第III部 わが国の防衛に関する施策
4 人的資源の効果的な活用に向けた施策など

昨今の少子化・高学歴化の進行や自衛隊の任務の多様化などに的確に対応していくためには、防衛力の能力発揮の基盤である人的資源を効果的に活用していく必要がある。
そのため、防衛省・自衛隊は、質の高い人材を確保・育成していくための様々な取組を行っている。

1 人事施策に関する検討など

防衛省では、人的基盤の重要性を認識し、様々な施策を推進してきている。
自衛隊の人的構成については、07大綱以来、全体の定数が削減される中、装備の高度化、任務の多様化・国際化などへの対応のため、部隊等において、より一層熟練した者、専門性を有する者が必要となった。また、わが国においては、少子化・高学歴化が進むとともに、安定した就職先を志向する傾向が強まった。
このような状況の中、防衛省では、定年までの勤務を前提とする非任期制の士を一定数確保してきており、入隊者も高学歴化する傾向にあった。
防衛省では、22大綱の見直しにおいて、精強性向上の観点から、自衛官の階級・年齢構成の適正化など人的資源の効果的な活用等を含め、自衛隊の編成や充足率をどうするべきかという議論を踏まえつつ、各自衛隊の特性に対応した各種人事施策について検討を進める方針である。

2 隊員の処遇の充実

自衛隊が対応すべき事態は、昼夜の別なく起こるものである。特に自衛官の職務は、各種の作戦を行うための航空機への搭乗、長期間にわたる艦艇や潜水艦での勤務、落下傘での降下など厳しい側面がある。このため、防衛省・自衛隊は、隊員が誇りを持ち、安心して職務に専念できるよう、職務の特殊性を考慮した俸給と諸手当の支給、医療や福利厚生などの充実を図っている。

3 女性自衛官の一層の活用など

防衛省・自衛隊は、男性のみならず、女性にも広く門戸を開放し、任務を遂行しており、13(同25)年3月末現在、女性自衛官は、約1.2万人(全自衛官の現員数の約5.5%)となっている。女性自衛官については、母性保護、プライバシー確保などの制約により、一部の配置に制限(戦車、潜水艦、戦闘機など)があるものの、護衛艦への乗組や対潜哨戒機、輸送機などの操縦に従事しているほか、各幕僚監部や司令部などの自衛隊の中枢においても、活躍の場が拡大してきている。
防衛省・自衛隊としては、引き続き、女性自衛官の採用・登用の更なる拡大を図るため、11(同23)年3月、「防衛省における男女共同参画に係る基本計画(平成23年度〜平成27年度)」1を策定した。女性自衛官が途中で退職することなく、仕事と家庭生活が両立でき、さらに活躍の場が広がるような様々な施策を検討・実施することとしている。たとえば、意欲と能力を有する女性自衛官の計画立案業務への積極的な参画、国際平和協力活動への女性自衛官のさらなる活用、自衛隊の特殊な勤務形態に対応するための庁内託児所の整備および育児休業代替要員制度の積極的な運用を図っており、また、災害派遣等の緊急登庁時における児童の一時預かりについても、安全マットなどの備品の整備を引き続き行っているところである。
今後も、女性自衛官をより一層活用するため、様々な施策を粘り強く重層的に取り組んでいく。

4 隊員の子育て支援への取組

わが国における少子化の進行を踏まえ、次代の社会を担う子供たちが健やかに生まれ、かつ育成される社会の形成に資するため、03(同15)年、「次世代育成支援対策推進法」が成立した。
現在、防衛省では、10(同22)年3月に策定した「防衛省特定事業主行動計画(平成22年度〜平成26年度)」に基づき、特に、上司および男性職員向けのハンドブックの作成や啓発講演会の実施など、男性職員の育児休業や子育てに関する特別休暇の取得促進に積極的に取り組んでいる。

5 規則遵守への取組

防衛省・自衛隊では、日頃から法令などの様々な規則の遵守とその意識の高揚を図っており、12(同24)年3月にも部下指導のポイントなどを解説した「服務参考資料」を配付し、高い規律を保持した隊員の育成に努めている。
また、「薬物乱用防止月間」、「自衛隊員等倫理週間」などの期間を設けて、遵法意識の啓発に努めている。

(1)薬物使用防止への取組
05(同17)年、自衛隊において隊員の違法薬物使用事案が続発した。これを重く受け止めた防衛庁(当時)は、防衛庁副長官(当時)を議長とする「薬物問題対策検討会議」を開催して問題点と再発防止策2をとりまとめ、この防止策を着実に行っていくこととした。
しかし、その後も薬物にかかわる法令に違反した事案が発生しており、平成24年度には3人の隊員が逮捕された。防衛省・自衛隊は、平成22年度より、若年隊員を重点とした、<1>教育の徹底、<2>営舎内点検の強化、<3>効果的な薬物検査体制の構築に取り組んでおり、前述の再発防止策とあわせて薬物犯罪の再発防止、根絶を図っている。

(2)自衛隊員倫理法等違反行為の防止
00(同12)年4月から施行された自衛隊員倫理法・倫理規程は、公務員不祥事が相次いで発生し、厳しい社会的批判を招いたことを背景に、公務に対する国民の信頼を確保することを目的として、利害関係者の範囲を明確に定め、隊員が利害関係者から贈与や接待を受けることなど、国民の疑惑や不信を招くような行為の禁止などを規定している。
具体的な取組としては、毎年、倫理週間を設定し、全隊員に対する教育を行うとともに、広報や啓発活動を通じて、倫理意識の周知と浸透を図っている。

