第III部 わが国の防衛に関する諸施策
6 東南アジア諸国との防衛協力・交流

東南アジア諸国は、わが国と中東地域や欧州地域とを結ぶ海上交通の要衝を占める地域に位置するとともに、わが国と密接な経済関係を有している伝統的なパートナーである。東南アジア諸国との安全保障上の諸問題に対する信頼・協力関係を増進させることは、わが国と東南アジア諸国の双方にとって有意義である。また、東南アジア諸国は、ADMMプラスやARFのメンバー国であることから、多国間の枠組みでの協力を見据え、各国との信頼・協力関係を構築していくことが重要である。
特に、次に記述するインドネシア、ベトナム、シンガポールおよびフィリピンに加え、カンボジア、マレーシアおよびタイとは様々なレベルにおいて、防衛協力・交流のあり方、地域における安全保障協力の枠組に関する意見交換を活発に行っている。また、防衛当局者間の協議、部隊間交流や留学生の派遣・受け入れなども積極的に行っている。さらに、これまで防衛協力・交流が活発ではなかったミャンマー、ブルネイおよびラオスとの関係強化にも取り組んでいる。

1 インドネシア

インドネシアは、東南アジアの過半に迫る国土と人口を有し、島嶼国家としては世界最大であるとともに、この地域の大国である。インドネシアとは、11(平成23)年1月のプルノモ国防大臣訪日をはじめとして、12(同24)年6月のシャングリラ会合の際の渡辺防衛副大臣とプルノモ国防大臣との会談では、防衛大臣間の定期協議の開催、防衛協力の覚書やADMMプラスの枠組での協力に関し意見交換を行った。これに加え、11(同23)年9月の国防次官訪日および23年度中の陸・海・空幕長級の会談などを通じて防衛協力・交流が大きく進展している。特に11(同23)年1月のプルノモ大臣の訪日時に、わが国と縁の深いスディルマン将軍の銅像がインドネシアより寄贈された。同将軍の銅像は、日インドネシア間の友好・親善協力の発展を象徴するものとなっている。また、11(同23)年6月にユドヨノ大統領が訪日した際、菅内閣総理大臣(当時)との間で、防衛大臣間の協議の定期化で合意された。実務レベルにおいても11(同23)年11月から開始された外務・防衛当局間協議、防衛当局間協議、各種教育・研究交流など知識・経験の共有に関し実績が積み重ねられている。

2 ベトナム

ベトナムは東南アジアの大国であり、アジアの平和と繁栄のための戦略的パートナーである。経済分野のみならず、安全保障・防衛の分野においても協力を深めている。11(同23)年10月、ズン・ベトナム首相が訪日した際、日越共同声明を発表するとともに、同月にはタイン・ベトナム国防大臣が国防大臣としては13年ぶりに訪日し、日ベトナム防衛相会談を行い、海上安全保障を含む国際および地域の安全保障情勢について意見交換を行った。会談後、日越防衛協力・交流に関する覚書に署名し、ハイレベル交流、次官級対話の定期的実現および人道支援・災害救援などの分野における協力を推進していくことで一致したところであり、戦略的パートナーシップ発展のために重要な訪日であった。また、12(同24)年1月、下条防衛大臣政務官がベトナムを訪問し、タイン国防大臣を表敬したほか、ベトナム国防次官と意見交換し、地域情勢および日越防衛協力について議論した。このようにベトナムとは、防衛協力・交流の覚書やハイレベル交流などの防衛協力・交流の枠組が整備された。
また、11(同23)年12月には第2回日ベトナム戦略的パートナーシップ対話(外務・防衛当局間)、防衛当局間協議も行われており、今後は、防衛協力・交流の覚書を基礎として、より具体的・実務的な協力を実現すべく関係を強化することが重要である。

日越防衛協力・交流覚書に署名する一川防衛大臣(当時)と タイン・ベトナム国防大臣(東京11(平成23)年10月)
日越防衛協力・交流覚書に署名する一川防衛大臣(当時)と
タイン・ベトナム国防大臣(東京11(平成23)年10月)
3 シンガポール

シンガポールは09(同21)年12月に、わが国が東南アジア諸国の中で最初に防衛協力・交流の覚書を締結した国であり、この覚書に基づき協力関係が着実に進展している。特に、シンガポールとの防衛当局間協議については、わが国と東南アジア諸国の間では最も歴史があり、11(同23)年11月にシンガポールで12回目の協議が開催され、地域情勢や安全保障問題など、幅広い事項について議論された。
ハイレベル交流では、12(同24)年6月のシャングリラ会合において、渡辺防衛副大臣がウン国防大臣と会談し、地域情勢や海上安全保障についての意見交換を行うとともに、双方が共同議長を務めるADMMプラス防衛医学専門家会合(EWG)でのさらなる協力を行うことで一致した。

4 フィリピン

フィリピンとの交流は、11(同23)年9月のフィリピン国防次官訪日、12(同24)年6月の渡辺防衛副大臣のフィリピン訪問などのハイレベル交流のほか、艦艇の訪問や当局間協議をはじめとする実務者交流が頻繁に行われている。特に、海自・フィリピン海軍間の交流に関しては、11(同23)年9月に初めて日フィリピン海洋協議が東京で開催され、こうした交流について議論された。同月に訪日したアキノ大統領とともに野田内閣総理大臣が発表した日比共同声明において、日フィリピン海洋協議を歓迎し、海幕長級の相互訪問、海自艦艇のフィリピンへの寄港など、両国の防衛当局間の交流および協力を推進していくことで一致した。また、同声明で明記された海幕長のフィリピン訪問を11(同23)年11月に、フィリピン海軍司令官の訪日を12(同24)年4月にそれぞれ実現するとともに外務・防衛当局間および防衛当局間協議が、12(同24)年3月にマニラにて開催された。
(図表III―3―2―7参照)

図表III―3―2―7 最近の東南アジア諸国との防衛協力・交流の主要な実績(過去3か年)
杉本海幕長とパマ・フィリピン海軍司令官 (東京12(平成24)年4月)
杉本海幕長とパマ・フィリピン海軍司令官
(東京12(平成24)年4月)
 
前の項目に戻る     次の項目に進む