第III部 わが国の防衛に関する施策
4 契約制度の改善
1 検討の経緯

装備品などの調達を巡る環境が一段と厳しさを増してきている状況に対応するため、防衛省では、新たな発想も取り入れ、さらに強力に取得改革を推進していく必要性が高まってきている。
このような背景のもと、防衛省は、新たな施策を検討するため、10(同22)年から「契約制度研究会」を開催している。
本研究会では、装備品調達に関連する契約などについて、国側から見た調達コストの抑制にとどまらず、短期的・中長期的視点も踏まえ、企業が防衛事業に取り組むメリットの向上や、効率化の努力を行った者が報われる「Win-Win」の関係の構築などに留意しながら、様々な課題について検討を行い、10(同22)年8月に第1回報告書、11(同23)年4月に第2回報告書、そして12(同24)年9月に第3回報告書をそれぞれとりまとめた。

2 防衛装備品にかかる契約に関する制度の改善方策

(1)「超過利益返納条項」の改善
「超過利益返納条項」とは、契約履行後に企業に超過利益が生じた場合に、国にその超過利益を返すことを規定した契約条項である。これは、装備品の原価の内容について予測が困難な部分が多い場合に一般競争契約も含めて適用されており、市場性の乏しい防衛装備品の調達に特徴的な契約条項である。
この条項は、国にとっては契約相手方に対する超過利益の防止だけではなく、契約履行後の監査によりコスト情報が収集できるなどのメリットがあり、企業にも、原価を国から容認されることになるため、将来の同種契約の価格の基礎となるなどのメリットもある。
一方、本条項を付した契約については、企業努力によるコスト低減など超過利益が発生した場合には返金の対象となるため、企業のコストダウン・インセンティブが働きにくい。さらに、実質的な競争性が認められる複数者による入札案件に対して超過利益返納条項を付すことの妥当性については、慎重な評価が必要である。
このため、防衛省では、12(同24)年3月、実質的な競争性が確保されている競争契約の場合には、本条項を付さないこととする見直しを行った。現在は引き続き、超過利益返納条項を初めとする原価監査付契約(実際に要した原価が監査され、これに応じて最終的な支払金額が確定される特約を付した契約)から、支払金額に関して特約がなく実際の製造原価の増減とは無関係に契約締結当初の段階で契約金額を完全に確定する一般確定契約への移行を推進するため、防衛省における装備品の予定価格算定について、コスト確認手法のあり方、コスト情報のデータベース化の推進、およびコスト管理能力の向上などについて中央調達を担う装備施設本部での検討を加速させている。

(2)コストダウン・インセンティブを引き出す契約制度への改善
防衛省は、企業のコストダウン・インセンティブを引き出すため、これまでにも「インセンティブ契約制度」1の運用をはじめ様々な取組を行ってきた。しかし、このインセンティブ契約は、99(同11)年の導入以降、わずか4件の採用にとどまっている。さらに公共調達の適正化にともない、供給者が事実上1者と考えられている装備品の調達にも、公募など競争性を持たせた手続を毎回行うこととされているが、結果的にはその多くが1者応募であり、手続が事実上形骸化している。
このため、防衛省では、12(同24)年4月に「作業効率化促進制度」2を改善し、企業が製造工程上の作業のロスなどを排除する作業効率化によってコストダウンを行う約束をした場合に、一定の条件の下で、削減される工数の50%相当額をインセンティブ料として認める制度とした。さらに、13(同25)年4月には、同種契約の継続的な受注を可能とすることにより企業の作業効率化に対する一層の取組みを促す観点から、企業が同制度を利用し、大幅なコスト削減を行うことを約束した場合には、制度の適用を受ける契約(制度の適用決定から最大5年度の間に締結される契約)を随意的な契約とする制度を施行したところである。現在は、現行のインセンティブ契約制度について、インセンティブ料の付与対象や料率3の多様化などの制度見直しのほか、作業効率化促進制度と同様に企業が約束するコスト削減が大幅な場合に随意的な契約とすることなども視野に検討を進めている。中長期的課題として、作業効率化促進制度やインセンティブ契約制度を利用することによって、企業が大幅なコスト削減を行うことを約束した場合には企業に対し、継続的な受注を約束することにより、コストダウンに対する一層の取組を誘引する制度や、一定の条件の下、随意契約とすることなども視野に検討を進めている。

(3)PFI(Private Finance Initiative)推進法4などを積極的に活用した複数年度契約と更なる調達コストの低減
コストダウンを図るためには、本来、一定程度まとまった長期の契約が不可欠である。しかし、国庫債務負担行為の上限は5年であり、企業にとっては、このような短期間での契約のために投資を行うことは事業によっては採算が合わないため、コスト削減につながり得る投資を控えたり、さらにはリスク回避の観点から受注しないことも考えられる。
このため、PFI推進法や公共サービス改革法5などを積極的に活用してより長期の複数年度契約を実現することにより、投資額の平準化による予算の計画的取得および執行を実現するとともに、受注者側のリスク軽減、新規参入の促進などを通じた装備品調達コストの低減などのメリットを引き出すことが期待される。このような観点から、防衛省では、PFI推進法を活用したXバンド衛星通信の整備・運営事業について、13(同25)年1月に事業契約の締結を行ったところであり、今後もPFI法を活用することにより調達コストの低減が見込まれるものについては積極的に活用する。
また、PBL契約においては、国庫債務負担行為の上限である5年間を超える契約が必要な場合は、最長10年間の長期契約が可能な公共サービス改革法などの活用を検討している。