6 自衛隊員の自殺防止への取組

わが国では、98(同10)年に年間自殺者数が3万人を超え、その後も高い水準で推移しており、深刻な社会問題になっている。自衛隊においても、自衛官の自殺者数は、平成16年度に94人と過去最多となったが、平成22年度は77人、平成23年度は78人、平成24年度は79人となっている。
自衛隊員の自殺は、隊員本人や残された御家族にとって不幸なことであると同時に、防衛省・自衛隊としても有為な隊員を失うことはきわめて残念なことである。防衛省・自衛隊としては、自殺防止のため、例えば、次のような施策を継続して行っている。
○ カウンセリング態勢の拡充(部内外カウンセラー、24時間電話相談窓口、駐屯地・基地等への臨床心理士の配置など)
○ 指揮官への教育や、一般隊員へのメンタルヘルスに関する教育などの啓発教育の強化
○ メンタルヘルス強化期間を設定し、異動など環境の変化をともなう部下隊員に対する心情把握の徹底や、各種参考資料を配付

7 殉職隊員への追悼など

50(昭和25)年に警察予備隊が創設され、保安隊・警備隊を経て今日の自衛隊に至るまで、自衛隊員は、国民の期待と信頼に応えるべく日夜精励し、旺盛な責任感をもって、危険を顧みず、わが国の平和と独立を守る崇高な任務の完遂に努めてきた。その中で、任務の遂行中に、不幸にしてその職に殉じた隊員は1,800人を超えている。
防衛省・自衛隊では、殉職隊員が所属した自衛隊の各部隊において、殉職隊員への哀悼の意を表するため、葬送式を行うとともに、殉職隊員の功績を永久に顕彰し、深甚なる敬意と哀悼の意を捧げるため、様々な形で追悼を行い、御遺族に対応している3

平成24年度自衛隊殉職隊員追悼式の様子
平成24年度自衛隊殉職隊員追悼式の様子
8 隊員の退職と再就職のための取組

自衛隊は、精強性を保つため、若年定年制および任期制という制度を採用している。このため多くの自衛官は、一般職の国家公務員と異なり、50歳代半ば(若年定年制自衛官)または20歳代(大半の任期制自衛官)で退職することとなっており、その多くは退職後の生活基盤の確保のために再就職が必要である。
これらの自衛官に対して再就職の支援を行うことは、雇用主たる国(防衛省)の責務であり、自衛官の将来への不安を解消し、在職中は安心して職務に精励できるようにするとともに、その士気を高め、優秀な人材を確保するためにも、きわめて重要であると認識しており、再就職に有効な職業訓練などの援護施策を行っている。また、再就職のための取組は、退職自衛官が持つ様々な技能を社会に還元し、社会における人的インフラの強化の観点からも重要である。
防衛省には自ら職業紹介を行う権限がないため、一般財団法人自衛隊援護協会が、厚生労働大臣と国土交通大臣の許可を得て、退職自衛官に対する無料職業紹介事業を行っている。
退職自衛官は、その一人ひとりが広範な職種・職域にわたる職務遂行と教育訓練によって培われた優れた企画力・指導力・実行力・協調性・責任感などを有している。また、職務を通じ、あるいは職業訓練などにより取得した各種の資格・免許も保有している。このため、在職時の職種・職域にかかわらず、金融・保険・不動産業や建設業のほか、製造業、サービス業など幅広い分野で活躍し、雇用主から高い評価を受けている。さらに、地方公共団体の防災や危機管理の分野などにも採用され、活躍している。しかしながら、今後も厳しい雇用情勢が続くことが予想されており、防衛省としては、退職自衛官の雇用を確保するため、国家資格取得などの支援、新規企業の開拓などを行っていくほか、再就職支援の強化について検討していく方針である。
また、防衛省では、自衛官が安心して職務に専念する環境を醸成するとの観点から、自衛官の再任用制度について、60歳前においては3年以内の任期(事務官などは1年以内)を可能としているところである。
(図表III-4-1-4・5参照)

図表III-4-1-4 再就職援護のための主な施策
図表III-4-1-5 再任用制度の概要
9 隊員の退職後の再就職についての規制

自衛隊員の再就職については、公務の公正性の確保などの観点から、規制4が設けられている。自衛隊員が離職後2年間に、その離職前5年間に防衛省と契約関係にある営利企業に就職する場合は、防衛大臣などの承認が必要となっており、12(平成24)年、防衛大臣が自衛隊員の営利企業への就職を個別に承認したのは89件(89人)であった。


1)同計画においては、女性自衛官のみならず、女性事務官などについても同様に採用・登用の拡大を図るとともに、男性職員の育児・介護にかかる施策なども検討することとしている。
2)再発防止策として、<1>服務指導および教育の徹底、<2>入隊後における薬物検査(尿検査)の導入、<3>各種相談・通報窓口の整備などの再発防止策を速やかかつ着実に行っていくこととした。なお、入隊時の薬物使用検査は、02(平成14)年から行っている。
3)自衛隊殉職者慰霊碑は、62(昭和37)年に市ヶ谷に建てられ、98(平成10)年、同地区に点在していた記念碑などを移設し、「メモリアルゾーン」として整理された。メモリアルゾーンでは毎年、自衛隊殉職隊員追悼式を行っている。この式は、殉職隊員の御遺族をはじめ、内閣総理大臣と防衛大臣以下の防衛省・自衛隊高級幹部のほか、歴代の防衛大臣などが参列して営まれている。また、メモリアルゾーンにある自衛隊殉職者慰霊碑には、殉職した隊員の氏名などを記した銘板が納められている。この慰霊碑には、国防大臣などの外国要人が防衛省を訪問した際、献花が行われ、殉職隊員に対して敬意と哀悼の意が表されている。このほか、自衛隊の各駐屯地および基地において、それぞれ追悼式などを行っている。
4)自衛隊法第62条(私企業からの隔離)に規定
 
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