第III部 わが国の防衛に関する諸施策
5 人的基盤の充実に向けた施策など

昨今の少子化・高学歴化の進行や自衛隊の任務の多様化などに的確に対応していくためには、防衛力の能力発揮の基盤である人的資源を効果的に活用していく必要がある。そのため、防衛省・自衛隊は、質の高い人材を確保・育成していくための様々な取組を行っている。

1 人的基盤に関する改革など

防衛省では、人的基盤の重要性を認識し、新しい時代に向けて様々な施策を推進してきている。
(図表III―4―1―4参照)

図表III―4―1―4 主な人事施策

一方、自衛隊の人的構成については、07大綱以来、部隊などの改編や人員の削減を進めてきた中、任務の多様化・国際化、装備の高度化などへの対応のため、その重点を熟練・専門性にシフトさせてきたこと、定年退職者数の減少などによる退職者数の減少および予算上の観点から充足の限度として設定されている人員数(実員)が総人件費改革により減少したことにより、自衛官の新規採用数が減少するとともに、曹への昇任者数につき職務や育成の観点から一定の水準を確保した結果、士が減少してきている。

士には若年者が多いことから、その減少により結果として自衛隊全体としての年齢構成が高齢化してきており(全自衛官の平均年齢は、90(平成2)年には31.8歳であったが、11(同23)年には35.6歳となっている。)、年齢という観点から、自衛隊の精強性についての再評価が必要な状況となっていた。
(図表III―4―1―5参照)

図表III―4―1―5 自衛官の階級・年齢構成

22大綱および23中期防においては、このような状況を踏まえ、人件費の抑制・効率化とともに、若年化による精強性の向上などを推進し、人件費の比率が高く、自衛隊の活動経費を圧迫している防衛予算の構造の改善を図るべく、人事制度の抜本的な見直しを行うこととしている。
防衛省では、22大綱および23中期防に示された方向性に従い、自衛隊の人的基盤について総合的な施策の検討および実施を図るべく、10(同22)年12月、防衛副大臣を長とする「人的基盤に関する改革委員会」を設置した。現在、防衛力の人的側面に関する従来の検討1を発展させ、自衛官の階級別定数などを管理し、「士」の増勢など各自衛隊の特性に応じた階級・年齢構成の見直し、早期退職制度、新たな任用制度、幹部・准曹・士の各階層の活性化のための施策および募集・再就職援護に関する諸施策などについての検討を進めているところであり、その概要は次のとおりである。

(1)階級・年齢構成の見直し
自衛隊全体としての年齢構成が高齢化してきている状況を踏まえ、11(同22)年度以降、幹部および准・曹にかかる昇任を抑制し、22大綱期間中に、幹部および准曹を合計9千人程度減らし、士の増勢を図りつつ現員面での階級・年齢構成の適正化を図ることとしている。また、階級別に定員などを管理する規則を試作するとともに、人事管理の運用要領についての検討を行っている。

(2)早期退職制度
早期退職制度とは、自衛官について定年年齢よりも早期に退職させる制度であり、人事管理の適正化や年齢構成の改善を通じて自衛隊の精強性の向上に寄与するものとして、再就職援護などの施策とあわせて検討を進めることとしている。現在、総務省による希望退職制度の導入検討を踏まえ、必要な優遇施策や運用方法について検討を行っている。

(3)新たな任用制度(後方任用制度)
新たな任用制度とは、第一線部隊などに若年隊員を優先的に充当し、その他の職務について最適化された給与などの処遇を適用する制度(後方任用制度)であり、現在、制度を適用する具体的な業務の絞り込みや適切な制度の型について検討を行っている。

(4)幹部・准曹・士の各階層の活性化のための施策
06(同18)年から防衛力の人的側面の抜本的改革の一環として検討されていた幹部・准曹・士の各階層の活性化を図るための施策について、引き続き検討を進めている。

(5)募集・再就職援護に関する諸施策
厳しい募集環境などに対応した募集・再就職援護体制を整備する必要があるとの問題意識のもと、自衛官などの募集業務や再就職援護業務などを行っている全国の地方協力本部(50か所)について、その任務・役割などの整理を行っており、今後、体制の適正化を図っていく予定である。
参照 II部3章2節

