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第III部 わが国防衛の三つの柱(防衛の目標を達成するための手段)

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第6節 中東地域における日本関係船舶の安全確保のための情報収集

➊ 中東地域への自衛隊派遣に向けた経緯

中東地域の平和と安定は、わが国を含む国際社会の平和と繁栄にとって極めて重要である。また、世界における主要なエネルギーの供給源であり、わが国の原油輸入量の約9割を依存する中東地域での日本関係船舶の航行の安全を確保することは非常に重要である。

中東地域においては、緊張が高まる中、船舶を対象とした攻撃事案が生起し、19(令和元)年6月には日本関係船舶の被害も発生した。このような状況のもと、米国や欧州諸国などの各国は、同地域において艦船、航空機などを活用し、船舶の航行の安全のための取組を進めている。

わが国は、中東における緊張緩和と情勢の安定化に向けて、同月の安倍内閣総理大臣のイラン訪問、同年9月の国連総会時の日米首脳会談、日イラン首脳会談をはじめ、政府として外交的な取組を積極的に進めてきた。

このような中、国家安全保障会議などにおいて、総理を含む関係閣僚の間で行った議論を踏まえ、わが国としては、中東地域における平和と安定及び日本関係船舶の安全の確保のためのわが国独自の取組を行っていくこととし、同年10月18日の内閣官房長官の記者会見で、①中東の緊張緩和と情勢の安定化に向けた更なる外交努力、②関係業界との綿密な情報共有をはじめとする航行安全対策の徹底、③情報収集態勢強化のための自衛隊アセットの活用に係る具体的な検討の開始からなる政府方針を発表した。同日、この方針を受け、情報収集を目的とした海上自衛隊の艦艇の派遣及び既存の海賊対処部隊の活用の可能性についての検討の実施に係る防衛大臣指示が発出された。

その後、防衛省においては、具体的な検討を実施するとともに、内閣官房、外務省といった関係省庁とも必要な調整を行った。

これらの議論を経て、国家安全保障会議などにおいて、内閣総理大臣を含む関係閣僚間で議論を行った結果、同年12月27日、日本関係船舶の安全確保に関する政府の取組について、政府としての方針を閣議決定した(詳細は次項)。今般の情報収集活動については、防衛省の所掌事務の範囲内で実施可能であるが、政府一体となった総合的な施策を関係省庁が連携して実施することに加え、自衛隊を海外に派遣することの重要性や、国民に対する説明責任の明確化のため、閣議決定を行うこととした。また、これと同様の理由で、閣議決定(これを変更する場合を含む。)及び自衛隊の活動終了時にはその結果を国会に報告することとしている。なお、閣議決定時の国会報告については、同日の閣議決定直後に行った。

防衛省においては、同日の閣議決定を受け、部隊の編成準備や教育訓練をはじめ、各種準備に取り掛かるよう防衛大臣指示が発出された。海自においては、防衛省・自衛隊の関係部署や関係省庁の参加を得て、各級指揮官の情勢判断や部隊運用・情報伝達の要領を演練することを目的に、20(令和2)年1月8日及び9日に図上演習を実施するなど、円滑な活動の実施に万全を期した。

同月10日には、防衛会議が開催され、統幕長及び海幕長から派遣に係る準備状況などにかかる報告をもとに審議がなされたのち、防衛大臣により、中東地域における日本関係船舶の安全確保に必要な情報収集活動の実施が命じられた。今般の情報収集活動では、新たに水上部隊の護衛艦1隻を派遣するほか、派遣海賊対処行動航空隊の固定翼哨戒機P-3C 2機を海賊対処の任務に支障のない範囲で活用することとしている。また、活動海域は、オマーン湾、アラビア海北部及びバブ・エル・マンデブ海峡東側のアデン湾の三海域の公海(沿岸国の排他的経済水域を含む。)である。同月11日、固定翼哨戒機P-3C(2機)が、海賊対処部隊の交代に合わせて出国し、同月20日から情報収集活動を開始した。また、護衛艦「たかなみ」は、同年2月2日出港し、同月26日から現場海域における情報収集活動を開始した1。同年5月10日には、「たかなみ」と交代するために護衛艦「きりさめ」が出港した。

自衛隊が収集した情報については、内閣官房、国土交通省、外務省をはじめとする関係省庁に共有しており、必要に応じ、官民連絡会議等を通じて関係業界にも共有するなど、政府としての航行安全対策に活用されている。

アラビア海において情報収集活動にあたる護衛艦「たかなみ」

アラビア海において情報収集活動にあたる護衛艦「たかなみ」

参照図表III-1-6-1(中東における情報収集活動に従事する部隊)、
図表III-1-6-2(自衛隊による情報収集のための活動(イメージ))

図表III-1-6-1 中東における情報収集活動に従事する部隊

図表III-1-6-2 自衛隊による情報収集のための活動(イメージ)

1 情報収集活動開始以降、本年5月末までの間、活動海域において日本関係船舶に特異な事象があったとの情報には接していない。この間、活動海域において派遣情報収集活動水上部隊が確認した船舶数は累計7,617隻、派遣海賊対処行動航空隊が確認した船舶数は累計9,150隻である。