近年、民生技術の進展が著しく、それらの先端技術が将来の戦闘様相を一変させ得ると考えられている。米国や中国をはじめとする各国が競って様々な民生技術の育成に多額の投資を行っていることは、経済的競争力のみならず、安全保障上の優位性をもたらすものと考えられる。また、技術、特に先端技術は、様々な分野に活用されることがあり得る。こうしたことからも、従来考えられていたような、防衛用途と民生用途を区分けし、防衛用途に使い得る民生技術という意味での「デュアル・ユース」という概念により技術を区分することは、徐々に難しくなってきていると言ってよい。すべての民生の先端技術が防衛を含む安全保障に用いられ得る時代へと変化していると考えるべきである。わが国が保有する幅広い分野の技術にも目を向け、これらを進展させ、活用することにより、優れた防衛装備品の創製が可能となる。
先進技術の研究開発体制を強化するため、令和3(2021)年度には、新たな領域や既存装備品の枠を超えた領域横断的な機能の創製につながる研究開発を、先進的な基礎研究の成果の活用から装備品としての実現に至るまで一貫して実現する「次世代装備研究所」を防衛装備庁に新設した。また、2021年4月、防衛装備庁に、同庁の研究者(研究職技官)を中心に、最先端技術に知見を有する民間の第一線の研究者(特別研究官)で構成する技術シンクタンク機能を創設した。本機能は、将来のわが国の防衛にとって重要となる技術を調査・分析し、新たな戦い方やゲーム・チェンジャーを発案することを主な任務としている。研究職技官が、将来の戦い方とそれを実現するための技術をマッチングし、特別研究官が当該技術の調査や助言を行うという、官民コラボレーションによる新たな取組となる。さらに大学、民間企業、国立研究機関などの先進的研究の成果活用を推進する「技術連携推進官」を新設した。加えて、同年9月には、「政府関係機関移転基本方針」3の定めるところに従い、民生の先端技術を活用したUUV(Unmanned Underwater Vehicle)などの研究開発を効率的かつ効果的に実施するために、民生分野との研究協力、国内の水中無人機分野に関する技術の向上、地域経済の活性化などが期待される試験評価施設である「艦艇装備研究所岩国海洋環境試験評価サテライト」を山口県岩国市へ新設した。
テクノロジーの進化が安全保障のあり方を根本から変えようとしていることから、諸外国は先進技術を活用した兵器の開発に注力している。防衛省においても、新たな領域に関する技術や、人工知能(AI)などのゲーム・チェンジャーとなり得る最先端技術など、戦略的に重要な装備・技術分野において技術的優越を確保できるよう、将来的に有望な技術分野への重点化及び研究開発プロセスの合理化などにより、研究開発期間の大幅な短縮を図ることとしている。
具体的には、島嶼防衛用高速滑空弾、モジュール化UUV、スタンド・オフ電子戦機などについては、研究開発期間を大幅に短縮させるため、装備品の研究開発を段階的に進めるブロック化、モジュール化などの取組を活用することとしている。また、将来潜水艦にかかる研究開発について、既存の潜水艦を種別変更した試験潜水艦を活用し、試験評価の効率化を図ることとしている。さらに、AIやレーザーなどの新しい技術については、運用者が使用方法をイメージできるように防衛装備庁で実証を行うとともに、企業などから技術的実現可能性に関する情報を早期に収集し、十分な分析を行うことで、将来の装備品の能力を具体化することとしている。
また、平成29(2017)年度から、新技術の短期実用化の取組として、運用ニーズを踏まえながら、AI技術やICTなどの技術革新サイクルの速い民生先端技術を活用し、短期間での実用化を推進している。
わが国の防衛にとって、航空優勢を将来にわたって確保するためには、最新鋭の優れた戦闘機を保持し続けることが不可欠である。このため、2035年頃から退役が始まる予定のF-2戦闘機の後継機である次期戦闘機については、国際協力を視野にわが国主導の開発を実施することにより、優れた空対空戦闘能力を確保することに加え、次期戦闘機を運用する数十年にわたって、適時適切な能力向上のための改修を加えることができるよう改修の自由度や拡張性を確保することが重要である。さらに、わが国の防空に万全を期すためには、多くの可動数と即応性を確保できる国内基盤を有することが必要である。この実現のため、2020年10月、戦闘機全体のインテグレーションを担当する機体担当企業として、令和2(2020)年度事業に関し三菱重工業株式会社と契約を締結し、開発に着手した。
令和3(2021)年には、日米間の相互運用性の確保のため、米国装備品とのデータリンク連接にかかる研究事業を新たに開始するなど、米国から必要な支援と協力を受けながら、わが国主導の開発を行っている。さらに、次期戦闘機のエンジン、搭載電子機器などの各システムについては、開発経費や技術リスクの低減のため、米国及び英国と引き続き協議を行い、協力の可能性を追求しており、2021年12月には、日英防衛当局間で、エンジンの共同実証事業を2022年1月に開始することを確認し、さらなるサブシステムレベルでの協力の実現可能性も検討するため、共通化の程度にかかる共同分析を実施することとした。
将来の戦闘様相の変化に対応する優れた防衛装備品を創製できるよう、従来の装備体系を変えるような技術に対して重点的に投資し、技術的優越を確保するため、先進技術の活用に取り組むことが重要である。
例えば、人工知能(AI)を活用した戦闘支援無人機、複数のドローンに対処可能な高出力マイクロ波(HPM)照射技術、経空脅威に低コストで、より速やかに対応が可能な高出力レーザーやレールガンなど、ゲーム・チェンジャーとなり得る最先端技術の研究開発を進めている。