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第IV部 防衛力を構成する中心的な要素など

➍ 防衛施設と周辺地域との調和を図るための施策

1 防衛施設の特徴と防衛施設周辺対策事業

防衛施設は、用途が多岐にわたり、広大な土地を必要とするものが多い。また、日米共同の訓練・演習の多様性・効率性を高めるため、20(令和2)年1月1日現在、在日米軍施設・区域(専用施設)の土地面積のうち約28%を日米地位協定に基づき自衛隊が共同使用している。一方、多くの防衛施設の周辺地域で都市化が進んだ結果、防衛施設の設置・運用が制約されるという問題が生じている。また、航空機の頻繁な離着陸などが、周辺地域の生活環境に騒音などの影響を及ぼすという問題もある。

その上で、防衛施設は、わが国の防衛力と日米安全保障体制を支える基盤としてわが国の安全保障に欠くことのできないものであり、その機能を十分に発揮させるためには、防衛施設と周辺地域との調和を図り、周辺住民の理解と協力を得て、常に安定して使用できる状態に維持することが必要である。

このため、防衛省は、1974(昭和49)年以来、防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律(環境整備法)などに基づき、自衛隊や米軍の行為あるいは飛行場をはじめとする防衛施設の設置・運用によりその周辺地域において生じる航空機騒音などの障害の防止、軽減、緩和などの措置を講じてきた。

11(平成23)年には関係地方公共団体などからの要望などを踏まえて同法を一部改正し、特定防衛施設周辺整備調整交付金について、医療費の助成などのいわゆるソフト事業への交付を可能とするための見直しを行ったほか、交付対象となる防衛施設の追加などを行った。また、住宅防音工事を重点的に実施している。

なお、特定防衛施設周辺整備調整交付金については、14(平成26)年4月からPDCAサイクルの徹底を図る取組などにより、交付金の効果の向上を図っている。

防衛省としては、防衛施設と周辺地域との調和を図るための施策のあり方について、関係地方公共団体からの要望などを踏まえ、厳しい財政事情を勘案し、より実態に即した効果的かつ効率的なものとなるよう引き続き検討している。

参照図表IV-5-1-2(自衛隊施設(土地)の状況)
図表IV-5-1-3(在日米軍施設・区域(専用施設)の状況)
図表IV-5-1-4(令和2年度基地周辺対策費(契約ベース))

図表IV-5-1-2 自衛隊施設(土地)の状況

図表IV-5-1-3 在日米軍施設・区域(専用施設)の状況

図表IV-5-1-4 令和2年度基地周辺対策費(契約ベース)

2 在日米軍の駐留に関する理解と協力を得るための取組

わが国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中、在日米軍のプレゼンスとその即応性の維持は、わが国の安全を確保する上で極めて重要な要素である。その上で、在日米軍の安定的な駐留のためには、基地周辺の自治体や住民の方々の理解と協力を得ることが不可欠であり、この認識について日米防衛相会談をはじめ様々なレベルで米側との共有を図るほか、在日米軍の部隊運用等に関する地方公共団体等との調整、在日米軍再編にかかる交付金等の交付、事件・事故発生時の自治体などへの速やかな情報提供、在日米軍と地域住民の交流の促進など、様々な取組を不断に行っていくこととしている。

(1)在日米軍の部隊運用等に関する地方公共団体等との調整

防衛省では、在日米軍再編や在日米軍の訓練、部隊の展開、新規装備の配備等に際し、その都度、関係する地方公共団体及び地域住民に対して事前に説明するなどの調整を実施し、在日米軍施設の維持や部隊運用に対する地元の理解の促進に努めている。

(2)在日米軍再編を促進するための交付金等

再編交付金4は、再編5を実施する前後の期間(原則10年間)において、再編が実施される地元市町村の住民生活の利便性の向上や産業の振興に寄与する事業6の経費にあてるため、防衛大臣が再編関連特定防衛施設と再編関連特定周辺市町村を指定した後、在日米軍の再編に向けた措置の進み具合などに応じて交付される。20(令和2)年4月現在、9防衛施設14市町村が再編交付金の交付対象となっている。そのほか、在日米軍再編を促進するため、予算措置により追加的な施策を実施している。

参照資料60(防衛施設と周辺地域との調和を図るための主な施策の概要)

