Contents

第III部 わが国防衛の三つの柱(防衛の目標を達成するための手段)

第5節 大規模災害などへの対応

➊ 大規模災害などへの対応

自衛隊は、自然災害をはじめとする災害の発生時には、地方公共団体などと連携・協力し、被災者や遭難した船舶・航空機の捜索・救助、水防、医療、防疫、給水、人員や物資の輸送などの様々な活動を行っている。

1 基本的な考え方

防衛大綱における、防衛力の果たすべき役割のうち、「④大規模災害等への対応」の考え方は、次のとおりである。

大規模災害などの発生に際しては、所要の部隊を迅速に輸送・展開し、初動対応に万全を期すとともに、必要に応じ、対処態勢を長期間にわたり持続する。また、被災住民や被災した地方公共団体のニーズに丁寧に対応するとともに、関係機関、地方公共団体、民間部門と適切に連携・協力し、人命救助、応急復旧、生活支援などを行うこととしている。

この際、発災当初においては被害状況が不明であることから、自衛隊はいかなる被害や活動にも対応できる態勢で対応し、人命救助活動を最優先で行いつつ、生活支援などについては、現地対策本部などの場において、自治体・関係省庁などの関係者と役割分担、対応方針、活動期間、民間企業の活用などの調整を行うことになる。

さらに、「平成30年7月豪雨に係る初動対応検証レポート」(平成30年11月)を踏まえ、防衛省・自衛隊としては、大規模な災害が発生した際には、地方公共団体が混乱している場合もあることを前提に、より多くの被災者を救助・支援するため、自治体からの要請を待つのみではなく、積極的に支援ニーズを把握しつつ、活動内容について「提案型」の支援を自発的に行うこととしている。実際の活動においては、状況の推移に応じて変化するニーズを的確に捉えつつ柔軟な支援を行う1。その際、自衛隊の支援を真に必要としている方々が、支援に関する情報により簡単にアクセスすることができるよう、情報発信を強化している。

また、自衛隊は、災害派遣を迅速に行うための初動対処態勢を整えており、この部隊を「FAST-Force(ファスト・フォース)」と呼んでいる。

参照図表III-1-5-1(要請から派遣、撤収までの流れ及び政府の対応)、
図表III-1-5-2(大規模災害などに備えた待機態勢(基準))、
II部5章1節4項(災害派遣など)

図表III-1-5-1 要請から派遣、撤収までの流れ及び政府の対応

図表III-1-5-2 大規模災害などに備えた待機態勢(基準)

2 防衛省・自衛隊の対応
(1)自然災害などへの対応

ア 令和元年8月の前線に伴う大雨にかかる災害派遣

19(令和元)年8月、九州北部地方を中心とした大雨により河川が氾濫したことから、佐賀県知事からの災害派遣要請を受け、自衛隊は、地方公共団体に連絡員を派遣して緊密な連携を図りながら、人命救助、入浴支援、給食支援、鉄工所からの油流出対応、災害廃棄物の集積支援、防疫支援、物資輸送、病院における給水支援、音楽隊による演奏などを実施した。本派遣の規模は、現地活動人員延べ約7,500名(活動人員延べ約3万2,000名)、航空機延べ約50機、人命救助者数延べ約150名、入浴支援者数延べ約4,200名に上った。

令和元年8月の前線に伴う大雨において、孤立者の救助に向かう陸自隊員(19(令和元)年8月)

令和元年8月の前線に伴う大雨において、孤立者の救助に向かう陸自隊員
(19(令和元)年8月)

動画アイコンQRコード動画:令和元年8月の前線に伴う大雨にかかる災害派遣
URL:https://youtu.be/JLvrKDWnAIg(別ウィンドウ)

