第III部 わが国の防衛に関する諸施策
第4節 国際平和協力活動への取組

22大綱では「グローバルな安全保障環境の改善」を、わが国の防衛力の役割の一つとして位置付けており、防衛省・自衛隊としては、紛争・テロなどの根本原因の解決などのための政府開発援助(ODA:Official Development Assistance)を含む外交活動とも連携しつつ、国際平和協力活動に積極的に取り組んでいる。
本節では、国際平和協力活動への取組について説明する。

1 国際平和協力活動の枠組など
1 国際平和協力活動の枠組

防衛省・自衛隊は、国際平和協力活動として、現在までに<1>国連平和維持活動(いわゆるPKO:Peacekeeping Operations)への協力をはじめとする国際平和協力業務、<2>海外の大規模な災害に対応する国際緊急援助活動、<3>旧イラク人道復興支援特措法に基づく活動ならびに<4>旧テロ対策特措法および同法の失効後は旧補給支援特措法に基づく活動を行っている。
(図表III―3―4―1・2参照)

図表III―3―4―1 自衛隊による国際平和協力活動
図表III―3―4―2 国際平和協力活動関連法の概要比較

参照 資料222355

2 国際平和協力活動の本来任務化の意義

新たな安全保障環境においては、国際社会の平和と安定がわが国の平和と安全に密接に結びついているという認識を踏まえ、16大綱における防衛力の役割の一つとして、「国際的な安全保障環境の改善のための主体的・積極的な取組」を定めた。この役割を適切に行うため、07(平成19)年、従来は付随的な業務1とされていた国際平和協力活動を、わが国の防衛や公共の秩序の維持といった任務と並ぶ自衛隊の本来任務2に位置付けた。

3 国際平和協力活動を迅速、的確に行うための平素からの取組

自衛隊が国際平和協力活動に積極的に取り組むためには、引き続き、各種体制の整備を進めるなど平素からの取組が重要である。陸自は07(同19)年7月より各方面隊などから持ち回りで派遣の候補となる要員をあらかじめ指定し、派遣ニーズに迅速かつ継続的に対応できる態勢を維持している。また、08(同20)年3月には、陸自の中央即応集団の隷下に中央即応連隊を新編し、国際平和協力活動への派遣が決定された場合に速やかに先遣隊が派遣予定地に展開し、準備を行うことができる体制を整えた。
同年以来、毎年1回、国際平和協力活動派遣に関する一連の活動の訓練などを行うことにより、迅速な海外展開能力や海外における的確な任務遂行能力などの維持・向上を図っている。10(同22)年1月にハイチで発生した大地震にともなうPKO派遣において、国連の派遣要請からわずか2週間余りという短期間で派遣できたことは、このような訓練をはじめとする体制の整備の成果であったと言える。
また、09(同21)年には、わが国は、国連PKOへのより積極的な参加を目指し、国連待機制度(UNSAS:U.N. Stand-by Arrangements System)3への登録を行った。12(同24)年6月末現在、わが国は、<1>医療(防疫上の措置を含む。)、<2>輸送、<3>保管(備蓄を含む。)、<4>通信、<5>建設、<6>機械器具の据付け、検査または修理、の後方支援能力を有する自衛隊の部隊、および、<7>軍事監視要員、<8>司令部要員、のポストに就く要員を提供する用意がある旨を登録している。
自衛隊は、国際平和協力活動のための装備品の改善・充実も進めている。陸自は、防弾ガラスやランフラットタイヤ4などを装備した各種車両や、インフラの未整備な場所でも活動ができるよう大容量発電機などを装備するとともに、多様な環境下での活動を可能とするため、輸送ヘリコプター(CH―47JA)のエンジン能力向上などを推進している。また、狙撃(そげき)銃、小銃などの射撃位置を探知する装備の研究も行っている。海自は、海外でのヘリコプター運用の基盤ともなる輸送艦およびヘリコプター搭載護衛艦を整備するとともに、固定翼哨戒(しょうかい)機を海外で効果的に運用するための海上航空作戦指揮統制システムの可搬化および機動運用などを推進している。空自は、多様な環境下で航空機と地上との指揮通信機能を保持するため、航空機用衛星電話などの整備や輸送機用自己防御装置の整備を推進している。これらの装備は、わが国における事態発生時などにもきわめて有効である。
また、陸自では、平素より部隊と家族および家族同士のコミュニケーションを促進して、部隊・隊員が安心して国際平和協力活動の任務に即応できる環境を構築するため、部隊と家族の交流施策も行っている。
さらに、駒門(こまかど)駐屯地(静岡県)の国際活動教育隊(中央即応集団隷下)において、国際平和協力活動へ派遣される陸自要員の育成、国際平和協力活動にかかわる訓練の支援などを行っている。加えて、10(同22)年3月、統合幕僚学校に新設された国際平和協力センターでは、11(同23)年10月より国際平和協力活動などに関する基礎的な講習を開始するとともに、平成24年度からは、国際平和協力活動などに関する施策および運用にかかわる企画・立案を担当する要員や国連派遣部隊の司令部で勤務する要員を養成するための専門的な教育を行っている。また、これらの教育を自衛隊員だけではなく、関係省庁職員や国際機関およびNGOなどの国際平和協力活動関係者なども受けることができるように検討している。

