第II部 わが国の防衛政策と日米安保体制
第2章 防衛大綱と防衛力整備

自衛隊が各種任務を適切に実施するためには、護衛艦や航空機などの装備品を取得し、部隊の運用体制を確立する必要があるが、これらの防衛力整備は一朝一夕にはできず、長い年月を要する。そのため、中長期的見通しに立った防衛力整備を行う必要がある。
このため、政府として、昭和52年度以降、「防衛計画の大綱」(防衛大綱)を定めて、わが国の安全保障の基本方針、わが国を取り巻く安全保障環境、防衛力の意義や役割、さらには、これらに基づく自衛隊の具体的な体制や主要装備品の整備目標の水準といった防衛力整備の基本的指針を示してきたところである。また、大綱に示された安全保障の基本方針や防衛力の役割などを踏まえつつ、大綱が目標とする自衛隊の体制や主要装備品の整備水準を着実かつ計画的に達成するため、昭和61年度以降は中期防衛力整備計画を策定し、5年間の経費の総額と主要装備の整備数量を定め、同計画に従って、各年度の防衛力整備を実施しているところである。
防衛大綱は、その時々の安全保障環境などを踏まえ、76(昭和51)年、95(平成7)年、04(同16)年および10(同22)年の4度にわたり策定されてきたところである。しかしながら、わが国周辺の安全保障環境は、近年、一層厳しさを増しており、このため、本年1月25日に、政府として防衛大綱を見直し、年内に結論を得る旨の閣議決定が行われた。現在、防衛省としては、副大臣を長とする委員会を設置し、防衛力のあり方に関する検討を行っているところである。(図表II-2-0-1参照)

図表II-2-0-1 これまでの防衛力整備計画の推移

本章では、第1節において防衛大綱の変遷などを説明し、第2節において22大綱見直しの検討状況について説明する。また、第3節において平成25年度の防衛力整備、第4節において防衛関係費、第5節において宇宙、サイバー、海洋などのグローバル・コモンズの安定的利用などについて説明する。

第1節 防衛大綱と中期防衛力整備計画
1 防衛大綱の変遷
1 51大綱

51大綱は、70(昭和45)年代のデタント1を背景として策定されたものであり、<1>全般的には東西間の全面的軍事衝突などが生起する可能性は少ない、<2>わが国周辺においては、米中ソの均衡的な関係と日米安保体制の存在がわが国への本格的な侵略の防止に大きな役割を果たし続けるとの認識に立っている。
その上で、わが国が保有する防衛力については、<1>防衛上必要な各種の機能を備え、<2>後方支援体制を含めてその組織および配備において均衡のとれた態勢をとることを主眼とし、<3>これをもって平時において十分な警戒態勢をとりうるとともに、<4>限定的かつ小規模な侵略までの事態に有効に対処することができ、<5>さらに情勢の変化が生じ、新たな防衛力の態勢が必要とされるに至ったときには、円滑にこれに移行できるよう配慮されたものとすることとされた。51大綱で導入した「基盤的防衛力構想」は、このようにわが国への侵略の未然防止に重点を置いた抑止効果を重視した考え方である。

2 07大綱

07大綱は、冷戦の終結など国際情勢が大きく変化する一方、国連平和維持活動や阪神・淡路大震災への対応など、自衛隊に対する期待が高まっていたことなどを考慮して策定された。
07大綱は、わが国の防衛力整備がそれまで、わが国に対する軍事的脅威に直接対抗するよりも、自らが力の空白となってわが国周辺地域における不安定要因とならないよう、独立国としての必要最小限の基盤的な防衛力を保有するという「基盤的防衛力構想」に基づいて行われてきたとした上で、これを基本的に踏襲している。
一方、防衛力の内容については、防衛力の規模や機能を見直すことに加えて、「わが国の防衛」のみならず、「大規模災害など各種事態への対応」や「より安定した安全保障環境への貢献」など様々な分野において自衛隊の能力をより一層活用することを重視するものとなっているのが特徴である。

3 16大綱

16大綱は、大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散の進展、国際テロ組織の活動などの新たな脅威や多様な事態への対応が課題となる中、わが国の安全保障および防衛力のあり方について新たな指針を示す必要があるとの判断のもとで策定された。
16大綱は、<1>わが国に直接脅威が及ぶことを防止し、脅威が及んだ場合にはこれを排除するとともにその被害を最小化すること、<2>国際的な安全保障環境を改善し、わが国に脅威が及ばないようにすること、の2つを安全保障の目標とし、そのために「わが国自身の努力」、「同盟国との協力」および「国際社会との協力」の3つのアプローチを統合的に組み合わせることとしている。
その上で、防衛力のあり方については、防衛力の存在による抑止効果を重視する基盤的防衛力構想の有効な部分は継承するとしつつ、「対処能力」をより重視し、新たな脅威や多様な事態に対応できるよう「多機能で弾力的な実効性のある防衛力」が必要であるとした。

4 22大綱

22大綱は、<1>わが国周辺において、依然として核戦力を含む大規模な軍事力が存在するとともに、多くの国が軍事力を近代化し、また各種の活動を活発化させていること、<2>軍事科学技術などの飛躍的な発展にともない、兆候が現れてから事態が発生するまでの時間は短縮化する傾向にある中でシームレスに対応する必要があること、<3>多くの安全保障課題は、国境を越えて広がるため、平素からの各国の連携・協力が重要となっている中で、軍事力の役割が多様化し、平素から常時継続的に軍事力を運用することが一般化しつつあることなどを踏まえ、策定されたものである。
このため、22大綱は、今後の防衛力について、「防衛力の存在」を重視した従来の「基盤的防衛力構想」によることなく、「防衛力の運用」に焦点を当て、与えられた防衛力の役割を効果的に果たすための各種の活動を能動的に行える「動的なもの」としていく必要があるとしている。このため、22大綱では、即応性、機動性、柔軟性、持続性および多目的性を備え、軍事技術水準の動向を踏まえた高度な技術力と情報能力に支えられた「動的防衛力」を構築することとしている。
この「動的防衛力」の考え方は、自衛隊の活動を通じて防衛力の役割を果たしていくことを主眼とする点に特徴がある。
参照 資料789
(図表II-2-1-1・2参照)

図表II-2-1-1 防衛力の役割の変化
図表II-2-1-2 防衛大綱別表の変遷

1)米ソ間における平和共存と対策を謳った「基本原則」宣言などの一連の東西冷戦の緊張緩和をいう。
 
前の項目に戻る      次の項目に進む