(3)在日米軍の運用における安全確保等

在日米軍の運用にあたって、地域住民の安全確保は大前提であり、事件・事故は、あってはならない。防衛省としては、米軍機の墜落、部品落下・遺失、民間空港などへの予防着陸7などが発生した際には、米側に対し、安全管理及び再発防止の徹底並びに速やかな情報提供を強く求めるとともに、個別の事案の態様に応じて飛行停止等の対策を講ずるよう求め、得られた情報は直ちに関係自治体等に説明しているほか、事件・事故による被害に対し迅速で適切な補償が行われるよう措置している。

また、米側の事故調査結果や再発防止策を聞くだけではなく、自衛隊の専門的知見も活用して確認し、その合理性を判断している。さらに、19(令和元)年7月、航空機事故に関するガイドラインを改正し、万が一日本国内の米軍施設・区域外で米軍機による事故が発生した場合には、適用される方針及び手続が一層改善されるよう取り組んでいる。

わが国としては、地元の不安や懸念を踏まえ、首脳や閣僚レベルを含め、米側に対し、わが国の考え方をしっかり伝え、安全な運用の確保を最優先の課題として、日米両国で緊密に協力して取り組んでいる。また、米軍人等による飲酒に起因する事件・事故が増加傾向にあることは、防衛省としても懸念しており、米側に対して、累次の機会を通じて、綱紀粛正や隊員教育を強化するよう申し入れている。米側においても、夜間飲酒規制措置、一定階級以下の米軍人を対象とする夜間外出規制措置などを含む勤務時間外行動の指針(リバティ制度)を示すなど、対策を実施しており、今後も日米間で協力して、飲酒事案の再発防止に努めていくこととしている。

なお、沖縄県内における犯罪を抑止し、沖縄県民の安全・安心の確保を図るため、16(平成28)年6月「沖縄県における犯罪抑止に関する対策について」が取りまとめられ、防犯パトロール体制の強化と安全・安心な環境の整備を柱とした対策がおこなわれている。防衛省も、沖縄総合事務局に創設された「沖縄・地域安全パトロール隊」に参加しており、今後とも関係省庁と連携し、実効的な犯罪抑止の取組となるよう、協力することとしている。

(4)在日米軍と地域住民の交流の促進

防衛省では、日米の相互理解を深める取組として、地方自治体と米軍の理解と協力を得ながら、在日米軍施設・区域周辺の住民の方々と米軍関係者がスポーツ、音楽、文化などを通じて交流を行う「日米交流事業」を開催している。

また、在日米軍においても、基地の開放(フレンドシップデー)、ホームページ・ソーシャルメディアを活用した情報発信など、地域の方々との相互理解を深めるための取組を行っている。

(5)その他の措置(自衛隊にかかるものも含む)

①漁業補償

防衛省は、自衛隊又は在日米軍が水面を使用して行う訓練等のため、法律(自衛隊法第105条第1項又は漁船操業制限法第1条)又は契約により制限水域を設定し、これに伴う損失を補償している。

また、同法の規定による操業の制限又は禁止により、漁業経営上の損失を被った者で、同法の規定による補償を受けられないものを救済するため、行政措置として一定の要件を満たす者に対し、見舞金を支給している。

②基地交付金等

総務省所管の防衛施設に関する交付金の制度である国有提供施設等所在市町村助成交付金(以下「基地交付金」という。)及び施設等所在市町村調整交付金(以下「調整交付金」という。)についても、防衛省は、各種情報提供等の協力を行っている。

基地交付金は、米軍の施設や自衛隊が使用する施設のうち、飛行場や演習場の用に供する土地が広大な面積を有しており、市町村の区域の多くを占めていることが市町村の財政に著しい影響を与えていることを考慮して創設されたものであり、固定資産税の代替的性格を基本として、米軍や自衛隊の用に供している国有財産(土地、建物及び工作物)の所在する市町村に対して交付されるものである。

調整交付金は、米軍が建設し、又は設置する資産(以下「米軍資産」という。)に対する固定資産税が非課税とされているにもかかわらず、基地交付金が交付されていないこととの均衡や、米軍の軍人や軍属にかかる市町村民税等の非課税措置による税財政上の影響を考慮して創設されたものであり、米軍資産の所在する市町村に対して交付されるものである。

