第III部 わが国の防衛に関する諸施策
2 装備品などの取得について
1 装備品などの取得をめぐる現状

防衛上の所要に対応した装備品などを適切かつ効率的に取得することは、わが国の防衛力整備にとってきわめて重要である。防衛省は、これまで、03(平成15)年9月に開催された「総合取得改革推進委員会」などにおいて、昨今の厳しい財政事情や装備品などの高性能化にともなう高価格化といった環境の変化から、装備品などの調達・補給の効率化・合理化などの必要な施策の検討・実施に取り組んできた。
また、税金の使途について国民に対する十分な説明責任を果たす上で、装備品などの取得の公正性・透明性を確保しつつ、調達に伴うリスクやコストを抑制し、優れた装備品などを取得できる有効な施策を講じてきた。
たとえば、装備品の取得に際して、一時的な価格低減のみを目的とした施策ではなく、取得後の運用に必要な要素も考慮に入れた装備品のライフサイクル全般を見据えた取得や契約に関する制度の見直しなど新たな発想を取り入れた取得改革を引き続き推進している。

2 装備品などの取得にかかる取組

07(同19)年、軍事科学技術の動向、統合運用の推進や部隊ニーズに的確に対応した装備品などを効果的かつ効率的に取得する必要性から、「総合取得改革」を加速すべく、防衛大臣指示による「総合取得改革推進プロジェクトチーム」が設置された。これまで、次に示す様々な検討を行い、現在も「防衛力の実効性の向上のための構造改革の検討」の枠組と連携して、検討を行っている。

(1)ライフサイクルコスト1管理の強化
主要装備品は、調達された後も、長期にわたり運用されることから、装備品の構想、開発、量産、運用(維持・修理・改修を含む。)、廃棄に至るライフサイクルを通じた効率的・合理的な管理を進めていくことがきわめて重要である。装備品のライフサイクルを通じたコストを適切に管理することは、開発や量産への着手といった結節点における費用対効果の判断を踏まえた意思決定をはじめ、効果的かつ効率的な装備品などの取得に寄与するものである。
防衛省では、08(同20)年3月からライフサイクルコスト管理の試行を開始し、10(同22)年4月からは、それまでの試行作業の成果を踏まえ、コスト算定作業、コスト管理を行うとともに、機種選定・取得形態のコスト比較、性能とコストのトレード・オフ・スタディ、コスト抑制の施策の検討などを目指したライフサイクルコスト管理の活用を推進している。

(2)インセンティブ契約制度の拡充
防衛省が締結する契約においては、契約の履行に基づく実績額の監査を行った後に、支払代金を確定する契約方法をとることがある。この場合、企業の契約履行過程における効率化努力によりコストダウンを達成しても、当初契約額からコストダウン分を減額して契約変更を行うため、コストダウンの成果が企業側に還元されない。さらに、次回契約以降の契約額、利益額の減少につながることから、企業側にコストダウンに取り組む意欲が生じにくく、かつ費用超過となっても契約額は増額されないことから企業の不満も多い。
インセンティブ契約制度は、契約した装備品について、契約相手方である民間企業の努力により生じたコストダウン分を、防衛省側と企業側で一定の割合でシェアすることによって、企業に対して、利益の増加を動機づけとして積極的なコストダウン活動を促し、装備品のコストダウンを図ろうとするものである。企業のコストダウン活動は、生産性の向上、低コスト体質の強化・促進にも資するものであり、ひいては防衛生産・技術基盤の強化にもつながるものと考えられる。
防衛省では、99(同11)年に減価提案制度を導入、08(同20)年にインセンティブ契約制度を全般的に見直し、その対象を企業のコストダウン活動全般に拡大し、企業提案に対して審査手続の面から改善を図るなど、実効性を高めるための新たな制度を施行し、12(同24)年1月までに4件を採用している。

(3)コスト抑制のための努力
装備品の研究開発、調達、維持管理にかかる経費の抑制のために、複数年度に分けて調達する予定の装備品などの単年度での短期集中調達、二以上の自衛隊の装備品などの一括調達、開発に際しての仕様の一部共用化・共通化、民生品の活用の促進、民間委託、維持・整備コストの効率化などといった手法の活用に努めている。平成19年度から、こうした取組の実績をまとめ、平成18年度と比較した削減実績をとりまとめて公表している(図表III―4―2―1参照)。さらには、平成24年度には新たな取組として、海上保安庁と艦船需品の一括調達を行い、コスト抑制に努めることとしている。