イ 令和元年房総半島台風(台風第15号)にかかる災害派遣

19(令和元)年9月、令和元年房総半島台風(台風第15号)による猛烈な暴風のため、電柱折損などによる大規模な停電などが発生した。このため、自衛隊は、千葉県及び神奈川県の各県知事からの災害派遣要請を受け、東京電力本社及び6事業所に、最大時連絡員約50名を派遣するなど、緊密な連携を図りながら、給水支援、患者空輸、停電復旧作業などのための倒木・土砂除去の支援、入浴支援、ブルーシート展張支援などを実施した。特に停電復旧のための倒木除去については、東京電力本社及び千葉県内の6か所の事業所に自衛隊・東電共同調整所を開設し、経済産業省、国土交通省及び東京電力と連携して事案に対応した。また、活動期間中には、天候悪化の予報を受け、ニーズが高まったブルーシートの展張支援について、他の活動から人員を一時的に転用して対応するなど、被災者のニーズに応じて柔軟な支援を実施した。本派遣の規模は、現地活動人員延べ約5万4,000名(活動人員延べ約9万6,000名)、航空機延べ約20機、給水量延べ約1,300t、入浴支援者数延べ約2万8,000名、ブルーシート展張支援計27市町、延べ約1,820箇所に上った。

令和元年房総半島台風(台風第15号)において、停電復旧のための倒木除去を行う陸自隊員(19(令和元)年9月)

令和元年房総半島台風(台風第15号)において、停電復旧のための倒木除去を行う陸自隊員(19(令和元)年9月)

ウ 令和元年東日本台風(台風第19号)にかかる災害派遣

19(令和元)年10月、令和元年東日本台風(以下、「台風第19号」という。)が非常に強い勢力を保ったまま、東日本へ接近することが予想された。特に東海地方から関東地方にかけて、大雨・強風の影響により、土砂災害、浸水などによる人的被害、家屋への被害、停電、断水などのインフラ被害が発生する可能性があったことから、自衛隊は、即応態勢を確立した。また、適切な初動対応を行える態勢をとるため、各自治体からの要請を待つことなく、県庁などへの連絡員を先行的に派遣するとともに、初動対処部隊などは、出動準備を整え待機した。

台風第19号により、各地では、河川の氾濫、大規模な浸水及び土砂災害が多数発生した。このため、自衛隊は、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、長野県及び静岡県の各都県知事からの災害派遣要請を受け、最大272か所の地方公共団体に連絡員約590名を派遣し緊密な連携を図りながら、人命救助、給水支援、入浴支援、給食支援、災害廃棄物処理・道路啓開、防疫支援などを実施した。台風第19号による被害は、甚大かつ極めて広範囲にわたるものであり、長期間にわたり様々な救援活動が予想されたことから、初めて陸上総隊司令官を長とする統合任務部隊を編組して対応した。また、即応予備自衛官及び予備自衛官の招集を行い、約410名の即応予備自衛官及び予備自衛官が支援活動に従事した。本派遣の規模は、現地活動人員延べ約8万4,000名(活動人員延べ約88万名)、艦艇延べ約100隻、航空機延べ約1,610機、人命救助者数延べ約2,040名、給水量延べ約7,030t、入浴支援者数延べ約7万230名に上った。

令和元年東日本台風(台風第19号)において、救難ヘリコプターによる人命救助にあたる空自隊員(19(令和元)年10月)

令和元年東日本台風(台風第19号)において、救難ヘリコプターによる人命救助にあたる空自隊員(19(令和元)年10月)

令和元年東日本台風(台風第19号)において、相馬港にて入浴支援にあたる掃海母艦「うらが」(19(令和元)年10月)

令和元年東日本台風(台風第19号)において、相馬港にて入浴支援にあたる掃海母艦「うらが」(19(令和元)年10月)

動画アイコンQRコード動画:台風第19号等にかかる災害派遣
URL:https://youtu.be/EeCpz8QFNOg(別ウィンドウ)

エ CSF(豚熱)にかかる災害派遣

19(令和元)年7月から20(令和2)年3月末までの間にCSF(豚熱)の発生が確認された愛知県、岐阜県、三重県及び沖縄県において、速やかに豚の殺処分などの防疫措置を行う必要が生じたため、自衛隊は、各県知事からの災害派遣要請を受け、豚の殺処分などの支援を実施2した。これらに対する派遣の規模は、人員延べ約9,250名、車両延べ約1,440両に上った。

