第III部 わが国の防衛に関する施策
2 防衛装備品の取得をめぐる現状

防衛装備品の取得をめぐる現状は以下のとおりである。

1 調達単価と数量

わが国の防衛関係費については、依然として厳しい状況が続いている。一方、昨今の装備品の高性能化・複雑化により、維持・整備にかかる費用が増加している。平成17年度以降は、維持・整備経費が主要装備品の購入にかかる経費を逆転し、新規主要装備品の調達を圧迫している。また、装備品の高性能化・複雑化は、開発・製造コストの上昇をもたらし、装備品の取得単価自体を上昇させている。これらの事情は、調達数量の減少をもたらし、それが高い技能をもつ工員の維持・育成が難しくなるとの問題や将来の見通しが不透明なため防衛事業から撤退する企業が生じているとの問題につながっている。
参照 資料79

2 研究開発の現状

防衛関係費における研究開発経費についても平成24年度の経費が20年前と比べて約20%減となるなど厳しい状況におかれている。防衛産業の技術力は、その技術者が研究開発事業に取り組むことなどを通じて、維持・向上するものであることから、研究開発予算のすう勢は、企業における技術者の維持・育成に大きく影響する。
(図表III-3-1-2参照)

図表III-3-1-2 研究開発費の現状
3 海外の状況

欧米諸国は、開発・生産コストの高騰に対応するため、同盟国・友好国間での防衛装備品の共同開発・生産を推進している。このことにより、一国だけで開発・生産する場合に比べ、当該装備品に対する需要が共同開発・生産への参加国全体に拡大したり、自国の防衛産業が他国の優れた技術に触れ、自らの技術力を向上させることなども期待できる。
また、欧米諸国では、防衛産業の再編による、競争力の強化を指向してきた。米国では、主に米国内企業間での合併・統合が繰り返されたのに対し、欧州では、ドイツ、フランス、英国、イタリアを中心に多国間にわたる防衛産業の合併・統合が見られる。

4 契約制度の現状

公共調達においては、市場によって決定された価格(市場価格)をもって契約することが最も合理的かつ効率的であることはいうまでもない。このことは防衛装備品についても例外ではなく、防衛装備品の適正価格の決定、すなわち予定価格の算定には、市場価格によって計算する「市場価格方式」を採用することを原則としている。しかし、防衛装備品には、その特殊性により、市場価格の存在しないものが多数存在するため、そのような場合には、当該装備品の製造において実際に必要となる原価・費用を積上げた原価に適正利益を加算して計算する「原価計算方式」を採用することとしている。
実際、平成23年度の中央調達についてみれば、予定価格の算定方式別の件数では、市場価格方式によるものが約5,800件、原価計算方式によるものが約2,900件と、市場価格方式が原価計算方式を大きく上回っている。しかし、原価計算方式によって予定価格を算定し契約している防衛装備品などには高額なものが多く含まれるため、契約金額で比較すると、市場価格方式によるものが約3,800億円、原価計算方式によるものが約1兆900億円と、後者が圧倒的に多いことが分かる。
原価計算方式では、必要なコストを一つ一つ計上して価格を計算するため、防衛省側にとっては、防衛装備品の価格の妥当性を容易に説明しうるメリットを有する。その反面、この計算方式では、原価の一定割合が適正利益として価格に計上されるため、企業側にとってみれば、原価が大きいほど多くの利益を得られることになり、コストダウンに対するインセンティブを損なう側面を有している。
さらに、原価計算方式によって予定価格を算定している防衛装備品のうち、特に研究開発や量産初期の段階にあるものについては、契約の締結当初に原価を確定することが困難なため、契約の履行完了の前後に実際にかかった原価(実績原価)を確認し、実績原価が当初予定していた原価より少なくなったことで企業の受け取る利益が大きくなった場合には、当該利益を「超過利益」として契約金額から減額しまたは返納させる「原価監査付契約」の契約形態をとっている。この原価監査付契約では、減額または返納の対象となる超過利益に、企業がコストダウンを行って得た利益が含まれるため、企業側にはなるべく当初予定していたとおりの原価で契約を履行しようとする動機が働き、コストダウンはますます行われづらくなる。
その上、このような契約形態は、実績原価が当初予定していた原価を超過した場合には当該超過額を補填する制度とはしていないため、企業は受け取る利益を最大化する目的で、他の契約で発生した工数(直接工員の人数と作業時間の積によって表される作業量)を別の契約に付け替えることによって、実績原価を見かけ上水増しする過大請求を誘引する要因ともなっていることが、12(平成24)年1月以降に相次いで発覚した防衛関連企業による過大請求事案によって明らかとなっている。

 
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