第III部 わが国の防衛に関する施策
3 能力構築支援をはじめとする実践的な多国間安全保障協力の推進
1 能力構築支援への積極的かつ戦略的な取組

(1)能力構築支援実施の背景
近年、人道支援・災害救援、地雷・不発弾処理、防衛医学などの非伝統的安全保障分野における防衛当局の役割や協力が拡大・深化しており、特に、国際社会が協力し、こうした分野における関係国の能力を向上させる能力構築支援(キャパシティ・ビルディング)の重要性が認識されている。
防衛省・自衛隊は、これまで、国際協力の一環として、<1>国連平和維持活動、<2>国際緊急援助活動、<3>ソマリア沖・アデン湾における海賊対処活動などを行っているが、こうした活動は、紛争や大規模災害など実際に生起した安全保障上の問題への「事後的」な対応と位置づけられる。これらの活動に対し、能力構築支援は、「平素」から継続的に非伝統的安全保障分野における人材育成や技術支援などを通じて途上国自身の対処能力を向上させることにより、地域内における安定を積極的・能動的に創出し、国際的な安全保障環境を改善するという新たな発想に基づく取組である。
(図表III-2-1-5参照)

図表III-2-1-5 能力構築支援事業のイメージ

さらに、能力構築支援に取り組むことは、<1>各国の支援要請に応える形で能力構築支援を行うことにより、二国間関係の強化が図られる、<2>開発途上国の安全保障分野における能力を向上させることにより、国際的な安全保障環境の改善につながる、<3>地域の平和と安定に積極的・主体的に取り組むわが国の姿勢が、国民や支援対象国に正確に認識されることにより、防衛省・自衛隊および日本全体への信頼が向上し、ひいては国際社会におけるわが国の発言力の向上につながる、<4>「事後的」な対応に比べ、事態の生起を未然に防ぐことができ、あるいは実際に事態が発生した場合の被害を減少させる可能性があり、対処に要するコストが大幅に軽減される、といった利点がある。
特に、東南アジア諸国からは、非伝統的安全保障分野における自国の対処能力向上への支援要請が寄せられており、防衛省・自衛隊としても、自らの有する知見・経験などを用いることで、関係国の軍および軍関係機関の能力向上や人材育成に積極的かつ戦略的に取り組む必要があると考えており、また、こうした取組は自衛隊自体の能力向上にも資するものである。
能力構築支援の開始に先立ち、平成23年度に主に東南アジア諸国において、現地調査や具体的なニーズの把握や分析を行い、今後行うべき能力構築支援分野や態様に関する調査研究を行った。平成24年度には、調査研究の結果などを踏まえ、<1>自衛官や民間団体の要員を、一定期間支援対象国に派遣する事業(長期派遣事業)、<2>自衛官などを、短期間支援対象国に派遣する事業(短期派遣事業)、<3>支援対象国の研修員を、わが国に受け入れる事業(招へい)の3つの事業をそれぞれ行うこととした。

東ティモール・メテナロ基地において講義を行う陸自隊員
東ティモール・メテナロ基地において講義を行う陸自隊員
インドネシアにおいて講義を行う海自隊員
インドネシアにおいて講義を行う海自隊員

(2)具体的な活動

ア 長期派遣事業
(ア)事業の概要
長期派遣事業は、講義や実習など、規模が大きく体系的な人材育成などを行うため、比較的長期にわたり、内局要員・自衛官・NGO(Non-Governmental Organization)などの知見のある民間団体の要員から成るチームを派遣するものである。本事業は、平成23年度に行った調査研究の結果を踏まえ、平成24年度から開始し、これまでに東ティモールおよびカンボジアにおける活動を行った。
(イ)東ティモールにおける活動
12(同24)年12月から13(同25)年3月までの間、陸上自衛官2人、事務官1人、民間団体の要員4人を、東ティモール軍メテナロ基地などに派遣し、人道支援・災害救援分野の能力向上に寄与する装備品の維持・整備技術に関する人材育成事業を行った1。具体的には、自衛隊のこれまでの災害救援活動に関する経験や教訓を共有するとともに、東ティモール軍の整備職種の要員に対して、車両整備の概要や具体的な整備技術に関する教育を行った。
(ウ)カンボジアにおける活動
13(同25)年1月から3月までの間、陸上自衛官4人、事務官1人、民間団体の要員6人を、カンボジア国家平和維持・地雷処理爆発性残存物除去センター(NPMEC:National Centre for Peacekeeping Forces, Mines and ERW Clearance)の訓練センターに派遣し、PKO分野の能力向上に寄与する道路構築などの施設分野に関する人材育成事業を行った。具体的には、自衛隊のPKO活動などの講義を行うとともに、カンボジア軍の施設職種の要員に対して、道路構築などに必要な基礎的事項に関する教育を行った。

イ 短期派遣事業
(ア)事業の概要
短期派遣事業は、セミナーにおける講義などを行うため、知見を有する自衛官などを短期間派遣するものである。講師派遣については、これまでも、アフリカPKOセンターに対して陸上自衛官を派遣してきた実績があり、このノウハウをもとに、相手国側のニーズを踏まえた講義や意見交換を行うことができると考えている。(第4節参照)
(イ)活動状況
これまでに、防衛省・自衛隊は、モンゴルに陸上自衛官など、ベトナムおよびインドネシアに海上自衛官などを派遣し、短期間のセミナーを行った。
(図表III-2-1-6参照)

