資料編

資料9 「平成23年度以降に係る防衛計画の大綱」及び「中期防衛力整備計画(平成23年度〜平成27年度)」の決定について(防衛大臣談話)

平成22年12月17日

1 はじめに

本日、安全保障会議及び閣議において、「平成23年度以降に係る防衛計画の大綱について」及び「中期防衛力整備計画(平成23年度〜平成27年度)について」が決定されました。

現「防衛大綱」は、策定から5年後に必要な修正を行うこととされていましたが、昨年9月の政権交代という歴史的転換を経て、防衛大綱の見直しという国家の安全保障にかかわる重要課題は、新しい政府として十分な検討を行う必要があることから、昨年12月の閣議において平成22年中に結論を得ることとしたものです。

防衛省としても、この閣議決定を受け、精力的な検討を行ってきたところであり、本年9月からは、安全保障会議や関係閣僚の間で、総合的な観点からの検討が行われてまいりました。これらの検討を経て、本日、新たな防衛大綱と中期防衛力整備計画の決定に至ったものであります。

2 新たな防衛力の構想

新「防衛大綱」では、実効的な抑止及び対処、アジア太平洋地域の安全保障環境の一層の安定化、グローバルな安全保障環境の改善を防衛力の役割としています。そして、これら三つの役割を果たすため、防衛力の存在自体による抑止効果を重視した、従来の「基盤的防衛力構想」によることなく、「動的防衛力」を構築することとしています。その内容は次の通りです。

(1)基本的考え方

我が国はこれまで、我が国に対する軍事的脅威に直接対抗するよりも、自らが力の空白となって我が国周辺地域の不安定要因とならないよう、独立国としての必要最小限の基盤的な防衛力を保有するという「基盤的防衛力構想」の有効な部分を継承することとした現「防衛大綱」に従って、防衛力を整備してきました。この「基盤的防衛力構想」は、東西両陣営の対峙が国際関係の基本構造をなし、また、自衛隊の海外派遣が想定されなかった時代に案出されたものですが、我が国が置かれている状況は、当時から大きく変化しています。

現在の世界における多くの安全保障問題は地理的な境界を超えて広がるため、平素からの各国の連携・協力が重要となっています。この中で軍事力の役割は一層多様化し、人道支援・災害救援、平和維持、海賊対処等平素から常時継続的に軍事力を運用することが一般化しつつあります。自衛隊も、これまで国際平和協力活動を数多く実施してきており、自衛隊の海外での活動は日常化しております。

一方、我が国周辺においては、依然として核戦力を含む大規模な軍事力が存在するとともに、多くの国が軍事力を近代化し、また各種の活動を活発化させています。このような我が国周辺のすう勢下においては、防衛力の存在自体によって相手を抑止する、いわば静的な抑止のみならず、平素から各種の活動を適時・適切に行うことによって国家の意思や高い防衛能力を示す、いわば動的な抑止が重要となります。

このような状況を踏まえれば、新「防衛大綱」に定められた三つの役割を効果的に果たすための各種の活動を通じて、我が国の主権、平和と安全及び繁栄を確保することが重要になってきているといえます。このため、新「防衛大綱」では、防衛力の「運用」に焦点を当てた「動的防衛力」を構築することとし、装備の量と質の確保のみならず、自衛隊の活動量を増していくことを主眼としています。この考え方の下、防衛力の適切な整備、維持及び運用を行ってまいります。

その際、日本国憲法の下、従来からの防衛の基本方針は堅持するとともに、東西冷戦のような対立構造を前提とする、いわゆる脅威対抗のような考え方には立たず、我が国が置かれた安全保障環境において重視すべき事態への実効的な対応態勢を確保してまいります。

(2)保有すべき防衛力の特性等

今後構築すべき動的防衛力は、即応性、機動性、柔軟性、持続性及び多目的性を備え、軍事技術水準の動向を踏まえた高度な技術力と情報能力に支えられたものとします。その際、優先して整備すべき機能・能力へ資源を適切に配分するほか、装備品等の維持整備を効果的かつ効率的に行い、その可動率を高い水準で維持するとともに、要員の練度を向上させるなど防衛力の運用に不可欠な基盤の充実も図ってまいります。