3 防衛省における環境・社会との共生のための取組

地球環境の持続可能性に対する危機感は、国際的に高まっており、15(平成27)年には、持続可能な開発目標(SDGs)の国連における採択や気候変動に関する国際枠組みであるパリ協定の合意など、各国で取組が進められている。19(令和元)年6月に大阪で開催されたG20サミットでは海洋プラスチックごみ汚染や気候変動が重要な議題となるとともに、その直前には各国の関係閣僚が参加する「G20持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合」が初めて開催された。わが国においても、18(平成30)年に第5次環境基本計画を閣議決定し、持続可能な社会の実現に取り組んでいるところであり、19(令和元)年9月のSDGサミットにおいて、安倍内閣総理大臣は、次のSDGサミットまでに、国内外における取組をさらに加速させる旨表明している。こうした国内外における取組の加速を受け、防衛省としても、政府の一員として環境問題の解決に貢献するとともに、自衛隊施設及び米軍施設・区域と周辺地域の共生についてより一層重点を置いた施策を進める必要がある。

(1)防衛省・自衛隊の施設に関する取組

①レジ袋の廃止

政府の進める環境対策に率先して取り組むため、市ヶ谷地区においては、20(令和2)年1月20日から、各売店などの協力を得て、レジ袋を廃止している。引き続き、全国の基地・駐屯地等においても、売店などの協力が得られたところから、レジ袋の廃止を進めていくこととしている。

②電力調達方法の見直し

25万人の隊員を有し、全国各地で施設等を運用する防衛省・自衛隊としても、気候変動の問題は、決して他人事ではない。令和2(2020)年度の電力の調達にあたり、競争性、低廉な価格、供給の安定性といった要素を確保したうえで、可能な限り再生可能エネルギーの利用を進めることとし、必要な調達方法の見直しを行った。これにより、全国の151の施設等(契約単位)で合計約9,100万kWhの再生可能エネルギー由来の電力を調達予定である。

(2)在日米軍施設・区域に関する取組

①環境保護に関する枠組み

在日米軍施設・区域における米軍の活動については、在日米軍が日本環境管理基準8(JEGS:Japan Environmental Governing Standards)を作成し、これにより日米両国又は国際約束の自然環境保護に係る基準のうち、最も規制の厳しいものを一般的に採用することとされている。00(平成12)年9月の「2+2」において、両国政府は、環境保護が重要であるとの認識のもと、在日米軍施設・区域の周辺住民、米軍関係者やその家族などの健康と安全の確保を共通の目的とすることに合意し、「環境原則に関する共同発表」9を行った。この発表のフォローアップのため、日米協議が強化され、JEGSの定期的見直しの際の協力の強化、環境に関する情報交換、環境汚染への対応などにかかわる協議について、防衛省としても、関係省庁と連携して取り組んでいる。

さらに、15(平成27)年9月28日、日米両政府は、在日米軍施設・区域に係る環境対策を強化するため、日米地位協定を補足する在日米軍に関連する環境の管理の分野における協力に関する協定への署名を行い、同協定は即日発効した。この補足協定は、法的拘束力を有する国際約束であり、日米間の情報共有や、環境事故発生時の米側からの通報に基づく施設・区域内への立入り、施設・区域返還前の調査のための立入りなどを規定している。

20(令和2)年4月には、普天間飛行場で発生した泡消火剤の流出事故への対応のため、日本政府と関係自治体は、同協定に基づき、環境事故発生時の施設・区域内への立入りを初めて行った。引き続き、地元住民の方々の懸念を払拭すべく、関係省庁、関係自治体及び米側と緊密に連携していくこととしている。

②光熱水料節約の取組

在日米軍施設区域においては、エネルギー効率の良い暖房・換気・空調設備への交換、不在時に消灯する人感センサーの設置、太陽光発電パネルの設置、冷暖房の運用期間の短縮・設定温度の見直し、照明の制御及び夜間照明等の消灯等の光熱水料節約の取組を行っている。

参照コラム(PFOS等をめぐる問題への取組について(解説))

4 令和2(2020)年度予算で約57億円

5 再編特措法では、在日米軍の再編の対象である航空機部隊と一体として行動する艦船の部隊の編成の変更(横須賀海軍施設における空母の原子力空母への交替)について、在日米軍の再編と同様に扱う。

6 具体的な事業の範囲は、「駐留軍等の再編の円滑な実施に関する特別措置法施行令」第2条において、教育、スポーツ及び文化の振興に関する事業など、14事業が規定されている。

7 パイロット等が飛行中に、航空機に何らかの通常と異なることを示す徴候を察知した場合に行う着陸

8 在日米軍が作成する環境基準。在日米軍の部隊と施設が人の健康と自然環境を保護することを保証するため、施設・区域内の環境汚染物質の取扱い、保管方法などを定めている。

9 ①環境管理基準、②情報交換と立入り、③環境汚染への対応、④環境に関する協議、の4項目からなる。