第I部 わが国を取り巻く安全保障環境
2 世界各地で発生するテロの動向

リビアでは12(同24)年9月、イスラム過激派勢力がベンガジの米国総領事館を襲撃し、大使を含む4人の米国人が殺害された。
マリでは、13(同25)年1月、同国北部を実効支配し、アルカイダとの関連が指摘される「アンサール・ディーン(Ansar al-Dine)」などを、マリ暫定政府からの要請を受けて派遣されたフランス軍部隊が攻撃したのに対し、同勢力は報復テロを宣言するなど、現在もテロの脅威が継続している。
アルジェリアでは、13(同25)年1月にこれまで主にアルジェリア人や欧米人を標的とした誘拐事件を起こしてきた「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM:Al-Qaeda in the Islamic Maghreb)」から離脱したとされるイスラム過激派勢力が、同国内の天然ガスプラントを襲撃し、邦人10人を含む多数が犠牲となった。同勢力は犯行理由の一つに、フランスのマリへの軍事介入1に際し、アルジェリアが領空通過を許可したことを挙げている。また、実行犯は周辺国で武器を入手し、国境を越えテロを実行したとみられている。
イラクでは、11(同23)12月の米軍撤収以降も治安は大きく悪化していないが、政府高官や外国人、治安当局などを標的とするテロが散発しており、「イラクのアルカイダ(AQI:Al-Qaeda in Iraq)」などが犯行声明を出すなど、引き続きテロの脅威に直面している。
イエメンでは、近年、外交団などに対する累次のテロ事件が発生している。また、10(同22)年10月には、米国向けの複数の航空貨物から爆発物が発見され、これらの貨物がイエメンから発送されたものであることが判明した。こうした事件はアルカイダ関連組織が実行したものとみられている。また、「アラビア半島のアルカイダ(AQAP:Al-Qaeda in the Arabian Peninsula)」による活動が継続しているとの指摘がある2
ソマリアでは、12(同24)年9月に大統領選挙が行われ、同年11月に新内閣が発足したものの、各地でアルカイダとの関連が指摘され、ソマリアの一部を実効支配している「アル・シャバーブ」と政府軍およびアフリカ連合ソマリア・ミッション軍(AMISOM:African Union Mission in Somalia)などとの戦闘が依然として継続している。アル・シャバーブは政府側の攻勢により多くの拠点から撤退したが、引き続き外国人を対象とした誘拐や政府・AMISOMなどに対するテロを行っている3
ナイジェリアでは、10(同22)年以降、イスラム国家の建設を目的とする「ボコ・ハラム」が、警察などの取り締まりに対する報復としてテロを繰り返すなど活動を活発化させている。また、11(同23)年8月、首都アブジャの国連ビルを標的とした自爆テロが発生しており、ボコ・ハラムが犯行声明を出している。
南アジアは、以前からテロが頻発している地域であり、特にパキスタンでは、「パキスタンのタリバーン(TTP:Tahrik-e Taliban Pakistan)」やアルカイダなどによる宗教施設や政府機関などを標的としたテロが多発している。
東南アジアはテロ組織の取締りなどに一定の進捗が見られる。フィリピンでは、国内治安上の最大の懸案となってきた、イスラム過激派組織「アブ・サヤフ・グループ(ASG:Abu Sayyaf Group)」などのテロ組織は衰退していると指摘されている。
(図表I-2-3-1参照)

図表I-2-3-1 アフリカ・中東地域の主なテロ組織

1)4節を参照
2)DNI「世界脅威評価」(13(平成25)年1月)。たとえば、12(同24)年2月、AQAPの犯行と疑われる爆発事案や、同年3月、アルカイダ系抽出武装勢力と政府軍との戦闘などが報じられている。
3)12(平成24)年2月、アル・シャバーブとアルカイダの指導者が合流を表明したと伝えられている。
 
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