ダイジェスト
概観
- わが国を取り巻く安全保障環境においては、様々な課題や不安定要因が存在し、その一部は顕在化・先鋭化・深刻化している。
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わが国周辺の安全保障環境は、領土問題や統一問題を始めとする不透明・不確実な要素が残されている上、周辺国の軍事力の近代化の継続に加え、北朝鮮によるミサイル発射や核実験実施を含む挑発行為、中国による領海侵入および領空侵犯を含むわが国周辺海空域での活動の急速な拡大・活発化、ロシアによる引き続き活発化の傾向にある軍事活動などがみられ、一層厳しさを増している。
米国
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米国は、国防戦略指針により、米国の安全保障戦略の重点をよりアジア太平洋地域におくことや同地域における同盟国との関係強化およびパートナー国との協力拡大といった方針を打ち出しているが、厳しい財政状況がその具体化に与える影響が注目される。
北朝鮮
全般
- 金正恩国防委員会第1委員長は軍を掌握する立場にあり、軍組織の視察などを多く行っていることなどから、軍事を重視し、かつ軍事に依存する状況は今後も継続すると考えられる。
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北朝鮮は、いわゆる非対称的な軍事能力を維持・強化していると考えられるほか、軍事的な挑発活動を繰り返している。北朝鮮のこうした軍事的な動きは、朝鮮半島の緊張を高めており、わが国を含む東アジア全域の安全保障にとっての重大な不安定要因となっており、わが国として強い関心をもって注視していく必要がある。
核兵器・ミサイル関連
- 北朝鮮による核実験は、弾道ミサイルの能力増強とあわせ考えれば、わが国の安全に対する重大な脅威であり、北東アジアおよび国際社会の平和と安定を著しく害するものとして、断じて容認できない。
- 2012(平成24)年12月の「人工衛星」と称するミサイル発射により、弾道ミサイルの長射程化・精度向上に資する技術を進展させていることが示され、北朝鮮の弾道ミサイル開発は、新たな段階に入ったと考えられる。
- 2013(同25)年2月の核実験により、必要なデータの収集を行うなどして核兵器計画をさらに進展させた可能性が高い。
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北朝鮮の弾道ミサイル問題は、核問題ともあいまって、その能力向上の観点、移転・拡散の観点の双方から、広く国際社会にとってより現実的で差し迫った問題となっており、その動向が強く懸念される。
中国
- 中国は、大国としての責任を認識し、国際的な規範を共有・遵守するとともに、地域やグローバルな課題に対して、より積極的かつ協調的な役割を果たすことが強く期待されている。
- 習国家主席は、「中華民族の偉大な復興である中国の夢を実現するため、引き続き努力・奮闘しなければならない」と発言しているが、習政権を取り巻く環境は楽観的なものではなく、各種の課題にいかに対処していくかが注目される。
- わが国を含む周辺諸国との利害が対立する問題をめぐって、既存の国際法秩序とは相容れない独自の主張に基づき、力による現状変更の試みを含む高圧的とも指摘される対応を示しており、その中には不測の事態を招きかねない危険な行動も見られるなど、今後の方向性について不安を抱かせる面がある。
- 中国は、軍事力の広範かつ急速な近代化を進め、また、自国の周辺海空域において活動を急速に拡大・活発化させている。このような動向は、軍事や安全保障に関する透明性の不足とあいまって、わが国を含む地域・国際社会にとっての懸念事項であり、わが国として強い関心をもって注視していく必要がある。
- 中国は、従来から、具体的な装備の保有状況、調達目標および調達実績、主要な部隊の編成や配置、軍の主要な運用や訓練実績、国防予算の内訳の詳細などについて明らかにしていない。国防政策や軍事力に関する具体的な情報開示などを通じて、中国が軍事に関する透明性を高めていくことが望まれる。
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中国の公表国防費は、引き続き速いペースで増加しており、名目上の規模は、過去10年間で約4倍、過去25年間で33倍以上の規模となっている。
- 中国は、2012(平成24)年9月に空母「遼寧(りょうねい)」を就役させ、同艦就役後も艦載機パイロットの育成や国産のJ-15艦載機の開発など必要な技術の研究・開発を継続していると考えられる。また、次世代戦闘機との指摘もあるJ-20の開発を進めていることに加え、別の次世代戦闘機の開発も進めているとの指摘もある。
- 中国のわが国周辺海空域における活動には、わが国領海への侵入や領空の侵犯、さらには不測の事態を招きかねない危険な行動を伴うものがみられ、極めて遺憾であり、中国は国際的な規範の共有・遵守が求められる。
- 2013(同25)年1月、中国海軍艦艇から海自護衛艦に対して、火器管制レーダーが照射される事案などが発生している。このことについて、中国国防部および外交部は同レーダーの使用そのものを否定するなど事実に反する説明を行っている。
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中国が独自に領有権を主張している島嶼の周辺海域において、各種の監視活動や実力行使などにより、他国の実効支配を弱め、自国の領有権に関する主張を強めることが、中国の海洋における活動の目標の一つであると考えられる。
ロシア
- 2000(平成12)年から2008年(同20)年の間、2期8年にわたり大統領を務めたプーチン首相(当時)が2012(同24)年3月の大統領選挙に当選し、同年5月に大統領に就任した。今後、プーチン大統領が権力基盤を維持しながらも、いかに国内の支持を広げ、経済の構造改革等の近代化にかかわる諸課題に対応していくのか注目される。
- わが国周辺では、自国の経済の回復などを背景に、軍改革の成果の検証などを目的としたとみられる演習・訓練を含めたロシア軍の活動が活発化の傾向にある。
東南アジア
- 南シナ海においては、南沙諸島や西沙諸島の領有権などをめぐって東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国と中国の間で主張が対立しているほか、海洋における航行の自由などをめぐって、国際的に関心が高まっている。
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東南アジア各国は、近年、経済成長などを背景として国防費を増額させ、海・空軍の主要装備品の導入を中心とした軍の近代化を進めている。
サイバー空間をめぐる動向
- 諸外国の政府機関や軍隊などの情報通信ネットワークに対するサイバー攻撃が多発しており、中国、ロシア、北朝鮮の政府機関などの関与が指摘されている。
- 政府や軍隊の情報通信ネットワーク等に対するサイバー攻撃は、国家の安全保障に重大な影響を及ぼし得るものであり、サイバー空間における脅威の動向を引き続き注視していく必要がある。
国際テロリズムの動向
- グローバル化の進展により、国境を越えて活動するテロ組織にとって、組織内または他の組織との間の情報共有・連携、地理的アクセスの確保や武器の入手などがより容易になっている。
- 2013(平成25)年1月には、イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)から離脱したとされるイスラム過激派勢力が、天然ガスプラントを襲撃し、在アルジェリア邦人10人を含む多数が犠牲になった。