図表III―4―2―1 コスト縮減状況
平成24年度予算では、F―15近代化機用レーダー部品の 集中調達を行いコストの抑制を図っている。
平成24年度予算では、F―15近代化機用レーダー部品の
集中調達を行いコストの抑制を図っている。

(4)公正性・透明性の向上のための取組
防衛省では、装備品などの取得にかかわる公正性・透明性の向上を目指し、契約の適正化のための措置やチェック機能の強化などといった観点から、これまで様々な施策を講じてきた。
昨今では、政府全体の公共調達の適正化の一環として、防衛省においても、総合評価落札方式2の導入拡大、複数年度契約の拡大、入札手続の効率化、随意契約の見直しなどに取り組んでいる。こうした施策とあわせて、06(同18)年7月、装備品の調達を行っている装備本部3(当時)監査担当副本部長を、内部部局には監査課を設置し、チェック機能の強化に努めている。
また、08(同20)年には、(株)山田洋行による海外製造企業の見積書を改ざんして防衛省に過大請求した事案などを踏まえ、一般輸入調達問題への対応として、一般輸入調達の際に特約条項を新設、輸入調達調査の導入、在米輸入調達専門官の増員などの措置を講じた。
さらに、防衛省は、平成20年度防衛監察において判明した、航空自衛隊第1補給処によるオフィス家具などの事務用品の調達における不自然な入札状況を、09(同21)年5月、談合情報対応マニュアルに基づいて公正取引委員会に通知した。同年6月、公正取引委員会によって、事業者および航空自衛隊へ立ち入り調査が行われ、10(同22)年3月、関係事業者に対して独占禁止法に基づく排除措置命令および課徴金納付命令が発出されたほか、防衛大臣に対しては改善措置要求などが行われた。
こうした事態を受けて防衛省では、「航空自衛隊第1補給処オフィス家具等の事務用品談合事案調査・検討委員会」を開催し、事案の調査および必要な措置の検討を行った結果、同年12月、関係者計50名について懲戒処分などを行った。また、同様の事象の再発防止を図るべく、航空自衛隊の補給・整備組織の見直し、オフィス家具等の事務用品の調達のアウトソーシング化、予算執行のチェック機能の強化などの改善措置をとることとした。

(5)中央調達と地方調達の見直し
防衛省では、装備施設本部において主に艦艇、航空機、武器、車両などの主要な装備品や各部隊で共通的に使用するものを調達(以下、中央調達)し、各自衛隊やその他の機関において主に部隊などの任務遂行に密着したものを中心に調達(以下、地方調達)している。
中央調達と地方調達は、その性格から取り扱う品目や手続に相違があるが、その見直しの一環として、調達手続の透明性の一層の向上のため、08(同20)年7月から、地方調達の高額な随意契約(中央調達と同じ基準である1.5億円以上)を防衛大臣承認事項とした。
また、中央・地方調達データを一元的に管理するために、平成22年度末からクラウドコンピューティングを活用し、まとめ買いの検討など様々な用途に利用することとした。

(6)装備品取得の更なる効率化を目指した検討
10(同22)年9月にとりまとめた装備品取得の更なる効率化を目指した検討の方向性については、次のとおりである。

ア IPT(Integrated Project Team)方式による装備品の取得4
装備品の構想段階からメンテナンス、教育訓練、能力向上なども見すえた装備品取得を検討するために、関係部署を集結し構成する「統合プロジェクトチーム」(IPT)方式による取得手法の拡大・推進が必要である。また、将来的には企業も参画した長期的な官民パートナーシップの構築が必要である。

イ コスト管理体制
装備品の運用にかかるコストを含めた費用対効果の最大化のため、装備品のライフサイクルコストを的確に把握する管理体制の充実が必要である。

ウ PBL(Performance Based Logistics)の導入
可動率や安全性といった装備品のパフォーマンスの達成に対して対価を支払うPBLの導入可能性を検討し、装備品の品質を維持・向上させつつ長期的なコスト低減を図る必要がある。
このため、11(同23)年7月、防衛省におけるPBLの定義を定め、PBLの導入方法の可視化や検討を行うにあたり解決すべき論点などを示した「防衛省PBL導入ガイドライン」を策定し公表した。
なお、PBLの円滑な導入を図るため、平成24年度から陸自が保有する特別輸送ヘリコプター(EC―225LP)をパイロット・モデルとして対象に、機体部品の取得、修理などに関して包括的な契約を締結する予定である。