2 防衛大学校改革

(1)改革の背景と経緯
防衛大学校は、幹部自衛官となるべき者の育成を図り、その卒業生は陸・海・空各幹部候補生学校を経て、自衛隊幹部の中核となって各地で活躍している。しかしながら、少子化に伴う18歳人口の急激な減少など、募集環境はますます厳しくなることが予想されることから、いかにして質の高い学生を確保し続け、優秀な幹部自衛官を育てていくかが、きわめて重要な課題となっている。このため、10(同22)年9月、防衛大臣指示により「防衛大学校改革に関する検討委員会」を設置して必要な検討を行い、11(同23)年6月に報告を防衛大臣に提出し、以後、同報告に示された改革の方向性に沿って、改革を進めていくこととされた。

(2)改革の方向性の主なポイント
ア 新たな防衛大学校の役割
<1> 「知」「徳」「体」のバランスの良い発展を目指す教育、「廉恥・真勇・礼節」の学生綱領の実践は不変
<2> 幅広い任務をグローバルな環境下で遂行するのに不可欠な柔軟な思考力・知的基盤のかん養
<3> 公開講座や講演、出版などを通じた安全保障に関する知識の社会的発信
<4> 防衛大学校が地域の誇りとして認識され、その理解のもと、高等教育機関・研究機関としての役割を果たしていくための地域社会との連携

イ 教育理念の明示
<1> わが国の平和と独立を守り、国際社会の安定に寄与する自衛隊のリーダーを養成する。
<2> 「真の紳士淑女にして、真の武人」というように、リーダーに相応しい豊かな人間性をかん養する。「廉恥・真勇・礼節」の学生綱領をその中軸とする。
<3> 伸展性のある「知」・「徳」・「体」のバランスのとれた基盤的素養を養う。広い視野と科学的思考力を特に重視する。
<4> 国際社会の中での日本の防衛力を担う強い志と使命感を確立し、幹部自衛官として必要な基本的識能を身につける。

ウ 人材確保のための施策
<1> 入試制度改革
○ 新方式による総合選抜入試を平成24年度試験から導入し、「知」のみならず「徳」「体」に優れた実績、入校意思、自衛官への任官意欲も重視した選抜を行う。
○ 現行一般入試に加え、3月に行う新型一般入試を平成24年度試験から導入し、より多くの受験生に受験機会を提供する。
<2> 多様な人材の確保
理工系の高い水準の教育を実施している高等専門学校の卒業生を、一般の大学で行われているように一般教育に関しては理系の3学年相当程度に編入させる施策を、早ければ平成25年度の導入を目指し検討する。

エ 教育訓練、研究の充実
基盤教育を充実させるため、基礎学力と基礎体力の指導を強化するほか、資質人格教育を充実させる。また、防衛・安全保障に関する教育研究の中心拠点としての成果を発信する。さらに教育内容をグローバル化、国際化に対応させ、外国語教育を強化するほか、外国士官学校との交流を強化する。女子学生に配慮した訓練管理の実施など、訓練の充実・改善を図る。

オ 防衛大学校の運営、態勢などの改革
防衛大学校の教務・訓練などの部内を横断する機能を強化するほか、教授などの任期付採用や客員教授の任用拡大を行う。また、学位審査手数料を学生の負担とするなどの施策を行う。

防衛大学校入校式において巡閲する下条防衛大臣政務官
防衛大学校入校式において巡閲する下条防衛大臣政務官
防衛医科大学校入校式において訓示する神風防衛大臣政務官
防衛医科大学校入校式において訓示する神風防衛大臣政務官
3  隊員の処遇の充実

自衛隊が対応すべき事態は、昼夜の別なく起こるものである。特に自衛官の職務は、各種の作戦を行うための航空機への搭乗、長期間にわたる艦艇や潜水艦での勤務、落下傘での降下など厳しい側面がある。このため、防衛省・自衛隊は、隊員が誇りを持ち、安心して職務に専念できるよう、職務の特殊性を考慮した俸給と諸手当の支給、医療や福利厚生などの充実を図っている。また、東日本大震災での災害派遣については、従来の災害派遣活動などよりも厳しい状況での活動であったことから、22大綱にもあるように、過酷または危険な任務の遂行に対し適切な処遇が確保されるよう、災害派遣等手当などの支給額の大幅な増額や支給範囲の拡大などの充実を図った。

