第III部 わが国の防衛に関する諸施策
4 日々の教育訓練

自衛隊においては、わが国の防衛をはじめとする各種任務を遂行するため、指揮官をはじめとする各隊員の高い知識・技能や部隊の高い技量の維持が必要である。これは、各種事態における自衛隊の迅速・的確な対処を可能とすると同時に、わが国への侵略を意図する国に対し、それを思いとどまらせる抑止力としての機能を果たしている。
教育訓練は、このような人的な面で自衛隊の任務遂行能力を強化するためにきわめて重要である。このため、自衛隊は種々の制約の中、事故防止などの安全確保に細心の注意を払いつつ、隊員の教育や部隊の訓練などを行い、精強な隊員や部隊を作り上げることに努めている1

1 自衛官の教育

(1)教育の現状
部隊を構成する自衛官個々の能力を高めることは、部隊の任務遂行に不可欠である。このため、自衛隊の学校や教育部隊などで、階級や職務に応じて段階的かつ体系的な教育を行い、必要な資質を養うと同時に、知識・技能を修得させている。
たとえば、航空機の操縦士や航空管制官などの養成には長い期間にわたる教育を要するうえ、これらの教育には特殊な技能を持つ教官、装備品や教育施設を整備する必要もある。このように、教育は、防衛省・自衛隊として非常に大きな人的・時間的・経済的努力が必要である。また、専門の知識・技能をさらに高める必要がある場合や、自衛隊内で修得するのが困難な場合などには、海外留学を含め、部外教育機関2、国内企業、研究所などに教育を委託している。
参照 資料72

空自第1術科学校(浜松基地)で実機を使い航空機整備の 教育を受ける空自隊員
空自第1術科学校(浜松基地)で実機を使い航空機整備の
教育を受ける空自隊員

(2)統合教育
統合運用体制をより充実させるためには、統合運用に関 する知識・技能が不可欠であり、統合教育はきわめて重要である。そこで自衛隊は、各自衛隊の幹部学校3などにおける統合教育を充実4させたほか、上級部隊指揮官または上級幕僚となる幹部自衛官が統合教育を受ける統合幕僚学校5を主体とする統合教育体系を形成している。

フランス国防大学指揮幕僚課程に1年間留学し、 他国軍人とともに教育を受ける空自隊員
フランス国防大学指揮幕僚課程に1年間留学し、
他国軍人とともに教育を受ける空自隊員
2 自衛隊の訓練

(1)各自衛隊の訓練
各自衛隊の部隊などで行う訓練は、隊員それぞれの職務に必要な技量の向上を目的とした隊員個々の訓練と、部隊の組織的な行動の練成を目的とした部隊の訓練とに大別される。隊員個々の訓練は、職種などの専門性や隊員の能力に応じて個別的、段階的に行われる。部隊の訓練は、小部隊から大部隊へと訓練を積み重ねながら、部隊間での連携などの大規模な総合訓練も行っている。
参照 資料73
また、このようなわが国の防衛のための訓練に加え、国際平和協力活動や大規模災害への対応など、近年の自衛隊の任務の多様化に対応した訓練の充実にも努めている。

偵察活動の訓練を行う陸自隊員
偵察活動の訓練を行う陸自隊員

(2)統合訓練
各種事態の推移に応じて、各自衛隊が一体となって有機的に対処するため、各種統合訓練を行い、より一層の統合運用の強化を図っている。また、統合運用および各種事態への対応の強化を図るため、各自衛隊の能力を維持向上させるとともに、自衛隊の統合運用および各自衛隊による二国間、多国間の共同訓練の拡大を図っている6

護衛艦から12.7mm重機関銃で射撃訓練を行う海自隊員
護衛艦から12.7mm重機関銃で射撃訓練を行う海自隊員

(3)訓練の制約と対応
自衛隊の訓練は、可能な限り実戦に近い環境において行うよう努めている。そのため様々な施設・設備7を有しているが、制約も多い。特に、訓練を行う演習場や空域・海域、射場などが、必ずしも十分な広さとはいえないこと、地域的に偏っていること、使用できる時期や時間に制限があるといった制約8は、装備の近代化などにともない、訓練にますます大きな影響を及ぼす傾向にある。また、実戦的な訓練の一つとして実施する電子戦9環境下での訓練についても、電波干渉の防止の観点から制約がある。
こうした制約に対応するため、各自衛隊は限られた国内演習場などを最大限に活用しているほか、国内では得られない訓練環境を確保できる米国およびその周辺海空域において実射訓練や日米共同訓練を行い、より実戦的な訓練を行うよう努めている。
参照 資料74