また、日頃の訓練や演習、シミュレーション等を通じて、防衛力の運用に関する計画・体制・制度を点検するとともに、関係機関や地方公共団体等との連携を強化し、必要な措置を講じてまいります。

(3)動的防衛力の運用

新たな防衛力構想の下、以下の3点を重視して、防衛力を運用することといたします。

第一に、情報収集・警戒監視・偵察活動等の平素の活動の常時継続的かつ戦略的な実施です。我が国周辺で軍や関係機関による活動が活発化する中、こうした活動は、我が国周辺の環境が望ましくないものへ変化することの防止にも寄与するものになります。

第二に、各種の事態への迅速かつシームレスな対応です。軍事科学技術等の進展に伴い、兆候が現れてから事態が発生するまでの間は短縮化する傾向にあることなどから、国内外における突発的な事態に適切に対応することが重要となっています。

第三に、諸外国との協調的活動の多層的な推進です。これは、多様化・複雑化する安全保障上の課題や不安定要因への対応に不可欠であり、また、諸外国との協調的関係の発展や我が国の国際社会における存在感の高まりにも寄与するものです。

3 日米同盟の深化・発展

我が国の平和と安全を確保するため、今後とも日米同盟が不可欠であることに変わりはありません。加えて、今日では、日米同盟は、地域の国々に大きな安心をもたらす存在ともなっています。さらに、日米同盟に基礎を置く両国の緊密な関係は、政治、経済、社会等の幅広い分野における日米の包括的・総合的な友好協力関係の基盤となっており、また、安全保障に関する多国間対話の推進や国際社会の取組を効果的に進める上でも重要です。このように日米同盟は、我が国の、地域の、そしてグローバルな安全保障にとって重要な役割を担っています。そのため、我が国自身の防衛力の三つの役割と相乗効果を発揮するように、自衛隊と米軍との一層緊密な連携を実現し、新たな安全保障環境にふさわしい形で日米同盟を深化・発展させてまいります。

今後の日米防衛協力においては、日米両国が事態の推移に応じてシームレスに連携・協力できる態勢の強化や自衛隊と米軍の相互運用性を向上させることにより、日米両国の意思や高い防衛能力を示すことが重要です。このため、共同訓練及び施設の共同使用の拡大や装備技術協力の更なる進展といった、平素の日米共同の活動の活発化に努めてまいります。また、地域的課題やグローバルな課題の解決にも我が国が積極的な役割を果たすことができるよう、協力を強化してまいります。

4 国際社会の責任ある一員としての努力

(1)アジア太平洋地域の安全保障環境の一層の安定化

アジア太平洋地域においては、多国間の枠組等を活用して域内の規範構築や具体的な問題の解決に向けた協力を目指す動きが進んでいます。防衛省・自衛隊としても、このような動向の中で適切な役割を果たすことが重要であると認識しております。このため、非伝統的安全保障分野を中心に、地雷・不発弾処理等を含む自衛隊が有する能力を活用し、実際的な協力を推進するとともに、域内協力枠組の構築・強化や域内諸国の能力構築支援等に取り組んでまいります。また、これらの取組に当たっては、二国間・多国間の国際協力を多層的に組み合わせ、特に、韓国やオーストラリア等我が国と基本的な価値観や利益を共有し得る国との協力関係を一層強化するとともに、米国を含めた三国間の協力等も推進してまいります。こうした多層的な協調的活動を通じ、地域の一層の安定化に努力してまいります。

(2)グローバルな安全保障環境の改善

国際社会の平和と安定は、我が国の平和と安全と不可分となっており、かかる認識の下、国際社会の責任ある一員として、平和構築や停戦監視を含む国際平和協力活動にさらに主体的、積極的かつ戦略的に取り組むとともに、自衛隊の保有する能力を活かし、国際テロ対策、海上交通の安全確保や海洋秩序の維持、破綻国家等の能力構築支援等に取り組んでまいります。その際、効果的・効率的な活動を行う観点から、施設、衛生、輸送等ニーズの高い分野を中心とする活動基盤の強化を図ってまいります。