国際平和協力センターにおいて講義を行う空自隊員
国際平和協力センターにおいて講義を行う空自隊員
4 平和貢献・国際協力における「防衛装備品等の海外移転に関する基準」

11(同23)年12月27日、「防衛装備品等の海外移転に関する基準」の内閣官房長官談話が公表された。この基準により、平和貢献・国際協力にともなう案件についても、相手国の要請や安全保障環境などを踏まえ、防衛装備品などの供与による協力などが、より積極的かつ効果的に行えるようになった。これまでは、自衛隊のPKO派遣の際、相手国政府から自衛隊が使用した装甲板付き重機を供与して欲しいとの要請があったが、「武器」の供与にあたることから、その要請に応じることなどが困難であった。今後はこの基準を受け、例えば、自衛隊のPKO活動終了後に、相手国政府からの要請に応じて、自衛隊が使用した重機やヘルメットなどを供与することを通じ、現地での復興活動などの支援をすることが可能となる。

参照 第II部第3章第6節

5 派遣部隊の福利厚生やメンタルヘルスケア

国や家族から遠く離れ、困難な勤務環境下において任務を遂行することを求められる派遣隊員が、心身の健康を維持して任務を支障なく遂行できる態勢を整えることは、非常に重要である。
このため、防衛省・自衛隊では、国際平和協力活動などで海外に派遣される隊員が安心して職務に専念できるよう、隊員と留守家族の精神的不安を緩和する各種施策を行っている。
具体的には、派遣部隊の福利厚生施策として、隊員と留守家族の絆を維持するため、テレビ電話などにより派遣隊員と家族が直接会話できる手段の確保や、隊員および留守家族間のビデオレターの交換などを行っている。また、隊員の家族に対しては、家族説明会を開催して様々な情報を提供するとともに、家族支援センターや家族相談室などを設置して各種相談に応じる態勢をとっている。
さらに、メンタルヘルスケアの施策も行っており、派遣前の隊員にストレスの軽減に必要な知識を与えるための講習を行うとともに、現地では、カウンセリング教育を受けた隊員を配置するなど、隊員の精神面のケアに十分配慮している。加えて、派遣部隊に医官を配置するとともに、定期的に本国からの専門的知識を有する医官などを派遣(メンタルヘルス診療支援チームなど)し、現地でのストレス対処方法や、帰国後の家族および所属部隊の隊員とのコミュニケーションにおける注意点などについて教育を行っている。また、派遣を終えて帰国した後には、臨時の健康診断、メンタルヘルスチェックを行っている。

ハイチに派遣されている隊員に対し、 現地でメンタルヘルスチェックを行う陸自医官
ハイチに派遣されている隊員に対し、現地でメンタルヘルスチェックを行う陸自医官
6 国際平和協力の在り方に関する議論

10(同22)年10月から、東内閣府副大臣(当時)を座長として、内閣官房、外務省、防衛省の各担当副大臣なども参加して、わが国のPKOなどに対する協力の総括および今後のわが国のPKOなどに対する協力のあり方を検討することを目的として、「PKOの在り方に関する懇談会」を開催し、11(同23)年7月に中間取りまとめ5を公表した。中間取りまとめにおいては、より積極的な国際平和協力を可能とする上で、法制面や能力面において検討すべき幅広い課題を、今後の検討の基礎として整理した。
また、これまで国会などの場において、国際平和協力活動のためのいわゆる「一般法」の整備をめぐる議論が行われている。現時点において、政府として「一般法」の整備についての具体的な作業に着手しているわけではないが、わが国が国際社会の平和と安定のため積極的な協力を行うに際し、どのような活動を行うべきかを含め、様々な課題につき研究していく必要があると考えている。


1)自衛隊法第8章(雑則)あるいは附則に規定される業務
2)自衛隊法第3条に定める任務。主たる任務は「わが国の防衛」であり、従たる任務は「公共の秩序の維持」、「周辺事態に対応して行う活動」および「国際平和協力活動」である。
3)国連PKOの機動的展開を可能にする目的で、94(平成6)年に国連が導入した制度。国連加盟各国が、国連PKOの軍事部門に提供可能な能力、要員数、派遣に要する期間などを予め国連に登録しておくことにより、国連PKOの展開に際して、国連から各国への派遣の打診の迅速化・円滑化を図るもの。なお、登録に基づき国連から派遣要請がある場合も、実際に派遣するか否かは、各国が個別に判断することとなる。
4)被弾などにより空気が抜けても安定走行が可能なタイヤ
5)PKOの在り方に関する懇談会「中間とりまとめ」<http://www.pko.go.jp/PKO_J/info/pdf/20110704.pdf>参照
 
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