第I部 わが国を取り巻く安全保障環境
第3節 国際テロリズムの動向
1 全般

グローバル化の進展により、国境を越えて活動するテロ組織にとって、組織内または他の組織との間の情報共有・連携、地理的アクセスの確保や武器の入手などがより容易になっている。こうした中、イスラム過激派などのテロ組織は、政情が不安定で統治能力が脆弱な国家・地域を中心に、テロを実行しているが、その活動目的や能力は組織ごとに異なっているとされる1。なお、これらの組織の中には密輸・誘拐などの犯罪を通じて資金を確保しているものもみられる。
01(同13)年に発生した9.11テロを主導したとされるアルカイダについては、11(同23)年5月、パキスタンに潜伏していた指導者ウサマ・ビン・ラーディンが、米国の作戦により殺害された。しかしながら、アルカイダによる攻撃の可能性が根絶されたわけではない。アルカイダ指導部の指揮統制力が衰退する一方、「アルカイダ」を名称の一部に取り入れた関連組織は、勢力を増大させているとの指摘もあり、それらの関連組織が主に北アフリカや中東などを拠点としてテロを実行している2
アルカイダとの関連が指摘される組織およびその他のイスラム過激派テロ組織については、同地域を中心としつつ南アジア、東南アジアなどの各地でテロを実行しており、特にアルジェリア、リビア、マリなどでは、管理が十分でない国境を越えて、拠点が所在する国以外でもテロを実行する能力を持つとされている3。これらの組織については、リビアのカダフィ政権が崩壊した際に拡散した大量の武器を入手しているとの指摘がある。
また、近年、アルカイダやその関連組織との正式な関係はないものの、アルカイダの思想に影響された急進的な個人やグループがテロ実行主体となる例が見られ、いわゆる「ホームグローン・テロリスト」による脅威が懸念されている。たとえば、そのような個人を暴力に駆り立てる要因としては、共通の動機を見出すことは困難であるものの、海外の紛争地域への過激主義的な見地からの関心、生活への失望感、欧米の対外政策への怒り、英語による過激主義的なプロパガンダの増加などがあると指摘されている。
このようにテロの脅威の態様が変化してきていることを踏まえ、13(同25)年5月、オバマ米大統領は対テロ戦略の枠組みについて演説を行った。その中で、オバマ米大統領は、まずはアルカイダやその関連組織との戦いを終結させる必要があるとした上で、米国の取組は「世界的なテロとの戦い」(global war on terror)ではなく、米国の脅威となる特定の暴力的過激主義組織を解体することを目標としたものでなければならないとした。また、テロリストに対する無人機を使用した攻撃作戦を効果的で合法的であるとする一方、そのような作戦の実行に際しては、武力行使の指針の明確性の確保や、説明責任などの要請から、厳格な基準の下に友好国との協議や国家主権を尊重するとした4。さらに、貧困や宗派間の憎悪といった根深い問題を直ちに解決することは困難であるとして、軍事的な取組のみならず、民主化への移行の支援や資金援助と言った外交努力が重要であるとした。また、テロ行為を拒否する米国内のムスリムコミュニティーと連携していくことは、暴力的な過激主義を抑える最善策であるとしている。


1)米国家情報長官(DNI:Director of National Intelligence)「世界脅威評価」(13(平成25)年3月)
2)米国務省「2011年版国別テロリスト報告書」(12(平成24)年4月)。
3)同上
4)13(平成25)年5月、大統領の演説に合わせ公表された対テロ戦略に関する政策指針では、テロ容疑者を拘束することを優先しつつ、容疑者を殺害する条件として、合法性、米国民への継続的かつ差し迫った脅威があること、非戦闘員の負傷者がほぼ確実に発生しないと見込まれること、作戦時に容疑者拘束が不可能であることなどをあげている。
 
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