているほか、2024年3月には、この法律を補完する国家安全条例が成立・施行された。また、「愛国者による香港統治」を掲げて変更された香港における選挙制度のもとで、2021年12月の立法会選挙や2023年12月の区議会選挙では議席を「親中派」がほぼ独占するなど、施策に対する民衆の懸念が広がっている。
このような状況のもと、中国は社会の管理を強化しているが、インターネットをはじめとする情報通信分野の発展は、民衆の行動の統制を困難にする側面も指摘されている一方、近年急速に発達する情報通信分野の技術が社会の管理手段として利用される側面も指摘されている。2014年以降、対外的な脅威以外にも、文化や社会なども安全保障の領域に含めるという「総体的国家安全観」に基づき、中国は、国内防諜体制を強化するための法整備をすすめている。
「反腐敗」の動きは、習近平(しゅうきんぺい)指導部発足以後、「虎もハエも叩く」という方針のもと、大物幹部も下級官僚も対象に推進されている。2023年7月以降に相次いだ軍高官の要職解任も「腐敗」が理由との指摘もあり、「反腐敗」の動きは今後も継続するとみられる。
習近平中国共産党総書記(習総書記)は、こうした活動などを通じて、中国共産党における権力基盤をより一層強固なものとしてきたが、2022年10月に開催された中国共産党第20回全国代表大会(第20回党大会)においては、「習総書記の党中央の核心、全党の核心の地位を擁護し、党中央の権威と集中的統一指導を擁護すること」を意味する「二つの擁護」が党規約に義務として明記された。また、直後に開催された中国共産党第20期中央委員会第1回全体会議(一中全会)では、習総書記の3期目続投が決定されるとともに、中国共産党の指導部を習総書記に立場が近いとされる人物で固める人事が発表された。2023年7月に秦剛(しんごう)外交部長(当時)、2023年10月に李尚福(りしょうふく)国防部長(当時)と、習氏が登用したとの指摘がある高官が相次いで解任される動きもあったが、全般として、習氏の意向がより直接的に中国の政策決定に反映される環境が整いつつあると考えられる。
中国共産党第20回党大会で報告を行う習近平総書記【EPA=時事】
中国は、台湾は中国の一部であり、台湾問題は内政問題であるとの原則を堅持しており、「一つの中国」の原則が中台間の議論の前提であり、基礎であるとしている。また、中国は、外国勢力による中国統一への干渉や台湾独立を狙う動きに強く反対する立場から、最大の努力を尽くして平和的統一の未来の実現を目指すが、決して武力行使の放棄を約束しないことをたびたび表明している。2005年3月に制定された反国家分裂法では、「平和的統一の可能性が完全に失われたとき、国は非平和的方式やそのほか必要な措置を講じて、国家の主権と領土保全を守ることができる」とし、武力行使の不放棄が明文化されている。また、第20回党大会で採択された改正党規約においても、「『台湾独立』に断固反対し、阻止する」との文言を追加し、台湾独立阻止を党の任務として位置づけた。