オ 山林火災にかかる災害派遣

19(令和元)年7月から20(令和2)年3月末までに発生した山林火災のうち、自治体により消火活動を実施するも鎮火に至らなかったものについて、自衛隊は、広島県知事、宮崎県知事及び茨城県知事からの災害派遣要請を受け、空中消火活動などを実施した。本派遣の規模は合計3件で、人員延べ約380名、車両延べ約30両、航空機延べ約20機、散水量約260t、散水回数45回に上った。

参照図表III-1-5-3(災害派遣の実績(令和元年度))、
資料14(災害派遣の実績(過去5年間))

図表III-1-5-3 災害派遣の実績(令和元年度)

(2)救急患者の輸送など

自衛隊は、医療施設が不足している離島などの救急患者を航空機で緊急輸送(急患輸送)している。令和元(2019)年度の災害派遣総数449件のうち、365件が急患輸送であり、南西諸島(沖縄県、鹿児島県)や小笠原諸島(東京都)、長崎県の離島などへの派遣が大半を占めている。

また、他機関の航空機では航続距離が短いなどの理由で対応できない、本土から遠く離れた海域で航行している船舶からの急患輸送や転覆などの緊急を要する船舶での災害の場合については、海上保安庁からの要請に基づき海難救助を実施しているほか、状況に応じ、機動衛生ユニットを用いて重症患者を空自C-130H輸送機にて搬送する長距離患者搬送も行っている。

さらに、令和元(2019)年度には、46件の消火支援を実施しており、そのうち、28件が自衛隊の施設近傍の火災への対応であった。

(3)原子力災害への対応

防衛省・自衛隊では、原子力災害に対処するため、「自衛隊原子力災害対処計画」を策定している。また、国、地方公共団体、原子力事業者が合同で実施する原子力総合防災訓練に参加し、地方公共団体の避難計画の実効性の確認や原子力災害緊急事態における関係機関との連携強化を図っている。さらに、14(平成26)年10月以降、内閣府(原子力防災担当)に自衛官(20(令和2)年3月31日現在5人)を出向させ、原子力災害対処能力の実効性の向上に努めている。

(4)各種対処計画の策定

防衛省・自衛隊は、各種の災害に際し十分な規模の部隊を迅速に輸送・展開して初動対応に万全を期すとともに、統合運用を基本としつつ、要員のローテーション態勢を整備することで、長期間にわたる対処態勢の持続を可能とする態勢を整備している。その際、東日本大震災などの教訓を十分に踏まえることとしている。

また、防衛省・自衛隊は、中央防災会議で検討されている大規模地震に対応するため、防衛省防災業務計画に基づき、各種の大規模地震対処計画を策定している。

(5)自衛隊が実施・参加する訓練

自衛隊は、大規模災害など各種の災害に迅速かつ的確に対応するため、各種の防災訓練を実施しているほか、国や地方公共団体などが行う防災訓練にも積極的に参加し、各省庁や地方公共団体などの関係機関との連携強化を図っている。

ア 自衛隊統合防災演習(JXR:Joint Exercise for Rescue)

自衛隊は、大規模震災が発生した場合における自衛隊の指揮幕僚活動、主要部隊間の連携要領、防災関係機関などとの連携に関する防災訓練を行うことで、災害対処能力の維持・向上を図っており、平成30(2018)年度は、首都直下地震が発生した場合を、令和元(2019)年度は、2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会3開催中に首都直下地震が発生した場合を想定して演練を実施している。

イ 日米共同統合防災訓練(TREX:Tomodachi Rescue Exercise)

20(令和2)年2月、南海トラフ地震発生時における在日米軍との共同対処を実動により実施し、自衛隊と在日米軍との連携による震災対処能力の維持・向上や関係地方公共団体などとの連携強化を図った。

ウ 離島統合防災訓練(RIDEX:Remote Island Disaster Relief Exercise)

19(令和元)年9月、沖縄県が計画する沖縄県総合防災訓練及び石垣市民防災訓練に参加して、離島における突発的な大規模災害への対処について実動により訓練し、自衛隊の離島災害対処能力の維持・向上や関係地方公共団体などとの連携の強化を図った。

