第II部 わが国の防衛政策の基本と動的防衛力
第6節 最近の動向を踏まえた取組
1 宇宙開発利用に関する取組

専守防衛を旨とするわが国にとっては、各種事態の兆候を事前に察知するための情報収集機能やわが国周辺海空域の警戒監視機能を強化する上で、また、自衛隊が国際平和協力活動などにおける通信手段などを確保する上で、いかなる国家の領域にも属さず、地表の地形などの条件の制約を受けない宇宙空間の利用は極めて重要である。
08(平成20)年5月、宇宙基本法1が成立し、施行されたことを受け、わが国における宇宙開発利用は、国際約束の定めるところに従い、日本国憲法の平和主義の理念に則り行われることがより明確となった。また、国は、国際社会の平和および安全の確保ならびにわが国の安全保障に資する宇宙開発利用を推進するため、必要な施策を講ずることとされた。
宇宙基本法に基づき、内閣に設置された宇宙開発戦略本部は、09(同21)年6月、宇宙を活用した安心・安全で豊かな社会の実現、宇宙を活用した安全保障の強化など6つの方向性を柱とした宇宙基本計画を決定した。
また、22大綱において、情報収集および情報通信機能の強化などの観点から、宇宙の開発および利用を推進することとされた。
一方、防衛省においては09(同21)年1月に、宇宙開発利用推進委員会において、「宇宙開発利用に関する基本方針について」(基本方針)を決定した。基本方針においては、個々の装備品やシステムを有機的に連接させることにより、状況把握、情報共有、指揮・統制などの高度化を実現し、装備の集合体として最大限の能力を発揮することに防衛力の整備の重点が置かれていることを踏まえれば、防衛分野において宇宙空間の特性を利用することは極めて有益であり、特にC4ISR2の機能を強化する有効な手段であるなどの考え方を示している。
今後、防衛省としては、宇宙基本計画、22大綱、基本方針などを踏まえ、関係府省との連携を図りつつ、安全保障分野における宇宙開発利用を推進していくこととしている。平成24年度においては、<1>宇宙を利用したC4ISRの機能強化のための調査・研究、<2>Xバンド衛星通信の整備・運営、<3>米空軍宇宙基礎課程への派遣などの事業に取り組むこととしている。このうち、Xバンド衛星通信の整備・運営は、防衛省・自衛隊で作戦部隊の指揮統制などのために使用している通信衛星のうちの2機(スーパーバードB2号、D号)が平成27年度中に設計寿命を迎える予定であることを踏まえ、これら衛星通信網の再構築を行うものである。再構築に際しては、昨今の通信所要の増加に対応できるよう、対妨害性にも優れた高速大容量通信を可能にするほか、通信システムの統合を進め、動的防衛力の構築に資するものとする。また、費用対効果の最大化を図る観点から、PFI:Private Finance Initiative3方式によって事業を行うこととし、平成24年度予算において衛星の製造から設計寿命までを通じた19年分の所要経費(約1,224億円)を計上しているところである。本事業では、入札などについては一般競争入札により透明性、公正性を担保した上で、安全保障の観点から提案内容を厳密に審査し、適切な管理体制や保全措置を取ることを求めることとしている。


1)<http://www.kantei.go.jp/jp/singi/utyuu/about2.html>参照
2)Command, Control, Communication, Computer, Intelligence, Surveillance and Reconnaissanceの略で、「指揮、統制、通信、コンピュータ、情報、監視、偵察」の各機能の総称
3)III部4章2節2参照
 
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