図表III-2-1-6 短期派遣事業の活動状況

ウ 招へいなど
要員の招へいは、相手国側の実務者などを招待し、わが国において行う教育訓練などを視察・研修させるものである。13(同25)年3月には、ベトナム国防省からPKO派遣準備などに携わる将官を含む実務者を招へいし、20年の実績に基づく自衛隊のPKOへの取り組みやノウハウを紹介するとともに、陸自の国際活動関連部隊の研修を行った。

2 パシフィック・パートナーシップ

07(平成19)年より行われているパシフィック・パートナーシップ(PP:Pacific Partnership)は、米海軍を主体とする艦艇が地域内の各国を訪問して、医療活動、文化交流などを行い、各国政府、軍、国際機関、NGOとの協力を通じ、参加国の連携強化や国際災害救援活動の円滑化などを図る活動である。わが国は、07(同19)年から、海自の医官などを派遣して調査研究を行ってきた。
PPへの参加は、国際的な安全保障環境の改善に寄与し、日米安保体制の強化などにもつながることから、わが国の平和と安全を確保する観点から重要である。また、国際平和協力活動での医療や輸送に関する自衛隊の練度・技量の向上を図るとともに、民間団体との調整・連携のノウハウを得る上でも有意義な機会であり、10(同22)年以降、自衛隊の部隊などを派遣している。
13(同25)年は、トンガにおいては自衛隊医官を派遣し、パプアニューギニアにおいては、自衛隊医官、海自艦艇および空自輸送機を派遣するとともに、NGOとも協力して、医療活動や文化交流などを行うこととしている。

3 多国間共同訓練

(1)アジア太平洋地域での多国間共同訓練の意義
アジア太平洋地域では、00(同12)年より、従来から行っていた戦闘を想定した訓練に加え、人道支援・災害救援(HA/DR:Humanitarian Assistance/Disaster Relief)、非戦闘員退避活動(NEO:Non-combatant Evacuation Operation)などの非伝統的安全保障分野を取り入れた多国間での訓練への取組を始めるようになった。
このような多国間の共同訓練に参加し、また主催することは、自衛隊の各種技量の向上はもとより、関係国間の各種調整や意見交換を通じ、協力の基盤を作る上で重要であり、防衛省・自衛隊としても、引き続き、これらの訓練に積極的に取り組んでいる。
参照 資料57

(2)多国間共同訓練への取組

ア 多国間共同訓練の参加・主催
02(同14)年4月、第2回西太平洋潜水艦救難訓練をわが国として初めて海自が主催し、同年10月にも、海自が多国間捜索・救難訓練を主催した。11(同23)年3月には、ARFの枠組で2回目となる災害救援実動演習(ARF-DiREx2011)をわが国とインドネシアが共同で開催し、防衛省・自衛隊からも要員が参加した。
また、自衛隊は、05(同17)年以降、毎年行われている、米・タイ共催の多国間共同訓練である「コブラ・ゴールド」演習に参加している。13(同25)年2月に行われた「コブラ・ゴールド13」では、指揮所演習、人道・民生支援活動の医療部門、在外邦人等輸送訓練に参加した。
さらに、自衛隊は、10(同22)年以降、米国の提唱する国連平和維持活動に係る多国間共同訓練GPOI:Global Peace Operations Initiativeキャップストーン演習に参加している。13(同25)年3月ネパールで行われた「シャンティ・プラヤ-2」では幕僚訓練および実動訓練に参加した。
また、陸自は前年に引き続き、12(同24)年8月、米国およびモンゴル共催の多国間共同訓練「カーン・クエスト12」に参加した。海自は、同年9月および13(同25)年5月の2回、アラビア半島周辺海域で行われた米主催国際掃海訓練に参加した。また、同年3月には、パキスタン海軍主催多国間海上共同訓練「アマン13」に参加している。空自は前年に引き続き、同年2月、日米豪共同訓練「コープノース・グアム」を行った。

「コブラ・ゴールド」において避難民の誘導を行う陸自隊員
「コブラ・ゴールド」において避難民の誘導を行う陸自隊員
米主催国際掃海訓練において各国隊員と掃海準備を行う海自隊員
米主催国際掃海訓練において各国隊員と掃海準備を行う海自隊員

イ 多国間共同訓練へのオブザーバーの招へいなど
01(同13)年9月、わが国で行った第4回日露捜索・救難共同訓練に、アジア太平洋地域の8か国からオブザーバーの参加を得て以来、諸外国からのオブザーバーの招へいにも取り組んでいる。
また、陸自は、02(同14)年以降、多国間協力の一環として、毎年アジア太平洋地域多国間協力プログラム(MCAP:Multinational Cooperation program in the Asia Pacific)を主催し、関係各国の実務者を招へいしている。12(同24)年9月には、アジア太平洋地域の22か国および行政機関などの組織から参加を得て、「大規模災害対処のための陸軍種としての平素の取組」について、シナリオに基づく机上演習などを行った。


1)陸上自衛官については、一部期間の派遣。
 
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