離島統合防災訓練において下地島空港への空自C-2によるDMAT(災害派遣医療チーム)の輸送(19(令和元)年9月)

離島統合防災訓練において下地島空港への空自C-2による
DMAT(災害派遣医療チーム)の輸送(19(令和元)年9月)

エ 大規模地震時医療活動訓練

19(令和元)年9月、内閣府が主催する大規模地震時医療活動訓練に参加し、災害派遣時の各種行動及び防災関係機関との連携要領を演練し、災害対処能力の維持・向上を図った。

オ その他

さらに、防衛省災害対策本部運営訓練の実施や、「防災の日」総合防災訓練などへも参加している4

(6)地方公共団体などとの連携

災害派遣活動を円滑に行うためには、平素から地方公共団体などと連携を強化することが重要である。このため、①自衛隊地方協力本部に国民保護・災害対策連絡調整官(事務官)を設置、②自衛官の出向(東京都の防災担当部局)及び事務官による相互交流(陸自中部方面隊と兵庫県の間)、③地方公共団体からの要請に応じ、防災の分野で知見のある退職自衛官の推薦などを行っている。

20(令和2)年3月末現在、全国46都道府県・398市区町村に575人の退職自衛官が、地方公共団体の防災担当部門などに在籍している。このような人的協力は、防衛省・自衛隊と地方公共団体との連携を強化するうえで極めて効果的であり、東日本大震災などにおいてその有効性が確認された。特に、陸自各方面隊は地方公共団体の危機管理監などとの交流の場を設定し、情報共有・意見交換を行い、地方公共団体との連携強化を図っている。

また、災害の発生に際しては、各種調整を円滑にするため、部隊などから地方公共団体に対し、迅速かつ効果的な連絡員の派遣を行っている。

参照資料56(退職自衛官の地方公共団体防災関係部局における在職状況)

(7)防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策に基づく措置

18(平成30)年12月、防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策5が閣議決定された。本対策において、防衛省としては、防災のための重要インフラ等の機能維持の観点から、自衛隊施設のブロック塀等に関する緊急対策、自衛隊施設に関する緊急対策及び自衛隊の防災関係資機材等に関する緊急対策について、集中的に取り組んでいる。

参照図表III-1-5-4(防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策一覧【防衛省】)

図表III-1-5-4 防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策一覧【防衛省】

1 なお、近年、記録的な大雨や台風の影響などにより自衛隊が行う災害派遣は大規模かつ長期間の活動となることが増えており、令和元年房総半島台風(台風第15号)、令和元年東日本台風(台風第19号)などの災害派遣活動において基幹となった陸自では、約300件の訓練の中止、縮小又は延期を行った。

2 CSF(豚熱)対策として、防衛省・自衛隊は、農林水産省が実施している野生イノシシに対する経口ワクチンの空中散布にかかる農林水産省への協力を実施しており、19(令和元)年12月に栃木県日光市内の国有林において、20(令和2)年4月には群馬県及び栃木県の国有林などにおいて、経口ワクチンの空中散布を実施した。

3 20(令和2)年3月30日に、東京オリンピックは21(令和3)年7月23日から8月8日に、東京パラリンピックは同年8月24日から9月5日に開催されることが決定された。

4 記載のほか、令和元(2019)年度の訓練の実施及び参加として、①政府図上訓練、②原子力総合防災訓練、③大規模津波防災総合訓練、④九都県市合同防災訓練(連携)、⑤近畿府県合同防災訓練(連携)、⑥地方公共団体などにおける総合防災訓練への参加がある。

5 平成30年7月豪雨、平成30年台風第21号、平成30年北海道胆振東部地震をはじめとする近年の自然災害により、ブラックアウトの発生、空港ターミナルの閉鎖など、国民の生活・経済に欠かせない重要なインフラがその機能を喪失し、国民の生活や経済活動に大きな影響を及ぼす事態が発生したことなどを踏まえ、防災のための重要インフラ等の機能維持及び国民経済・生活を支える重要インフラなどの機能維持の観点から、各府省庁が3年間で集中的に実施すべきハード・ソフト対策について定めている。