Xバンド通信衛星の整備・運営の検討(図はスーパーバード)【スカパーJSAT】
Xバンド通信衛星の整備・運営の検討(図はスーパーバード)【スカパーJSAT】
3 過大請求事案の再発防止策に関わる事項

三菱電機などの防衛関連企業による一連の過大請求事案について、その動機を解明するために、防衛省は12(同24)年1月から順次、当該企業に対する調査を開始し、同年12月に再発防止策を取りまとめの上、公表した。
調査の結果は、工数付替えなどによる過大請求が行われてきた背景として、装備品という特殊な商品を取り扱っているための防衛関連部門の閉鎖性を浮き彫りにするものであった。他方、民間企業において通常期待されるような損益管理や売上を実現していくことが難しいという装備品などにかかる調達特有の取引条件もその動機づけに大きく影響していることが明らかとなった。
これらの背景は、今回の当事者である三菱電機などに特有のものではなく、防衛生産に関わる大部分の企業が共通に直面する課題となっているものと考えられる。再発防止策では、防衛生産の担い手の閉鎖性を軽減し、透明性を高める措置を充実・強化するとともに、企業が負担するコストとリスクをより中立的に評価する方向を追求する方策を以下のとおり提示し、13(同25)年3月以降、左藤防衛大臣政務官を長とする過大請求事案調査検討委員会において、これらの方策を具体的に実施するための検討を進め一部については同年4月から施行しているところである。

第1回「過大請求事案調査検討委員会」を主催する左藤防衛大臣政務官
第1回「過大請求事案調査検討委員会」を主催する左藤防衛大臣政務官

(1)契約相手方に対する調査・監査の強化など
<1> 制度調査・原価監査の強化など
○ 事前通知を行わない臨時の制度調査(抜打ち調査)の受入れを契約上、義務化
○ 企業のコンプライアンス機能を活用し、毎年度、最初の契約締結時に防衛省が要求するコンプライアンス事項の実施状況を書面で確認
○ 制度調査には装備施設本部の制度調査担当官に加え、地方防衛局の原価監査官・監督官も参加
<2> 原価情報の収集・構築
○ 原価情報を収集するため、原価調査の受入れを契約条件に盛り込み積極的に実施
○ 契約価格の妥当性を検証するため、コストデータの構築・管理の強化について、装備施設本部での検討を加速

(2)過大請求会社に対する措置
<1> 違約金の引上げ・軽減
違約金制度について、その抑制機能を向上しつつ、同時に自発的な中止・申告を促進するため、過払い額に対する違約金の倍率を現行の2倍から次のとおり引上げまたは軽減
○ 不正行為の隠蔽などを図った場合には、過払い額の4倍
○ 疑義の指摘を受けていない段階で自主的に申告した場合には、過払い額と同額
<2> 指名停止措置要領の整備
○ 事案の主要な類型毎の基準を明示

(3)装備品などの調達にかかる諸制度
<1> 実際に必要な原価・経費の契約価格への反映
契約価格の算定における原価や経費の査定ルールを企業実態に即した形で明確化
<2> 企業が負うリスク・コストの適切な評価
○ 研究開発や量産初期に起こりがちな原価の上振れリスク6を適正に評価し、過去の実績をもとにした「付加リスク料」を該当契約の契約価格に加算
○ インセンティブ契約制度の見直し(料率の向上や付与対象の多様化)


1)企業からのコスト低減に向けた意欲を引き出すため、契約締結時に想定されなかった技術などによるコストダウン策を企業が提案して採用された場合に、コスト削減効果の一定割合(料率)分をインセンティブ料として予定価格のもととなる計算価格に付加する制度
2)契約相手方の作業の実施効率を向上させるよう、防衛省がコンサルタント会社も活用して、作業の実態調査・分析を行い、作業効率化のための余地を官民共同で探求する制度
3)計算価格に付加されるインセンティブ料としてコスト削減効果に適用される料率は、現在50%である。
4)民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律
5)競争の導入による公共サービスの改革に関する法律
6)防衛省では、研究開発や量産初期の段階の契約を原価監査付契約として締結することが多いが、当該契約は、原価を監査した結果、契約の履行に実際にかかった原価に適正な利益を加えたあるべき契約価格としての実績額が当初の契約金額を下回った場合には、その差額分は支払いを減額し、又は国に返納し、実績額が当初の契約金額を超過した分については支払わないことを条件とする契約である。これにより、防衛省としては、個別の契約案件においてリスクを負うことなく適正価格以上の支払いを確実に免れることができるが、企業側にとっては、コストの上振れによって適正利益を割り込んだり、損失を被ったりするリスクを負う仕組みとなっている。
 
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