PBLの円滑な導入を図るため、機体部品の取得、修理などに関し て包括的な契約を締結する予定の陸自特別輸送ヘリコプター (EC―225LP)
PBLの円滑な導入を図るため、機体部品の取得、修理などに関し
て包括的な契約を締結する予定の陸自特別輸送ヘリコプター
(EC―225LP)

エ 調達手法の改善
調達過程における人的・時間的コストなどの効率化を図れるような調達手法の改善(一例として、数年にわたって調達する数量を1つの契約にまとめて調達する方式)が必要である。

3 装備品などの調達にかかる契約に関する制度の検討

(1)検討の経緯
装備品などの調達を巡る環境が一段と厳しさを増してきている状況に対応するため、防衛省では、新たな発想も取り入れ、更に強力に取得改革を推進していく必要性が高まってきている。
このような背景のもと、防衛省は、幅広い観点から、新たな施策を打ち出すため、10(同22)年に「契約制度研究会」5を開催した。
本研究会では、装備品調達に関連する契約などについて、国側から見た調達コストの抑制にとどまらず、短期的・中長期的視点も踏まえ、企業が防衛事業に取り組むメリットの向上や、効率化の努力を行った者が報われる「Win-Win」の関係の構築などに留意しながら、様々な課題について検討を行い、10(同22)年8月に第1回中間報告書を、11(同23)年4月に第2回中間報告書をそれぞれとりまとめた。

(2)防衛装備品にかかる契約に関する制度の改善方策
ア 「超過利益返納条項」の改善
「超過利益返納条項」とは、契約履行後に企業に超過利益が生じた場合に、国にその超過利益を返すことを規定した契約条項である。これは、装備品の原価の内容について予測が困難な部分が多い場合に一般競争契約も含めて適用されており、市場性の乏しい防衛装備品の調達に特徴的な契約条項である。
この条項は、国にとっては契約相手方に対する超過利益の防止だけではなく、契約履行後の監査によりコスト情報が収集できるなどのメリットがあり、企業にも、原価を国から容認されることになるため、将来の同種契約の価格の基礎となるなどのメリットもある。
一方、本条項を付した契約については、企業努力によるコスト低減など超過利益が発生した場合には返金の対象となるため、企業のコストダウン・インセンティブが働きにくい。さらに、実質的な競争性が認められる複数者による入札案件に対して超過利益返納条項を付すことの妥当性については、慎重な評価が必要である。
このため、防衛省では、12(同24)年3月、実質的な競争性が確保されている競争契約の場合には、本条項を付さないこととする見直しを行ったところであり、現在、引き続き、防衛省における装備品の予定価格算定について、コスト確認手法のあり方、コスト情報のデータベース化の推進、およびコスト管理能力の向上などについて検討を進めている。

イ コストダウン・インセンティブを引き出す契約制度への改善
防衛省は、企業のコストダウン・インセンティブを引き出すため、これまでにもインセンティブ契約制度の運用をはじめ様々な取組を行ってきた。しかしながら、このインセンティブ契約は、99(同11)年の導入以降、わずか4件の採用にとどまっている。さらに公共調達の適正化にともない、供給者が事実上1者と考えられる装備品の調達にも、公募など競争性を持った手続を毎回行うこととされているが、結果的にはその多くが1者応募であり、手続きが事実上形骸化している。
このため、防衛省では、12(同24)年4月に「作業効率化促進制度」6を改善したところであり、現在は、現行のインセンティブ契約制度の条件の緩和のほか、中長期的課題として、集中調達を拡大することや、公募制度を見直し、供給者が事実上1者であることが明白な案件について、公募手続を経ない随意契約とすることによりコスト削減を促すことなども視野に検討を行っている。