4  女性自衛官の一層の活用など

防衛省・自衛隊は、男性のみならず、女性にも広く門戸を開放し、任務を遂行している。女性自衛官については、母性の保護、プライバシーの確保などの制約により、一部の配置には制限があるものの、様々な業務を行っており、各幕僚監部や司令部などの自衛隊の中枢においても、活躍の場が拡大してきている。
防衛省・自衛隊としては、引き続き、女性自衛官の採用・登用の更なる拡大を図るため、11(同23)年3月、「防衛省における男女共同参画に係る基本計画(平成23年度〜平成27年度)」2を策定した。同計画においては、女性自衛官が途中で退職することなく、仕事と家庭生活が両立でき、さらに活躍の場が広がるような様々な施策を検討・実施することとしている。たとえば、意欲と能力を有する女性自衛官の計画立案業務への積極的な参画、国際平和協力活動への女性自衛官の更なる活用、育児休業代替要員制度の積極的な運用などである。
今後も、女性自衛官をより一層活用するため、様々な施策を粘り強く重層的に取り組んでいく。

5 隊員の子育て支援への取組

わが国における少子化の進行を踏まえ、次代の社会を担う子供たちが健やかに生まれ、かつ育成される社会の形成に資するため、03(同15)年、「次世代育成支援対策推進法」が成立した。これを受け、防衛庁(当時)でも、04(同16)年、防衛庁次世代育成支援対策推進委員会を設置し、05(同17)年、同年4月1日から10(同22)年3月31日までを計画期間とする「防衛庁特定事業主行動計画」を策定した。
10(同22)年3月、同計画の終了にともない、「防衛省特定事業主行動計画(平成22年度〜平成26年度)」3を策定した。特に、男性職員向けのハンドブックの作成や啓発講演会の計画など、男性職員の育児休業や子育てに関する特別休暇の取得促進に積極的に取り組んでいる。

「隊員に対する緊急登庁支援」 東日本大震災に伴う非常呼集時に朝霞駐屯地内で 託児支援を行う陸自隊員
「隊員に対する緊急登庁支援」
東日本大震災に伴う非常呼集時に朝霞駐屯地内で
託児支援を行う陸自隊員
6 規則遵守への取組

防衛省・自衛隊では、日頃から隊員に対して、幹部隊員が率先垂範しながら、規則遵守の教育を行うとともに、指導に活用できる各種資料を作成し、広く配布するなどにより、法令などの様々な規則の遵守とその意識の高揚を図っており、12(同24)年3月にも部下指導のポイントなどを解説した「服務参考資料」を配付し、高い規律を保持した隊員の育成に努めている。
また、「薬物乱用防止月間」、「自衛隊員等倫理週間」などの期間を設けて、遵法意識の啓発に努めている。

(1)薬物使用防止への取組
05(同17)年、自衛隊において隊員の違法薬物使用事案が続発した。これを重く受け止めた防衛庁(当時)は、防衛庁副長官(当時)を議長とする「薬物問題対策検討会議」を設置して問題点と再発防止策4をとりまとめ、この防止策を着実に行っていくこととした。
しかしながら、その後も薬物にかかわる法令に違反した事案が発生しており、平成23年度には1名の隊員が逮捕された。防衛省・自衛隊は、平成22年度より、若年隊員を重点とした、<1>教育の徹底、<2>営舎内点検の強化、<3>効果的な薬物検査体制の構築に取り組んでおり、前述の再発防止策とあわせて薬物犯罪の再発防止、根絶を図っている。

(2)自衛隊員倫理法等違反行為の防止
00(同12)年4月から施行された自衛隊員倫理法・倫理規程は、かつて公務員不祥事が相次いで発生し、厳しい社会的批判を招いたことを背景に、公務に対する国民の信頼を確保することを目的として、利害関係者の範囲を明確に定め、隊員が利害関係者から贈与や接待を受けることなど、国民の疑惑や不信を招くような行為の禁止などを規定している。
具体的な取組としては、毎年1月末に倫理週間を設定し、全隊員に対する教育を行うとともに、広報や啓発活動を通じて、倫理意識の周知と浸透を図っている。