また、大量破壊兵器や弾道ミサイル等の運搬手段の拡散は、引き続き我が国を含む国際社会にとっての差し迫った課題です。このほか、各国の経済活動や軍事活動が海洋、宇宙、サイバー空間の利用に依存を深める中、新「防衛大綱」では、それらの安定的利用の維持・強化を図ることとしております。これらの国際社会の課題に対応するための様々な国際協力に積極的に取り組んでまいります。

さらに、近年、国際的な安全保障に多大な影響を与えかねない問題が新たに注目されており、防衛省としても、気候変動や資源の制約が安全保障環境や作戦環境に及ぼす影響について検討を行い、必要な措置を講じてまいります。

5 防衛装備品をめぐる諸課題への対応

安全保障上の重要性等の観点から、国内に保持すべき重要な防衛生産・技術基盤の維持・育成を重点的に実施するとともに、実効性ある防衛力整備を効率的に実施するとの観点も踏まえ、防衛生産・技術基盤に関する戦略を策定します。

また、自衛隊が携行する重機等の装備品の活用や被災国等への装備品の供与等を、より迅速かつ柔軟に行うことで、平和維持・平和構築、人道支援・災害救援等の平和への貢献や国際的な協力をより効果的に行える機会が増加しています。さらに、装備品の技術が高度化し、開発費用が高騰する中、特に先端装備品の開発・生産における各国の連携が顕著であり、国際共同開発・生産に参加することで、装備品の高性能化を実現しつつ、コストの高騰に対応することが先進諸国で主流になっています。防衛省としても、このような大きな変化に対応するための方策について検討してまいります。

6 今後の防衛力整備

防衛省としては、新「防衛大綱」に従い、動的防衛力を構築するため、新「中期防」に基づいて防衛力を整備してまいります。その際、南西地域も含む防衛態勢の充実に向け、機動力の向上等優先整備すべき機能を重点化し選択的に資源を集中する一方、戦車・火砲を縮減するなど効率化・合理化を徹底し、従前の例にとらわれず縦割りを排除した横断的な視点に立って、メリハリのある防衛力整備を進めてまいります。

特に、動的防衛力の強化に資するため、島嶼部への攻撃に対する対応や周辺海空域の安全確保、さらには各種の事態が複合して発生した場合への対応においても、各自衛隊が一体となって有機的に対処し、国民の安全を確保できる体制を構築します。このため、統合的な観点から、各自衛隊における機動力、輸送能力及び実効的な対処能力の向上や、部隊の在り方について検討します。また、統合幕僚監部の機能強化をはじめとする指揮統制機能の向上についても検討します。検討に際しては、各自衛隊に横断的な機能の整理等を行い、実効的かつ効率的な体制を構築してまいります。

さらに、人事制度改革や装備品等の取得改革を推進するとともに、装備品の維持整備をはじめとする後方事業を重視してまいります。

これらの取組により、防衛力の構造的な変革を図り、限られた資源でより多くの成果を達成しつつ、防衛力の精強性・実効性の向上に努めてまいります。

なお、これらの課題への対応は、動的防衛力を強化し、新たな時代の防衛力を構築していく上で不可欠なものであり、こうした改革を総合的かつ集中的に推進するための体制を整備した上で、省を挙げて精力的に検討を行っていくこととしています。

新「中期防」に定める計画の実施に必要な防衛関係費の総額の限度は、将来における予見し難い事象への対応等に措置できる額を含め、23兆4千9百億円をめどとしており、平成22年度予算と比較した場合の平均伸率は0.1%増であります。厳しい財政事情の中にあっても、必要な経費はぎりぎり確保できたものと考えており、動的防衛力の構築に向け、防衛力整備を着実に進めてまいる所存です。

7 おわりに

国の防衛は、国家の最も基本的な施策であるとともに、国民一人ひとりによって支えられているものであり、自衛隊の活動も国民や社会の支援なくしては成り立ち得ません。防衛省としては、この新「防衛大綱」の下、国民各位の理解を得つつ、その期待と信頼に応え得るよう、全力を尽くしてまいる所存です。国民の皆様におかれましても、御理解と御協力を切に希望する次第であります。

 
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