ウ PFI (Private Finance Initiative)推進法7などを積極的に活用した複数年度契約と更なる調達コストの低減
コストダウンを図るためには、本来、一定程度まとまった長期の契約が不可欠である。しかし、国庫債務負担行為の上限は5年であり、企業にとっては、このような短期間での契約のために投資を行うことは事業によっては採算が合わないため、コスト削減につながり得る投資を控えたり、さらにはリスク回避の観点から受注しないことも考えられる。
このため、PFI推進法や公共サービス改革法8などを積極的に活用してより長期の複数年度契約を実現することにより、投資額の平準化による予算の計画的取得および執行を実現するとともに、受注者側のリスク軽減、新規参入の促進などを通じた装備品調達コストの低減などのメリットを引き出すことが期待される。このような観点から、防衛省では、衛星の製造から設計寿命までの19年に渡るXバンド衛星通信の整備・運営事業について、11(同23)年に改正されたPFI推進法9を積極的に活用10している。また、PBL契約においては、国庫債務負担行為の上限である5年間を超える契約が必要な場合は、最長10年間の長期契約が可能な公共サービス改革法などの活用を検討する。ただし、契約期間が長期にわたることは、技術革新による非効率や財政の硬直化を招くリスクがあることに十分配慮する必要がある。なお、PBL契約は、パフォーマンスの達成に応じて対価を支払う契約方式であるため、契約の方法、予定価格の算定方式などに関し、検討を行う必要がある。

4 防衛装備品をめぐる国際的な環境変化に対する方策の検討

先端装備品の分野では高性能化・高価格化が進んでいるため、その開発・生産においては、同盟国・友好国が持つ高い技術を活用しつつ開発・生産コストを抑制する国際共同開発・生産への参加が主流となっている11。22大綱において、このような防衛装備品を取り巻く大きな変化に対応するための方策について検討するとされたことを踏まえ、11(同23)年12月27日、「防衛装備品等の海外移転に関する基準」についての内閣官房長官談話が公表された。この基準により、厳格な管理を前提に、米国に加え、わが国との安全保障面での協力関係のある国との共同開発・生産が行えるようになった。これにより、<1>先端装備品の調達を容易にするとともに、<2>開発費用の抑制と生産数量の増大による生産単価の低下が期待され、<3>防衛生産・技術基盤の維持・高度化を通じて動的防衛力の構築を一層支えることにつながるなどのメリットが考えられる。

防衛省では、PFI方式を活用してXバンド 衛星通信の整備・運営事業を推進するた めの検討を行っている。(写真はスーパー バードB2号【スカパーJSAT提供】)
防衛省では、PFI方式を活用してXバンド衛星通信の
整備・運営事業を推進するための検討を行っている。
(写真はスーパーバードB2号【スカパーJSAT提供】)
1)装備品の構想、開発、量産、運用(維持・修理・改修を含む)、廃棄に至るライフサイクル全体に要するコスト
2)技術的要素などの評価を行うことが重要であるものについて、価格のみによる自動落札方式とは異なり、価格以外の要素と価格とを総合的に評価して落札者を決定する方式
3)装備本部は、07(平成19)年9月に装備施設本部に改編
4)一例として、航空自衛隊の次期戦闘機(F-X)の選定にあたっては、防衛省内の複数の関係部局の関係者を集めてIPTを設置し、選定の評価作業など、機種選定に関する作業全般に関与したほか、陸自の新多用途ヘリコプターやFH―70(けん引式りゅう弾砲)の後継装備、海自の護衛艦を対象としたIPTを設置し、組織横断的な検討を行っている。
5)「契約制度研究会」の概要については、<http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/meeting/keiyaku_seido/gaiyo.html>参照
6)契約相手方の作業の実施効率を向上させるよう、防衛省がコンサルタント会社も活用して、作業の実態調査・分析を行い、作業効率化のための余地を官民共同で探求する制度
7)民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律
8)競争の導入による公共サービスの改革に関する法律
9)11(平成23)年6月にPFI推進法が改正され、対象施設としてあらたに賃貸住宅、船舶・航空機・人工衛星等が追加された。
10)防衛省では、民間企業の資金、経営能力および技術的知見を活用し、設計から廃棄までを一括契約で行うPFI方式を活用してXバンド衛星通信の整備・運営事業を推進するため、11(平成23)年5月、Xバンド衛星通信整備事業推進グループを設置し、以後、同グループを中心に検討を行っている。
11)一例として、わが国が次期戦闘機として機種選定を行ったF―35は、米国・英国・オランダ・イタリアなど9か国が参加し、共同開発を行っている
 
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