航空機火災の消火訓練を行う空自隊員
航空機火災の消火訓練を行う空自隊員
3 安全管理への取組と課題

(1)安全管理
自衛隊の任務がわが国の防衛であることなどから、訓練や行動に危険がともなうことは避けられない。しかし、国民の生命や財産に被害を与えたり、隊員の生命を失うことなどにつながる各種の事故は、絶対に避けなければならない。
安全管理は、不断の見直し、改善が不可欠であり、防衛省・自衛隊が一丸となって取り組むべき重要な課題である。防衛省・自衛隊では、今後も平素からの艦艇・航空機の運航や射撃訓練時など日頃の訓練の際にも安全確保に最大限留意するとともに、海難防止や救難のための装備、航空保安無線施設の整備なども進めていくこととしている。
また、08(平成20)年2月に生起した護衛艦「あたご」と漁船「清徳(せいとく)丸」の衝突事故から得た教訓を踏まえ、国民の生命・財産を守るべき自衛隊が、二度と同様の事故を起こすことのないよう再発防止10に努めている。

(2)F―15機外タンク落下事故に関する取組
11(同23)年10月7日、小松基地周辺においてF―15機外タンク落下事故が生起した。防衛省としては、事故原因を調査し、その結果の概要を公表するとともに、更なる安全管理の徹底に努めているところである。


1)自衛隊の教育訓練の細部については、各自衛隊のホームページに掲載
陸上自衛隊<http://www.mod.go.jp/gsdf/>、
海上自衛隊<http://www.mod.go.jp/msdf/>、
航空自衛隊<http://www.mod.go.jp/asdf/>
2)平成24年度の部外教育機関は、国内では東京工業大学、早稲田大学、海外では米国国防大学、ハーバード大学など
3)各自衛隊の幹部自衛官などに対する、安全保障や防衛戦略などの教育を行う各自衛隊の機関
4)各自衛隊の幹部学校では、統合教育の必要性を明確にして教育内容を見直したほか、統幕学校との連携を強化するなど効果的な統合教育の実現を図った。
5)統幕に附置される学校で、幹部自衛官に対し統合運用に関する教育を行っている。
6)わが国への直接の脅威を防止・排除するための演習である自衛隊統合演習、日米共同統合演習、弾道ミサイル対処訓練などのほか、国際平和協力活動などを想定した国際平和協力演習、捕虜などの取扱いについて演練する統合国際人道業務訓練などがある。
7)たとえば、陸自では、連隊・師団レベルの指揮・幕僚活動を演練するための指揮所訓練センター、中隊レベルなどの訓練を行うための富士訓練センターや市街地訓練場などである。
8)たとえば、戦車、対戦車ヘリコプター、ミサイル、長射程の火砲、地対空誘導弾(改良ホークやペトリオット)、地対艦誘導弾、魚雷などの射撃・発射訓練については、国内の射場が限られていたり、射程が長いため国内では射撃ができないものがある。また、広大な訓練場を要する大部隊の演習、比較的浅い海域で行う掃海訓練や潜水艦救難訓練、早朝や夜間の飛行訓練などにも、様々な制約がある。
9)敵の電磁波を探知し、これを逆用し、あるいはその使用効果を低下させ、または無効にするとともに、味方の電磁波の利用を確保する活動のこと
10)09(平成21)年5月、海上幕僚副長を委員長とする海自艦船事故調査委員会がとりまとめた再発防止策は次のとおりである。
<1>見張りおよび報告・通報態勢の強化
<2>運航安全にかかるチームワークの強化
<3> 運航関係者の能力向上による運航態勢の強化
<4>隊司令による指導の徹底
そのほか、自動操舵装置の使用に関する措置要領の策定、簡易型艦橋音響等記録装置などの整備、報告・通報の適正化といった再発防止策を継続している。
 
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