7 自衛隊員の自殺防止への取組

わが国では、98(同10)年に年間自殺者数が3万人を超え、その後も高い水準で推移しており、深刻な社会問題になっている。自衛隊においても、自衛官の自殺者数は、平成16年度に94名と過去最多となったが、平成21年度は80名、平成22年度は77名、平成23年度は78名となっている。
自衛隊員の自殺は、隊員本人や残された御家族にとって不幸なことであると同時に、防衛省・自衛隊としても有為な隊員を失うことはきわめて残念なことである。防衛省・自衛隊としては、自殺防止のため、例えば、次のような施策を継続して行っている。
○ カウンセリング態勢の拡充(部内外カウンセラー、24時間電話相談窓口など)5
○ 指揮官への教育や、一般隊員へのメンタルヘルスに関する教育などの啓発教育の強化
○ メンタルヘルス強化期間を設定し、異動など環境の変化をともなう部下隊員に対する心情把握の徹底や、各種参考資料を配付

8 殉職隊員への追悼など

50(昭和25)年に警察予備隊が創設され、保安隊・警備隊を経て今日の自衛隊に至るまで、自衛隊員は、国民の期待と信頼に応えるべく日夜精励し、旺盛な責任感をもって、危険を顧みず、わが国の平和と独立を守る崇高な任務の完遂に努めてきた。その中で、任務の遂行中に、不幸にしてその職に殉じた隊員は1,800名を超えている。
防衛省・自衛隊では、殉職隊員が所属した自衛隊の各部隊において、殉職隊員への哀悼の意を表するため、葬送式を行うとともに、殉職隊員の功績を永久に顕彰し、深甚なる敬意と哀悼の意を捧げるため、様々な形で追悼を行い、御遺族に対応している6

防衛省慰霊碑地区において行われた 平成23年度自衛隊殉職隊員追悼式
防衛省慰霊碑地区において行われた
平成23年度自衛隊殉職隊員追悼式

1)06(平成18)年9月に、安全保障環境および自衛隊の役割の変化、少子化・高学歴化をはじめとする社会構造の変化などを踏まえ、防衛力の人的側面については幅広く検討すべく、防衛庁長官(当時)を委員長とする「防衛力の人的側面についての抜本的改革に関する検討会」を開催、07(同19)年6月には検討結果をとりまとめ、報告書を作成した。
報告書については<http://www.mod.go.jp/j/approach/others/jinji/index.html>参照
2)同計画においては、女性自衛官のみならず、女性事務官などについても同様に採用・登用の拡大を図るとともに、男性職員の育児・介護に かかる施策なども検討することとしている。 男女共同参画への取組については<http://www.mod.go.jp/j/approach/others/jinji/gender/index.html>参照
3)次世代育成支援対策の推進については、<http://www.mod.go.jp/j/approach/others/jinji/kosodate/index.html>参照
4)再発防止策として、<1>服務指導および教育の徹底、<2>入隊後における薬物検査(尿検査)の導入、<3>各種相談・通報窓口の整備などの再発防止策を速やかかつ着実に行っていくこととした。なお、入隊時の薬物使用検査は、02(平成14)年から行っている。
5)<http://www.mod.go.jp/j/approach/others/jinji/mentalhealth/index.html>参照
6)自衛隊殉職者慰霊碑は、62(昭和37)年に建てられ、その後、風化による老朽化が進んだことから、80(同55)年に立て替えられた。その後、防衛庁本庁庁舎(当時)の市ヶ谷移転に伴い、98(平成10)年、自衛隊員殉職者慰霊碑や市ヶ谷に点在していた記念碑などを慰霊碑地区東方に移設し、「メモリアルゾーン」として現在の形に整理された。メモリアルゾーンでは毎年、自衛隊殉職隊員追悼式を行っている。この式は、殉職隊員の御遺族をはじめ、内閣総理大臣と防衛大臣以下の防衛省・自衛隊高級幹部のほか、歴代の防衛庁長官などが参列して営まれている。また、メモリアルゾーンにある自衛隊殉職者慰霊碑には、殉職した隊員の氏名などを記した銘板が納められている。この慰霊碑には、国防大臣などの外国要人が防衛省を訪問した際、献花が行われ、殉職隊員に対して敬意と哀悼の意が表されている。このほか、自衛隊の各駐屯地および基地において、それぞれ追悼式などを行っている。
 
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